疑問符の行方 4

疑問符の行方  →  → に続くお話。

今回はちょっとだけ進展します。





疑問符の行方 4




“ピンポーン”

自分の自宅のチャイムを鳴らすのなんか、滅多にないと思いながら、蓮は期待をこめてボタンを押した。

中の様子を伺うまでもなく、カードキーを差し込んで、暗証番号を打ち込む。

いつもの同じ動作のはずが、なぜか今日は気持ちが逸る。

“ピ・ピ・ピ・ピッ…ピロリン!”

解除の音がしたと同時にドアノブに手をやり、すっとドアを開けた。

「お帰りなさい!敦賀さん!」

満面の笑みを湛えたキョーコが、玄関先で出迎えた。
その弾けるようなキューティーハニースマイルに、心臓が一瞬、大きく跳ねた。
心はこの瞬間を待ちわびていたのだと改めて確認し、些細な喜びを噛み締め、自分はこれほどまでにキョーコに飢えていたのだと確信する。

「ただいま、最上さん。早かったんだね。」

自分が今、極上の笑みを漏らしているのは自覚している。

「はい!今日はTBMで終わりでしたから。ご飯、出来てますよ。着替えてきてください。」
「うん、頂くよ。ありがとう」

鼻歌交じりにキッチンへ戻るキョーコの後姿を眼にし、(ああ…この瞬間に抱きしめるって設定はないのかな?)などと不埒な考えを頭の隅に追いやり、着替えのためにクローゼットへ向かった。

朝の出来事が現実であることを裏付けるように、ちゃんとマンションにいたキョーコ。
だるまやに帰るでもなく、マンションで自分の帰りを待っていてくれたことがとにかく嬉しい。
何故キョーコが昨日からこの部屋にいたのかどうかは別として、この状況は全くのラッキーとしか言いようがないのだから。

着替えを終えてリビングに向かうと、ローテーブルにはいい匂いの食事が並んでいる。

「美味しそうだね。」
「はい。ありがとうございます。今日はサッパリ系の中華にしてみたんです。お口に合うと良いんですけど。」
「最上さんの作ったもので、残したことないと思うんだけど。」
「はい、そうでした。でも敦賀さんは小食なので、実は結構苦労するんですよ?」
「そうなの?ごめんね。」
「いえいえ、さ、冷めちゃいますから召し上がってください。」

キョーコのしゃべり方はいつもと同じだ。
あまり有難くはないが、『尊敬している』だの『崇拝している』だのといった先輩の域を出ない、丁寧な敬語。
それでも会話は弾み、今日あった出来事などを楽しげに話してくれる。カインでいたときの二人にはなかったことだ。
キョーコには今までも、たまに意を決したように叫ぶとか、突然に蓮を叱りはじめることもあるが、今日の場合はそれはない。先輩以上恋人未満といったところだろうか…?
美味しく食事を終え、キョーコが片付けのために席を立とうとしたときだった。

「ねえ、最上さん…」
「はい?なんでしょう?」

「今日は、一緒に…眠る?」

それを言った瞬間、まさに瞬間湯沸かし器のように、キョーコの顔が“ボッ”と赤くなり、頭から蒸気が出ている。

「や…、その…流石に毎晩は申し訳ないですし、明日は私も早いので、今晩はひとりで寝ます。」
「毎晩って…毎晩一緒に寝てるなら、今日だっていいんじゃないの?」
「!!! なななな…なんて破廉恥な!だだだっ…今日はダメです!」
「え?そうなの?なんで?」

くすくすと笑いながらキョーコの反応を見ていると、さらにしどろもどろになりながらキョーコは反応を返す。

「だからっ!明日早いからダメなんです!カカカ…カインさんじゃないんだから、甘えちゃいけません!」
「え~~~?セツなら良いのに?最上さんはダメなの?」
「ダメです!ダメに決まってるでしょう!もう!」
「破廉恥なことするから?」
「!!!~~~~~!!」

真っ赤になって絶句するキョーコの姿を見て、社さんが言ってたような『今更』なことはないらしいと確信する。
(そうか、一緒には眠るけど、まだそこまでは行ってない設定…か。)

「じゃあ、手をつないで眠るのは?」
「む…、それはその…。」
「手もダメなの?」
「今日は別々に…」
「仕方ないな、じゃあ、今日はこれで我慢しよう」

そう言うと、蓮はキョーコの腕を引き寄せ、その胸にぎゅっっと抱き寄せた。

「はわっ!つ…敦賀さん!?」
「んーーー。ちょっと黙ってて。」

我ながらドサクサに紛れて美味しい思いをしているなどと考えながら、キョーコの甘い匂いを胸いっぱいに吸い込む。
ドクドクと自分の鼓動が早くなる。勿論キョーコの心音もだ。
ドンドコドコドコと脈打つ心臓。
胸の中でじっとおとなしくしているキョーコの首筋から耳朶までが赤いことを確認し、気をよくすると同時に、押さえなくてはならないごく自然な欲望。

