疑問符の行方 5

5話まで来てしまいました。そろそろまとめに入ります?
(う~ん、まだまだ続きそうだけど)






『なあ、最上君…。賭けをしようじゃないか。』

頭にターバンを巻いて、身体から布を長く引き摺らせた社長が“にやり…”と笑ってキョーコに問いかけた。



疑問符の行方 5



「賭け…ですか?」
「ああ、そうだ。賭けだ。」
「あの…それはいったいどういう?」
「なあに…君は蓮への思いを自覚した。ずっと秘密にするつもりだっただろうが、ソレは、蓮に他に好きな女がいるからとか言ったか?」

「社…社長、それは…」
「ほう、言いたくなかったか。勘違いじゃないのか?」
「勘違いじゃありません…。敦賀さんの心の中には…」
「そうか、君の勘違いだと思うんだがなあ~。」
「勘違いじゃありません。」
「ほう…それならこの賭けをしようじゃないか。一週間、蓮に何も言わずに傍に居て、蓮が君に一言でも“君と一緒にいたくない”といったら、最上君の勝ちだ。」
「…はあ…?」
「逆に、お前さんが一緒にいることをあいつが喜んだり、“好きだ”とか“幸せだ”と言ったりしたら、俺の勝ち。」
「でも社長、私が勝ったとして、その賭け…何かメリットがあるんですか?」
「いやなに、実は最上君にある恋愛ドラマのオファーが来てるんだが、それは蓮が主役でな。蓮に恋心を抱きながらも、主人公に思いが届かない切な~い役なんだが、もし賭けに勝てたら、君の出演許可を出してやっていい。」
「え!?でも、そんな!」
「役柄が病弱な娘の役で、消え入りそうな命をどうにか現世に繋ぎ止めている、天使の生まれ変わりみたいな役なんだがな。」
「て…天使?」
「ああ、自分の余命を知り、蓮に恋心を寄せるも、思いが届かないと諦めている…的な。」
「(ゴクリ…)」
「やりたいか?」
「…はい。」
「だがなあ、この演技のためには、刹那的な思いというか切なさが必要だ。だから賭けるんだよ。」

キョーコはローリィの顔を見て息を呑んだ。
“刹那的な思い”と“切なさ”
そんなもの、蓮への思いを隠そうとした時点で嫌と言うほど味わっている。
しかしローリィの求めるソレは、“君と一緒にいたくない”とローリィが表現した中に含まれるのであろう。実際に言われなくても分かる。そんなことは蓮なら言わないだろうと予想できる。
でも、もし言われたとしたら…?
もしかして、しばらく立ち直れないのではないだろうか?


「でも社長、敦賀さんは、その…簡単に私じゃなくても“君と一緒に居たくない”なんて仰る方ではないと思うのですが?」
「あぁ、勿論そうだ。あいつは根っからのフェミニストだからな。口が裂けても言わんだろうよ。」
「じゃあ、私が負けるじゃないですか!そんな殺生な!」
「勘違いするなよ。状況を操作するんだ。」
「状況ですか?」
「ああ、状況をな…。」

またまたニヤリと不敵な笑みを漏らす。

「なあ?普段、当たり前に家にいないはずの最上君が、さも自分の家のように傍にいて暮らしているとなると、普通はどう反応する?」
「はあ…、普通ならありえないことだとびっくりされるのでは?」
「まあ、それが普通だな。そして、君はあいつには思いを寄せる別の誰かがいると言う。」
「はい。」
「だったら、やんわりとでも“帰ってくれ”とか、“いたら困る”とか言いそうなもんだろう?」
「ええ、そりゃあまあ。」
「それで、7日目に行方をくらますんだ。これもいきなりな。他に好きな女がいる奴なら、当然ほっとするだろう。だが、あいつはお前さんを探すだろう。心配もするだろうな。でも、可愛い後輩ならそこまでだ。それ以外のことはするはずがない。仮にも“敦賀蓮”だからな。」
「勿論です!」
「もし、蓮が最上君のことをただの後輩だと思っているなら、不埒なこともするはずがないし、愛を囁いたりもしない。」
「は…はい!当然です!」
「そして、ただの後輩なんだから、抱き締めたりもしなければ、“好きだ”なんて囁くはずはないだろう?シスコンのカイン・ヒールとは別人だからな。」
「はい!」
「そうすりゃ、お前さんの勝ちだ。ちょっと切ない荒療治になるだろうが、あいつへの切ない気持ちを秘めたまま、いい演技が出来るだろうよ。」
「では、社長が勝ちの場合は?」
「俺か?俺はなあ…ふっ…今は言えんな。」
「ずっ、ずるいです、社長。」
「まあ、良いってことよ。で、賭けるのか?賭けないのか?」

