疑問符の行方 6

6話に突入しましたよ~。
お待たせしてすみません。





翌朝、蓮が眼を覚ますとテーブルの上には、朝食とメッセージカードが一枚。

“今日はゆっくりのお出かけだと社さんから聞きました。温めて召し上がってください。”

美味しそうだなと思いながら、昨日のキョーコの様子を思い浮かべる。

(今日は一緒に寝てくれるかな?)

メッセージカードの筆跡に眼をやりながら、そんな風に思う。
蓮は微笑んで、無意識にカードに口付けていた。




疑問符の行方 6




気が付くと、あっという間に時間が過ぎ、突然キョーコが家に来てから一週間が過ぎていた。

帰宅すると、毎日キョーコがいて出迎えてくれる。
まるで付き合い始めのカップルのように、楽しく会話して、冗談を言い合う。
そんな毎日に鼻歌を歌いだしそうなほどに、ご機嫌な蓮。
始めからずっとキョーコと一緒に暮らしているみたいな気持ちになる。

流石に夜は、何だかんだと言い訳をしながらゲストルームで眠るというキョーコ。
無理にベッドに誘った時に予想される反応が怖くて、実際に褥を共にすることはなかったが、キョーコに会えるのだから贅沢は言ってられない。

だが、そろそろ限界が近づいていることは、蓮の心がよく分かっていた。

キョーコに一刻でも早く会いたくて、逸る気持ち。
自然と仕事にも微妙に影響を及ぼす。



「社さん、今日は少し早回しで帰宅できそうですね。」
「れ…蓮?ちょっと巻きすぎだと思うけど…。」
「そうですか?普通どおりですけど、皆さん今日は協力的でありがたいです。」

(おいおい?有無を言わせない雰囲気でNG回避しているようにしか思えないんですが?)

ご機嫌な蓮とは裏腹に、疲労困憊な様子の共演者たちを横目に、社は胸元で小さく手を合わせる。

(スミマセン…、巻きの分はよい作品の出来に変えさせていただきますから。)

社は心の中で呟きながら、どんどん巻きで撮影を進めていく蓮を見た。
担当俳優がここ最近、ご機嫌な理由も、早く帰宅したい理由も分かっているだけに、止めることは出来そうにない。

予定よりも1時間以上巻いた状態で蓮は撮影を終え、丁寧に挨拶をすると、脱兎のごとく撮影所を後にした。

「社さん、今日は申し訳ないんですが、最寄り駅までで良いですか?」
「あ~…、いいよ、いいよ。これから事務所に寄ることになったから、先に帰っていいよ。」
「急用ですか?」
「ああ、社長に呼ばれてて。」
「そうですか…。ではお言葉に甘えます。」

紳士な態度の中にあって帰宅を急ぐ蓮の姿。
まるで新婚のように焦りが見える。
芸能界一抱かれたい○○なんて言われていても、実際は恋愛初心者。
恋する可愛い男に、年上の余裕を見せつけながら蓮を見送った。



* * *



「ただいま」
「お帰りなさい!敦賀さん。今日も早かったんですね。」
「うん、今日はNG無しで進んだから、早く終わったんだ。」
「そうなんですね。もう少ししたら、食事の準備が出来ますので、先にお風呂とか入られます?」
「うん。そうしようかな。」
「では、ごゆっくり。」

蓮はキッチンにパタパタと戻っていくキョーコの背中を見つめると、表面上は無表情のまま、ありがちなことを思っていた。


(ご飯にします?お風呂にします?それとも…ワ・タ・シ?

   ---なんて現実はありえないか。)


よくある妄想を脳内で展開するも、都合のいい妄想だと自分に言い聞かせる。

実際のところ、ただキョーコが家にいることが嬉しくて、蓮はいそいそと風呂に入った。


風呂から上がると、美味しそうなご飯が準備され、キョーコがご飯をよそう。
少なめに盛り付けられたおかずは食欲をそそり、ついつい食べ過ぎてしまう。
ちょっとしたデザートも、キョーコには珍しい風味ではあるが、それなりに美味しく頂く。

ちらり…とキョーコを見ると、蓮の食欲に満足気に「お口にあいますか?」なんて、可愛く問う。

さっきの妄想ではないけれど、今日こそは一緒に寝たい。

手をつないで寝たい…。
あわよくば抱きしめて…。

あらぬ妄想のあまり、興奮して寝付けなかったら困るな…と要らぬ心配をしながら、少しだけアルコールを飲んでいいかキョーコに確認した。

「敦賀さん、そんなこと私が許可しなくても、遠慮なさらずいつでも召し上がっていいんですよ?」
「でも、最上さんは未成年だし、一緒に飲めないから…。」
「カインさんの時には気にせずに、召し上がっていたじゃないですか!」
「う~ん、そうなんだけど、アレはアレ。最上さんと一緒に寝るのにあんまりお酒を入れたくないしね。」

