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美しき鬼1

5000拍手記念リクエスト 第2弾
みかん様のリクエストです。

Beautiful Vampire の劇中劇を とリクエストを頂きました。
劇中劇とは少し違った趣になりましたが、絢子と彼の過去を知る手がかりとしていただけましたら嬉しいです。

注):冗談一切抜きの作品となっています。
設定上、不快・不適切な表現などあるかと思いますが、ご了承ください。






はあっ!はあっ!はあっ…!

がさがさと草むらを走る男
傷を負った片腕が痛む…

『追え!逃がすな!姫様に取り付いた悪霊ぞ!逃がすなー!!!』
『鬼!寄るな!!鬼などとは思いもよらず!!!』
『人殺し!!』
『そなた…奴らを喰ろうておくれ…』

意識が朦朧として、記憶が混乱する…
これは…今の俺の記憶だったのか…それとも、いつの記憶か…

駆け込んだ神社の裏山に、身を潜ませる…
御神木であろう大木の根元に滑り込んだ。この小さな洞穴ならば風雨もしのげる…

“神よ…八百万の神よ…我をお守りください…”

神仏に祈りを捧げても、詮無き事と既に分かっている。
神仏が、己に味方する事など無いのだ。

腕を切り刻まれても、胸にクイを打ち込まれても、生き延びてきた己の身体…いかに回復に時間がかかっても、銀の刃物で首を落とされぬ限りは、命が耐えることは無い…だが…今回は別だ…。
己の体が銀によって焼けることは、いつの頃か気が付いていた。
文明開化以降、西洋からもたらされた吸血鬼を狩るための方法…それは、木の杭ではなく、その銀の刃を用いる。
鋭い銀の刃で傷をつけられれば、いかな不死の吸血鬼であろうと、致命傷を免れない。

浅く息を吐きながら、もうこれまでか…と腹をくくる。
己の生き様が走馬灯のように流れ、男は目を閉じた…。



美しき鬼 1 ~Beautiful Vampire 特別編~




ぴちょん… ぴちょん…

湿気の中、滴る水滴の音に気がついた。

「大丈夫?」

じっと自分を見つめる黒々とした瞳…

「これ…食べて?」

少女に頭をゆっくりと起こされて、口に流される薄い粥
ゆっくりと喉を通っていく間に、久しぶりの飢餓感が襲う。

二口…三口…米粒の欠片など見えない薄い粥が、空っぽの胃に染み渡る。

身体を起こそうとすると、あちこちに鋭い痛みが走った。

「怪我…いっぱいしてたから…」

辛うじて、首を上げると、布の切れ端が身体のあちこちに巻かれ、練った蓬の匂いがする。
ほう…と息を吐いて、お下げ髪の少女に声をかけた。

「あり…がとう。助かったよ……君は?」


「…絢子」

「…俺は、蓮…」





絢子が蓮の元へ来るようになって、蓮の身体は少しずつ回復を始めた。
銀の刃で出来た傷は切り傷と火傷の合わさったような傷だったが、絢子の取ってきた蓬の葉で徐々に癒えていった。
蓮の大きな身体を動かすには絢子は幼すぎ、苔生した薄暗い洞穴でしばらく過ごした。
ようやく身体を起こせるようになり、蓮と絢子はぽつぽつと言葉を交わし始めた。

「絢子は…俺が怖くないの?」
「全然?だって、蓮様、動けないもん」
「クス…分からないよ?急に回復して、ガーッと絢子を食べちゃうかも」
「きゃー!怖い!…なんて…嘘。だって、蓮様は、そんなに優しい、綺麗な目をしてるのに、絢子を襲う筈ない。そうでしょ?…村の大人はもっと汚い…みんな、ぎらぎらしてて…怖い…。」

