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ハレの特異日 4

少し太陽の位置が上がった竹林散歩の途中、一本の電話に蓮は動きを止めた。

画面の主は、

――― 松島部長

蓮は大きく溜息をついた。




ハレの特異日 4



(なんだろう…?緊急?)

電話に出ない蓮を不思議に思って画面を覗きこむキョーコも、怪訝そうな顔をした。


「出ないんですか?」
「…悪い予感しかしない…。」



そうしているうちに、呼び出し音は止まる。
…かと思ったら、次に鳴り出すキョーコの電話。


「出ないの?」
「…悪い予感がします…。」




画面を見ると

――― やはり松島部長

“はぁっ…”と溜息をついて、キョーコは通話をタップした。

「はい、最上です。」
『あ!やっと出た。おはよう!最上君。休暇中申し訳ないが、そこに蓮いる?』
「…おはようございます。敦賀さんに代わりますか?」
『ああ、頼む!急用なんだ。』

キョーコがスマホを差し出すと、蓮は恨めしそうに宙を睨んでそれを受け取った。


「おはようございます。代わりました。」
『おお、すまんな蓮。ちょっと急用で仕事を頼みたいんだが。』
「仕事…ですか?分かってます?休暇中なんですけど。」
『分かってるって~~。だから頼んでるだろう?社長命令で、どうしてもって言うから。』

「…社長命令…で?」
『そう!社長命令。今、京都だろう?だから頼むよ!』
「は?何で知ってるんですか!?」
『いや、だって最上君の休暇届に書いてあったから。お前がダメなら最上君に頼む。最上君に代わってくれ。』



「~~~~~~!しれっと言わないで下さい。」

「だって、お前に頼めないなら、最上君に頼むしかないじゃないか。」

「もう、何なんですか?その仕事。」
『あ、やってくれる?なに、大したことじゃない。11時に京都駅北口に京都はんなりテレビの琴南ディレクターがいるから、彼女の手伝いしてやって欲しいんだ。じゃ、頼んだぞ!』
「ちょっ…!部長、11時って!(プーップーッ…) 切った…?ああ、もう!」

「蓮さん、まさか…お仕事?」

「キョーコ、真面目に休暇の理由、書いたね?」

「え!?…う…はい。すみません。」

「はぁぁぁ~~~~~~~~っ。」

ぐったりと憔悴の色を濃くした蓮を見て、流石に慌てるキョーコ。

「ごっ…ごめんなさい!」

「ふぅ…まあ、いいや。11時に京都駅。急ごう。遅刻する。」


我ながら、キョーコに甘いと思う。
でも、自分が断ればキョーコに頼むといわれたら、キョーコは絶対に断れない。
代わってやりたいと思うのは、やはり甘いせいだろうか?
加えて、琴南ディレクターの仕事だったら、自分が請けて損はないかな。と、瞬時に頭が計算する。


「退職前の大盤振る舞いとするか。」

竹林散歩は名残惜しいが、とりあえず荷物をまとめて京都駅へと向かった。



***



タクシーが北口に着いたのは、10時50分。ギリギリだ。
そこには京都はんなりテレビの琴南奏江ディレクターが、腕組みをして待っていた。

その姿を見つけた蓮は少々げんなりし、変わりにキョーコの顔は、ぱぁぁぁぁっ!と輝いた。
タクシーを降りた途端、ダッシュで駆け出すキョーコ。

「モー子さぁぁぁぁ~ん!!久ぶりぃぃぃ~~!!」
「キョ?キョーコ?何で、アンタがここに?」

そんなキョーコの姿を見て、ぎょっとしたのは蓮だった。

「キョーコ、琴南ディレクターと知り合い?」
「はい!高校のときの同級生なんです!」
「ええ、腐れ縁ですけど。敦賀さん流石、無遅刻キングですね。今日はお世話になります。」
「いや、こちらこそ。そうだったんだ。」

嬉しそうなキョーコの姿に、蓮はほっとした。
これなら、待ち時間も苦にならないだろう。

「早速だけど、台本見せてもらえる?」
「はい、こちらです。どうぞ。もーっ!!ちょっと離れなさいよ!うっとおしい。」
「えー。モー子さん冷たい~。」
「冷たくない!敦賀さんがびっくりしてるわよ!もー!離れなさい!」

ぎゃー、ぎゃーと京都駅という公衆の面前で繰り広げられるこれは、いったい何だろう?
いつもは鬼のような形相で、無理難題を吹っかけてくる、若くて切れ者の琴南D。かたや、それに抱きつく、いつもとは違う姿の愛しいキョーコ。
同級生と言ったって、これはあんまりだろう…?
もやもやするけど、まあ、相手は女性だ。

