ハレの特異日 3

まだ夜が明け切らぬ中、さらさらと竹の葉が擦れる音が聞こえる。

(あぁ…、気持ちいい…。)

柔らかな肌のぬくもりが、傍にある。
その喜びがここにはあった。




ハレの特異日 3




しっとりと汗ばんだ昨夜の肌も、今朝のさらさらとした滑らかな肌も、自分一人だけが知るキョーコだと嬉しくなる。
腕の中の心地よい重みを愛おしく思っていると、ピクリと長い睫毛が揺れて、もうすぐ目覚める予感。

「おはよう…キョーコ。」

「ん…。」

まだ、開かぬ瞼にそっと唇を寄せると、もぞもぞと顔を擦りつけてくる。

「散歩…行かない?」
「うん…もう少し…。」

むにゃむにゃと微笑んで応える。

「少しだけ、こうしてても…いいですか…?」




(ああ、もう、どうしてくれようか?)



こんなに可愛いのは反則だ。と蓮は切実に思う。
また、むくむくと欲望が湧きはじめるじゃないか。

必死に込み上げる何かを我慢して、キョーコの髪を優しく梳いた。

「キョーコ…あんまり、誘惑しないで?我慢できないから。」
「してませんよ?」
「してるよ…。もう、困ったな。」


「ふふ…、困った敦賀蓮…知ってるのは私だけ?」
「そう、キョーコだけ。何?まだ気にしてたの?」
「少しだけですよ?」

口元を少しだけ突き出して、拗ねた様に笑う。

「俺の初めて、実はキョーコにずいぶんとあげてるって話だけど。」

「…聞きたい。」
「今?」
「ん…。今…。」

蓮は照れくさそうに少し頬を赤らめて、神々しい笑顔をキョーコに向けた。

「まず…ね、今日みたいな朝を迎えて、嬉しいと思ったことが初めて。」
「…え?」

「自分から会いたいって電話するのも、逃げられて追いかけるのも、勿論キョーコが初めて。」
「それ、前にも言ってましたね。」

「そう。今回は旅行に誘ったでしょ?キョーコが初めて。」
「…はい?」

「あの家に、女性を入れたのも君が初めて。ハウスキーパーさんは除くよ?」
「あの人は?」

「他の女性は誰も入れたことない。」
「じゃあどこで…」

「それは秘密。聞いちゃダメ。女の子に自分から鍵を渡したのも、キョーコが初めて。う~ん、調理セットを買ってきたのも、キョーコだけだから…そうか、料理を作って欲しいって頼んだのもそうだ。お風呂に一緒に入ろうなんて言った事もなければ、下着を洗ってくれたのもキョーコが初めて。」

コクコクと思い出すように、蓮が頷く。

「そういえば今までは、告白されたり誘われたりはあったけど、大概は、向こうから連絡があって、待ち合わせの場所に行って、デートして…用事が済んだらさようなら?俺から連絡を取ることはあんまり無かったような…。」

「それって、付き合ってるって言うんですか?」
「さあ?俺はそう思ってたけど、キョーコと付き合ってみると全然違うね。」
「ちがうの?」
「デートに誘うのも、迎えに行くのも、手を自分からつないだのも、自分からキスするのも、抱きしめるのも俺から。…やきもち焼いたり、嫉妬したり、会えなくてイライラしたり…、他の男と一緒にいるところを見て頭に血が上るなんて、キョーコが初めてだよ。」
「それって、全然違います…よね。」
「違うね。今は俺から連絡取って、迎えに行って、帰らせたくなくて、柄にも無く引き止めて、困らせて…。どんなプレゼントが気に入るのか分からなくて何時間も悩んだり、キョーコに嫌われたくなくて、好きって言うのも言えなかったりするんだよ?そもそも、自分から好きって、キョーコ以外に言ったことないし。」

「じゃあ誕生日プレゼントとかは?」
「ああ、流石に自己申告されて、アピールされたらプレゼント位はするでしょ。その辺は普通かな。でも、自分から誕生日を聞いたのは、キョーコが初めてだよ。記憶のある限りでは。」

「そう…なの?」
「ついでに言うと、傍に一晩女の子が寝ていて、何もしなかったのも、いや、何もされなかったのも、実はキョーコが初めて。酔った子を連れて帰るなんてありえないし。ちなみにゲロ吐かれたのもね。あの時も甲斐甲斐しく世話しちゃって、自分がびっくりした。」

「あの…それって私、かなり面倒くさいってことですか?」
「何が面倒くさいの?」
「だって、デートの約束して、電話して迎えてくれても、お断りとかしょっちゅうするし、拗ねるし、怒るし、泣くし、喚くし、吐くし、挙句に好きって言わせるし。」

「いや全然? 寧ろ、心地よくて不思議。」
「今までは?」
「あぁ~だから…それ、聞いちゃダメ。一応紳士ってことにしといて。」

「似非紳士?」
「…否定しません。」
「天然タラシ?」
「タラシてません。スケコマシでもありません。詐欺師でもありません。」


蓮は、キョーコの額に口付けた。


「だから…。」
「だから…?」

「そう。だから“責任取って”って言ったの。」
「そういえば言われました…ね。」

「安心して俺の格好悪すぎな初めてを、たくさん貰って?」
「格好悪すぎなのを貰うんですか?」

「そう、格好悪すぎな俺。嫌い?」
「嫌いなわけないじゃないですか。そもそも、蓮さんは格好悪くないです。」

「ありがとう。こんな報告も、実はかなり格好悪いんだけどね。」


はぁ~と大きな溜息をついてみせる。


「キョーコは初めて俺が結婚を申し込んだ、ただ一人の女性です。だから、一緒に京都に来たんだ。お願いだから嫌わないで?」

「嫌いになんてなりません。」
「ホントに?」
「本当です!ただ、こんな私のどこがいいんだろうって、たまに思っちゃうんです。」
「―――え?どこがって、最高だよ?」



「…は?ドコガデスカ?」

「参ったな、自覚なしか…。」




蓮はキョーコをじっと見つめると、照れくさそうに頭を掻いて溜息をついた。



「君の素敵なとこなんて、上げるとキリがないんだけど…。」



次第にその瞳は熱を帯び、爽やかな朝の筈なのに、夜の帝王が再び顔を出す。




「…ゆっくり…教えてあげるよ?どんなに君が綺麗で、どんなに俺を蕩けさせるか…。」




朝の竹林散歩は、当分後になりそうだ。





(4に続く)



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