急にしゅん…となった絢子の頭を撫でると、絢子はへへへっと笑った。

「もう少ししたら、お母さんも帰ってくる。そうしたら、蓮様にもう少しいい御飯が食べさせてあげられるからね…?」

その優しさが愛しかった…。
だが…それは無理な話だろう。
十にも満たない絢子を残して、出稼ぎに出る母親…絢子の家はそれほどまでに貧しい。父親がいない小作の生活。村のはずれのあばら家暮らしでは、食うや食わずで…蓮を養う余裕などあるはずも無い。
現に絢子も痩せて、衣服も薄汚い。
それでも、生き抜く知恵があるこの娘は、わずかな米を粥にし、野草を取り、芋を探して生きてきたのだろう。

そうまでして生きて何になる?裕福な者と貧しい者の差がはっきりとあるのだ。この世に生きて楽しい事など…何もないというのに…

蓮は目を閉じた…



自分の身体に違和感があったのはいつだったろう…?
かの御方の御前試合で勝った夜、頭を殴られ崖下に突き落とされた。
目の前に天女が舞い降りたと思ったのは傷が見せた夢だったのだろうか…混濁する意識の中で掬い上げられた身体、囁かれた言葉…辛うじて一命を取り留めた後から、己の身体が急速に回復を始めた。

怪我もせず、病気もしない…
そのうち、周りは皆、年をとった。
なのに、白髪の一本たりとも生える気配もなく、皺さえ寄らぬ己の身体…
周囲が気味悪がり始め、妻は枯れ細るように老いて、死んだ…

悲観にくれて川に身を投げた後、気がつけばまた陸にいた…。
都は戦禍に滅び、あちこちで業火の炎が上がる。
生きて…落ち延びて…ふとした瞬間に、喉が焼け付くような飢餓感に襲われた。

初めての吸血、初めての生命の味…
鬼と呼ばれ、おぞましい己の身体を呪い、何度も命を投げ打とうとした…それでもまだ、生きていた。

やがて、生き血を吸う事で生きながらえる事を覚え、交わる事で生気を得ることを知った。生きるために人を騙し、女を喰らうために寄生する。一角の地位まで登り詰め、享楽に生きた時代もあった。時には追われる身となり、幾度となく身を隠した。時代は変わり、住処も変わり、身に付ける衣服が…人の言葉が変わる…。
江戸から明治…大正…昭和へと移った。


やがて、絢子は母が戻ると言う…ならば、このあたりで潮時だ。
女人を誑かしては生き血を啜る“鬼”の存在は、やがて絢子の耳に入るだろう。
そうなる前に、この子の前から姿を消さねばなるまい。

初めて人に頼り、回復せねばらならかった。
まさか、己が神仏に祈ってまで残したい命があろうとは…

皮肉にも、長く生き過ぎた命。
いつ果てても悔いなどなかったであろうに、神仏に命を請い、偶然にもこの小さな娘に助けられた。
ならば…この娘に拒絶され、心が引き裂かれる言葉を浴びせられる前に…いや、この娘の命を奪ってしまう前に去らなくてはならない…。

「蓮様…寝ちゃったの?」

己の手にそっと重ねられる小さな手の温もり…
その温もりをもう片方の手で包み込み、仄かに湧き上がる渇きを飲み込んだ。



(続く)
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非公開コメント

私に書けないやつです。

すごいです。その一言。
かばぷー様はやっぱりパラレルも素敵。大好きな映画みたい。
時代の匂いが、痛かった時代が、文章から見えてきます。
本当にうらやましい。
続き、楽しみにしてます。

Re: 私に書けないやつです。

> ぽてとたべたい&ぽてとあげたい 様

お褒めに預かり、光栄です。
本当にリクを頂いて、心の中だけで溜めていた物を表に出すチャンスに恵まれました。
イメージは蓮キョだけど、実際は蓮キョで無いもの。
小さい絢子は小さいキョーコ。
大きい絢子は今のキョーコ。

でも、性格も何もかも違うパラレルなので心配ですが、楽しんでいただけると嬉しいな。

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