(これで我慢できるはずがないのに、我慢しようなんてよく言えたもんだ。)

取り敢えず、何のためにキョーコがここにいるのかはまだ分からない。
だが、キョーコは女優だ。
勿論、夜のあれこれに関しての純情乙女な部分は、素のキョーコに違いないが、多くの設定にはもう、うまく合わせてくる。自分の演技欲が刺激されるほどに演技が上手くなったキョーコ。そうなるようにアドバイスはしてきた。
だから、どんな目的があるにしろ、キョーコの小芝居に乗ってみようじゃないか。と蓮は笑みを漏らした。

(俺の役柄がいま一つ把握し切れていないのが惜しいが、これはこれで間違ってないよね?最上さん?)

己の腕の中で茹蛸になっているキョーコを愛おしいと思いながら、蓮はもう既にキョーコを手放せなくなっていて、この腕をどうやって放したらいいかと考えあぐねていた。

「つ~る~が~さ~~ん。くるひい…。」

もごもごと声が聞こえてきて、予想以上に強く抱きしめてしまっていたことに気付く。

「あ…ごめん、ごめん。苦しかった?」
「もう!頭ボサボサです。片付けてきます!」
「うん…。」

気付かぬうちに頭も撫で回していたらしく、ボサボサの頭を直しながら、プンスカと茶碗やお皿を片付けて、キョーコはキッチンへと向かった。

(やばいな…設定…どこかで入手しとかないと、押さえが利かないかも…)

“はぁぁぁぁぁ~~~”とキョーコに聞こえないように、こっそり長い溜息を漏らした。
理性の箍が外れるとはこのことらしく、うっかりすると自分はキョーコの事に関して、己の欲望に無意識に忠実に従おうとするのだと驚いてしまう。

「敦賀さーん。お鍋仕舞ってください。お願いします。」

キッチンからキョーコが呼ぶ。

「あ!ああ、ちょっと待ってて。」

呼ばれるままに、キッチンに向かい、キョーコの片づけを手伝う。
その後はいつもキョーコを泊めるときのように、努めて紳士的に振舞った。

出来るだけ、自然な関係を装って…



*   *   *



(もう~~~!!なんであそこでぎゅ~なんですか!?心臓に悪い!!)

キョーコはゲストルームに戻った途端、へなへなとその場に座り込んだ。

(どうして、敦賀さんは私がいることに全く動じてないの?そりゃ今朝はちょっと位は戸惑ったご様子だったけど、お仕事から戻ったら凄く…すご・・く…。)

カイン兄さんでもなく何かの役柄でもない、“敦賀蓮”と一緒にいるのは初めてではない。

(代マネのときにも一緒にいたし、ダークムーンごっこのときは夜の帝王に遭遇したけど、それっきりだったし、ウォーキング指南の時には的確な先生だったけど…、今日の敦賀さんは…)

ぼうっと蓮の神々しいスマイルや言動を思い起こす。
そして、抱きしめられた力の強さ…敦賀セラピー効果以上にドキドキ感も満載過ぎて、思考力が奪われる。

(まさか、一緒に寝ようといわれるとは思ってなかった。セツでもない最上キョーコにそんなことを言うなんて、からかってるだけに決まってる!…でも、敦賀さんは今回のことは全くご存じないわけで…)

自分でも予想だにしなかった蓮の順応振りに、頭が追いつかない。


「どうしよう…賭けに負けちゃう…」

キョーコは困ったように小さく呟いた。



(まだまだ続く)
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コメント

むふふふ。(←青い○型ロボット風)
面白い展開ですね。

4話まとめて読めて満足・・・・・・いや、続き欠乏症になっております。

現状をできる限り楽しもうと決めた蓮さんと、予想と違う反応に戸惑うキョコさん。

キョコさんがしてるカケの内容がうっすら見えてきた4話から、この先どうなるのか。楽しみですーー!

今は被れている紳士の仮面の今後の行方も。笑
  • 2016-05-10│09:37 |
  • まじーん URL│
  • [edit]
Re: むふふふ。(←青い○型ロボット風)
いらっしゃいませ、まじーん様

> 面白い展開ですね。

ありがとうございまする~
ふと降りてきたものにございますので、行き当たりばったり感満載ですがね(えへ)

> 今は被れている紳士の仮面の今後の行方も。笑

ええ、もう、そこはお約束。
今かばぷーは桃畑収穫祭ですから!
おいおい出します。
…が、一週間ごとの投稿にする!と決めちゃったから、もうちょっと後です。
お!ついに焦らしプレイ発動か?
ちょびっとお待ちくださいませ。

  • 2016-05-10│20:12 |
  • かばぷー URL│
  • [edit]

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