さらりと今日の目的を告げると、瞬間湯沸かし器のように、一瞬で真っ赤になるキョーコ。

「その…一緒に…」
「そう、今日は一緒に寝ようね。」
「う…」
「じゃ、先に寝るから、ゆっくりお風呂に入ったらおいで。」

にこやかに微笑むと、蓮は浴室にキョーコを送り出した。




“カチャ…”

寝室に入ると、そこは既に薄暗く、フットライトがベッドの縁を柔らかく照らす。
パジャマ姿のキョーコは、横になっている蓮の傍にゆっくり座った。
初日に引っ越してきたときとは状況が異なる。

あの日は帰宅直後の蓮に効くように、ローリィの執事が遅効性の睡眠薬を仕込んでいた。
意識が朦朧となりながらも、シャワーを浴びたのは蓮の精神力のなせる業で、疲労困憊の身体に効かないわけがない。
全く起きる心配のない蓮の傍に眠ったように見せかけるのは、造作もなかった。

今日もまた、デザートに忍ばせた睡眠薬…。
変わった味だと気付いただろうか?
そろそろ効いてくる時間だろうか…?

申し訳ない思いがいっぱいのまま、小さく息を吐くキョーコ。

狸寝入りをしていた蓮は、キョーコがじっとしていることがもどかしくて声をかけた。

「どうしたの?どうぞ」

ブランケットを持ち上げて、キョーコに入るよう促す。

「し…失礼します。」
「初夜じゃないんだから、なんでそんなに固いの?」
「しょっ!しょ・しょ・しょ…初夜って!」
「大丈夫、今日は何もしないよ。一緒に寝るだけ。」

キョーコの手をとり、懐に引きずり込む。

「ほら、湯冷めしてる。」

キョーコを胸に抱きながら、キョーコから香る、同じシャンプーのにおいに満足する。

「敦賀さん、温かいです。」
「そう?」
「はい、いい匂いがします…。」
「同じ匂いがするね。最上さん…こうやって一緒にいられるなんて夢みたいだ…。」
「夢…ですか?」

まんじりとも出来ず、蓮の腕の中で緊張が解けないキョーコ。

「白状するね。この一週間、傍に居るのに触れられなくて、実は苦しかった。今、君を抱きしめて凄く嬉しくて、凄く…緊張してる。」
「……」
「最近はね…雪花とのホテルでの生活以来、一人で眠ることが、時々難しかったんだ。」

「まさか、不眠症ですか?」
「そういうわけじゃないけど…こう、寂しくて。」

「……」

「だから、今、凄く幸せだ…。」

(い…ま…、“幸せ”って言った?)

「君が傍にいて、笑ってくれる毎日がこんなにも嬉しい。」

「敦賀さ…」

「うん、本当で今日は何もしない。こうしているだけ…。今朝も早かったんだから、もうお休み?」

蓮はキョーコの額に口付けると、すうすうと規則正しい寝息を立て始めた。
じわりとキョーコの眼に涙が浮かぶ。

『蓮が“好きだ”とか“幸せだ”と言ったら、俺の勝ち。』




---結果は…社長の勝ち。


そう、ローリィとの賭けは、修了目前にあっさりと負けてしまった。

蓮の腕に包まれて、込み上げる嬉しさに視界が揺れる。
そこには負けた悔しさなど微塵もない。
寧ろ、蓮が自分を何も疑問を持たず、無条件で受け入れてくれたことが嬉しくて堪らない。

蓮の温もりと、いい匂いに包まれて、キョーコは自分が演技中であることも忘れそうだ。
ここ数日の緊張感から放たれたように、一瞬だけでも深く眠ってしまいたい。

そうできれば、どんなに幸せか…。

だが、結果は負けだとしても、まだ演技は終わっていない。

(次の準備をしなければ…。)

涙が零れ落ちないように必死で堪え、隣で安らかな寝息を立てる、愛しい男の頬を撫でた。



「好きです…敦賀さん…。」







翌朝、すっきりと目覚めると、傍にキョーコの姿がなかった。
うっかり寝すぎたかと蓮は慌てて飛び起きると、リビングに向かう。


そして、一瞬のうちにリビングの違和感に気付く。


当たり前のように『おはようございます、敦賀さん!』と笑顔で挨拶した姿はどこにもない。
あまりに当たり前にあった光景がないことに言葉が出ない。

(冗談だろう!?)と、焦る心の内を打ち消すようにゲストルームを開くと…

そこにはこの一週間の間、常にそこにあったキョーコの痕跡が、一切なかった。

他の部屋やキョーコが使っていた空間に、キョーコがいた痕跡を探す。

…が、洗面台の歯ブラシも、化粧水も、排水溝にも髪の毛一本さえもない。


(何なんだ?夢だったのか?いや違う!!最上さんが、消えた…。)


蓮は、誰もいない無機質なリビングに呆然と立ち尽くした。





(続く)


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