キョーコを試すように、返答を待つローリィ…

自分の出演作品を賭けての勝負。
勿論蓮には思いを寄せる彼女がいるのだから、先輩後輩の域を出ない自分がいきなり自宅にいたら、びっくりするだろう。今まであのマンションに行っていたのは、代マネや社さんの依頼があった時。
勿論、演技練習やウォーキングのためにお邪魔したこともあったが、長期間に及ぶわけではないので、蓮もそれくらいは気を許しているかもしれない。
どっちにせよ、“好きだ”とか“幸せだ”と言われる可能性はゼロに等しいのだから。

コクリ…と唾を飲み込んで、キョーコは答えた。

「やります。役を賭けてのこの勝負、受けて立ちます。」

ローリィは嬉しげに眉を上げ、ふふんと笑って見せた。

「じゃあ、早速明日からだ。今晩蓮が帰宅した後で荷物を運び入れる。勿論社も巻き込むぞ。だが、社は嘘がつけん。演技が出来るわけじゃないしな。だから、催眠術をかけておこう。幸い、セバスチャンは催眠術が得意だからな。おおい、若干、蓮が混乱するような状況をインプットしておいてくれ、頼むぞ。」
「かしこまりました。」

褐色の肌の執事が、すぐ脇で頭を下げた。
その後、キョーコの前に台本が置かれる。

「あの…これは?」
「台本だ。今回の役作りに使うといい。」

「台本まであるんですか?(社長…何を企んで?)」
「何だ?企みって…あんまり顔に出すな。女優だろう?」
「(はっっ!)す…すみません!」
「いいってことよ。しかし、最上君。だんだん考え方が蓮に似てきたか?」
「(は?何を仰いますので?)イヤ…似ていないと思いますが…。」
「ふふん!まあいい。それを読んで役作りをしてくれ。」
「はあ…。では、失礼します。」

キョーコは台本をかばんに丁寧にしまい、社長室を後にした。


***


「えっと、歯ブラシ、化粧水…服…でも、あんまり持ちすぎてもダメよね」

下宿先であるだるまやの二階で、お泊りの準備をするキョーコ。
片手には台本。

「もう、なんでこの台本には必要なことが書いてなくて、準備物が載ってるのよ!?遠足じゃあるまいし!!」

キョーコはプリプリ言いながら、荷物をかばんに詰め込み、準備を進める。

台本に書いてあった役柄設定とは…

『主演:最上キョーコ 17歳 』
『場面設定:蓮のマンションに同棲して一ヶ月、その関係は蓮のマネージャー(社)以外には秘密。公共の場では先輩後輩として振舞うこととする。』

・・・・残念ながらそれだけ。

これでどこをどう役作りせよというのか?そして肝心の相手役の蓮は、付き合っている設定さえ知らないのだ。
突然付き合ってもいない後輩であるキョーコが家にいたら、いくら蓮でも驚くに違いない。
そして、こちらが演じるのは同棲して一ヶ月の恋人役。
そんなこと経験があるわけではないし、まして、松太郎とはあくまでも同居。(家政婦的な扱いだが…)

(同棲って…アレよね?ほら、よくある破廉恥な関係の…、同衾…?いやいや、ないから!敦賀さんに限ってソレはないから!カイン兄さんは過度のシスコンだから成立したことよ!敦賀さんは同じ事務所のただの後輩にうにゃらうにゃらはしませんよね。それでもって、兄ラブではなくて、敦賀さんラブ…?いや~~~!!恥ずかしすぎる~~~!!!社長~~!恨みます!)

キョーコにとっては蓮への思いを隠したい最中の場面設定。あまりに過酷だ。

(あ…、でも良いのかな?敦賀さんと付き合って間もないってことだから、変によそよそしかったらかえって変よね?でも敦賀さんはご存じなくて、私だけが付き合ってると思ってるなら、寧ろ変に思われたりして、好都合…いや~~~!!!それで嫌われるの?“こんなことする後輩だと思わなかった”、“失望した”とかって…イヤ~~。ようやく嫌われてないことが分かったばかりなのに~~~。)

キョーコの中で悶々とする一人芝居。
脳内妄想はとめどなく蓮がやさぐれる方向に働き、恐れ戦く。

「はぁ…、賭けなんてするんじゃなかった…。」

溜息の一方で、ドキドキしないわけがない。
それは蓮とまた一緒にいられる喜びと、蓮を演技であたあふたさせることが出来るかも知れないという、かねてからの目論見…。

キョーコはコンパクトにまとめられた自分の荷物を見て、頬を染めた。



(続くんです)

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