ハレの特異日 2

「今日も深いね、最上川。」

二人を見送った後、共同経営者の藤道が冴菜に声をかけた。

「藤道さん…。余計なことをして下さいましたね。」
冴菜は、ジロリと藤道氏をねめつけた。






ハレの特異日 2




「いや?心外だな。俺は至極当たり前に面談の予約を入れただけ。」

「そうですか。すみません…。」

「アレが娘さんを射止めた男なんだね。敦賀アナウンサー…、いい男じゃないの。」

怪訝そうに冴菜は藤道を見た。

「…そうでしょうか?」

「今時珍しい。こちらの事情を知っての行動だろう?」

「……。」

「それに少なくとも、調べたところでは何も出てきてなかったように思うが?」



そう…、どこをどう調べても、浮いた噂はない。
仕事関係、人間関係ともに良好。酒癖も女癖も悪くない。
キョーコとの交際にあたり、付き合うよりもかなり前から女性関係は清算されていたようだ。
だが、外見がああだから仕方ないことだが、女性に非常にもてていたことを知る。
しかし、過去に二股は無いようなのに、すべて女性から別れを切り出されている。

なぜか…?
ご丁寧にも過去の女性たちの証言で分かったことだが、彼はフェミニストで、とても大事にされたと…。だが、自分に恋して欲しかった。心から愛して欲しかった…。と述べていたようだ。

だが、今日見たあの男の表情は…、

キョーコを見つめる、蕩ける様な眼差し。
語りかける口調の甘い響き。

(娘は愛されている…。)

そう実感するのに十分な時間だった。

だから、帰り際、冴菜はキョーコを呼び止めて聞いた。

「キョーコ…、あなた…幸せなの?」

キョーコは頬を染めて、コクンと頷いた。
冴菜の眉間が緩む。

「はい…。お母さん、私…彼といて、とても幸せなんです。」
  
  *
  *

そう言ったキョーコの顔を思い出し、冴菜は、深く溜息をつく。
自分は娘にあんな幸せな表情をさせたことがあっただろうか?

「最上…、キョーコちゃんが出て行った後、テレビ画面で彼女を確認する姿を俺は知っている。そして、変化に気付いたことも知っている。認めてあげるんだね。」

「…分かってるわ…。」

そう、たとえ自分勝手に出て行ったとはいえ、大事な娘。
キョーコを傷つけると分かっていながら、突き放すことしかできなかった。そんなふがいない自分だが、安否だけは確認していた。
だからある時、画面の向こうのキョーコに変化が起きているのを冴菜は見逃さなかった。

(恋をしている…?)

調べると、すぐに浮かび上がる1人の男。
いつか、こんな日が来るかもしれないと思いながら、もしかしたら騙されているのかもと不安が拭えなかった。
だが、調べれば調べるほど、自分のように騙されていないことを知る。

今日、その男を目の当たりにして、冴菜は心のどこかで安堵したのかもしれない。
深くなりすぎた眉間の皺を、己の人差し指でなぞり、また一つ溜息をついた。


*****


「蓮さん…、母が失礼なことをして、すみませんでした。」

キョーコが、申し訳なさそうに腰を折る。

「何が?…ああ、調査のこと?」
「…はい。興信所を使うなんて、そんなこと…。」
「う~ん…、分からなくもないな。キョーコのことを思えばこそだったんだろう。」
「すみません…。」
「大丈夫。気にしないで。寧ろ俺にとっては好都合かもね。」
「…?…」
「ん?いや、気にしないで。」

に~っこり!と煙に巻くように蓮が笑う。
蓮にとっては、痛くもかゆくもない。
所詮、調べたところで、出てくる女性関係は既に清算済み。前回のストーカーまがいの行為だって、キョーコの許しを得た。きっと、今までの女性と扱いが格段に違い、隠す気もなく本気だと証明することしか出てきやしない。

 -----だって、その通りなんだから。


「さ、キョーコ、京都観光だ。案内して?」

笑顔でおねだりすれば、やる気を出す可愛い恋人。

「はい!まずは、伏見稲荷にご案内します!」
「鳥居で有名なところだよね?楽しみだな。」




真っ赤に彩られた何本もの鳥居…。
どこかで見たCMとリンクする。
京都の茹だるような暑さの中にも、緑に映える神秘的な佇まい。

“桜の季節に来たら、凄く綺麗だろうな…”とか、“紅葉の季節もいいな…”とか、再びここに来たいと思わせる場所。
キョーコと二人で歩く未来が待ち遠しい。

「蓮さん、清水さんや南禅寺は有名ですが、もう行かれましたか?」
「うん、一度行ったきりだけど。金閣寺と銀閣寺にも行ったことがあるけど、行く?」
「…いえ、暑くて汗びっしょり。少し涼みに行きませんか?」
「涼みに?」

キョーコが案内してくれたのは、貴船神社だった。

日本有数のパワースポットとして有名になった貴船神社。
確かに、市内よりぐんと涼しい…。

「ここは、伊弉諾尊(イザナギノミコト)の御子神である高靇神(タカオカミノカミ)が御祭神として祀られています。この高靇神は水を司る神で、降雨・止雨を司る龍神と言われていますけど、最近有名なのは縁結びなんです…。」
「へぇ…、縁結び。」

キョーコが少しだけ頬を染めて、説明する。

「夜の怖~いお参りでも有名だそうですけど?」
「怖い?」
「丑の刻参り…ふふ。でも夕方だから大丈夫です。お参りしたら、川床に行きましょう?」

涼やかな川床で、京料理に舌鼓を打つ。
河のせせらぎを聞きながら、キョーコと会話を交わし、少しだけお酒も呑んで…。


宿は閑静な竹林にある一軒。
蒸し暑い京都の夜に、涼を求めて竹林の音を聞く。

さらさらと通る風は、青々しい竹のにおいがする。



障子越しの月明かりに照らされ浮かび上がる白い肌
少し赤らんだキョーコを抱きしめながら、蓮は囁く。



「明日は、一緒に竹林を散歩しよう…。」



京都の夜は、しっとりと更けていった。



(3に続きます)

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