「今回敦賀さんにお願いしたいのは街レポなんです。視聴率が欲しいので。読んでいただいたらすぐに分かるかと思います。」
「まあ…内容は読めたけど、俺じゃなくてもよさそうなのに。」
「今、視聴率が欲しいって説明しましたよね。ウチ、お金ないんで。」

さっさと準備してくれといわんばかりに、ちらりと蓮を見る。

「お金がない時は下手なお笑いタレント頼むより、敦賀さんの方が確実で、撮れ高もオッケーですし、英語も堪能で通訳も頼まなくていいから、一石二鳥…いえ、三鳥なんです。それより、キョーコを何とかして下さいません?仕事になりゃしない。」
「ひどぉい!」
「キョーコ、琴南Dが困ってるよ。こっちにおいで?」

奏江から引き離されて、プクリとほっぺを膨らすキョーコを見てつい笑ってしまう敦賀蓮。
そんな蓮を見て、奏江も違和感が拭えない。

(敦賀さんって仕事が出来る印象しかないけど、なに? このデレデレ。)

まあ、蕩けるような顔をして…色男も肩無しだ。

キョーコを引き剥がした後、蓮をカメラの前に誘導する。

「今日はもしかして、結婚報告だったんですか?」

「え?あ…琴南さん、知ってたんだ。」

「ええ、まあ。メールで彼氏が出来たことは、教えてもらっていましたけど、あの子の相手が敦賀さんとは知りませんでした。手強かったでしょう?あの子の母親。」

「まあ、手強いっていうのかな…。どうだろ?」

「それを聞いて安心しました。そっか…会えたんだ。あの子の事お願いしますね。」

キョーコの事情を知っているのだろう。ほっとしたように呟いた。

「さ!スタンバイお願いします。メイクは大丈夫そうですね。嫌味なほど結構な色艶ですから。」

「嫌味なほどって…。」

「敦賀さん、入りまーす。カメラさんお願いします。」



* * *



『皆さんこんにちは、今日はこちら。京都駅にやってまいりました。』

京都駅がズームアップ
そして、また蓮にフレームが戻る

『のんびり京都を歩こう。京都の魅力再発見!今日のナビゲーターは、私。敦賀蓮が京都の町を案内します。京都の町並み、今の季節ならではの京都の魅力をお届けします。では、早速参りましょう!』



カメラの前に立つイケメン人気アナウンサーは、先ほどのデレデレ加減を微塵も見せない。
あまりの変わり身の早さにというか、期待以上の仕事ぶりに奏江は呆れた。

(全く…嫌味よね。着いて10分でそつなく仕事を始める男って。)

「キョーコ、アンタもメイクしてきてよ。」
「へ?私?」
「別に構いやしないでしょ?一緒に映ったって。アンタんとこの社長からお願いされたわよ。」
「は?社長のお願いって、モー子さんからのお願いじゃなくて?」
「正確に言うと、お願いされたんだけどね。早くメイクして!うち、お金ないから衣装はそのままよ。はい。アンタの台本」
「はっ…はい!」

奏江は腕組みしたまま、はぁ~と大きな息を吐いた。

視聴率が欲しいから、LMEにアナウンサーを貸してくれといったのは本当。
だけどそこに返ってきた返事は、京都に今“敦賀蓮”と“もう一人”がいるから、2人一緒に出してくれという依頼。勿論願ったり叶ったりだ。
過去に何度か蓮には世話になっていたから、信頼性は二重丸。おまけに“もう一人”は、謀らずも親友のキョーコ。
最近のキョーコの仕事ぶりをみて、いつか一緒に仕事が出来たら…と思っていた。



『敦賀さ~~ん!』

『あそこに見えるのは?あっ、最上アナウンサーですね。』

『追いついた~!』

息急き切って、キョーコが笑顔で走り寄る。

『皆さん、こんにちは!京都出身、LMEテレビの最上キョーコです。今日は私も一緒に京都の街を案内します。』

『最上アナウンサーは、京都出身なんですね。心強いです。』


ふっと奏江の顔に笑顔が浮かぶ。

これは絶対に、お茶目なLMEの社長のプレゼントだ。
もうすぐ退職するLMEの看板アナ。
きっとフリーになったら、気軽に街レポなんて頼めない。まして、キョーコとの街並み2ショット。ごく自然に画面に映りこむことは二度とないだろうから…。

(まあ、ウチは視聴率が取れたら言うこと無いしね…。)

奏江は、見事に緊急レポートをこなすアナウンサーの2人に微笑んで、照りつける夏の日差しを見上げた。




(5に続く)
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