ヒカル君 3

ようやく3話です。

平安モノのパラレル…。
今回、キョーコさんがやっとこさ登場。





光ル君 3




ざあざあと降り続く雨…
5月だと言うのに、今年はやけに雨が多い。
晴れたかと思うと、翌日はぼうぼうと南からの生ぬるい風が吹き、まことにおかしな天気だ。

「憂鬱ですわね…。姫様」
「本当に…。ねえ、奏江。人形作り…しちゃだめ?」
「あら、物語絵巻には飽きたんですか?人形はだめです。いったいどれだけおつくりになるんです?」
「もう、奏江ったら意地悪ね」
「はい、はい、すみませんね。お暇ならば、貝合わせにいたしましょう。すぐに準備いたしますから、お待ちください。」
「お願いするわ」

この頃の女性…特に姫君は、食う・寝る・遊ぶが基本的な一日の仕事である…かな。

裁縫が得意なキョーコ姫は、暇さえあれば人形を作る。
あまりにリアルな“お兄様人形”も作ってしまうため、流出でもしたら呪い人形と間違われかねない。
奏江は出来るだけ控えさせているのだ。


キョーコ姫のお側に仕えているのは、蓮の君の乳兄弟の奏江である。そしてその兄は社といい、この二人は蓮の君のお側に長いこと仕えている。
まだ蓮の君が宮中にいる頃から二人は蓮とともに生活し、宮家に降りてからも二人はともに側仕えを選んだ。今ではもっとも信頼の置ける家人となっている。
奏江はキョーコ姫と歳が近いこともありキョーコ姫が屋敷に来てからはまるで姉妹のようなときを過ごして来た、一番心を開ける相手だ。

いそいそと貝合わせの準備をしていると、屋敷の一切を取り仕切る兄の社が奏江に慌てて声をかけた。

「奏江、すぐにキョーコ姫の御簾を降ろすように。」
「どうしたの?兄さん。」
「この雨で右大臣家の御子息の光様が雨宿りをしたいと申し出ておられる。殿がいないが立場上無下に断る事もできぬ。方角的にはキョーコ姫の方角…東より入ってもらわねばならぬゆえ、直ぐに準備を。」
「まあ!大変!分かったわ。直ぐに御簾を降ろします。」

慌てて、キョーコ姫の元に戻る。

「姫様!キョーコ姫様!大至急お部屋にお入りくださいませ。」
「なあに?奏江。そんなに急いで。」
「こちらのすぐ近くに、雨宿りにおいでの方がいらっしゃいます。直ぐに御簾を降ろしますので、お部屋へ!」
「まあ、分かったわ。」

慌てて御簾を降ろし、キョーコ姫がすい…と奥に入るためにその身を翻したとき、一陣の風が吹いた。

“ザアアアアッ・・・”

一瞬の暴風雨。


御簾の隙間から見えたのは、紅梅の匂う重ねに映える長い黒髪とその白い肌。
黒髪も白い肌も眩い輝きを放ち、伏せた目元に濡れた睫毛の一本一本まで、まるで露を湛えたような艶やかさ…。そして形のよい唇の艶かしさに光は息を呑んだ。

(う…美しい…これがキョーコ姫…)

雨にさらされて、濡れ鼠となりながら、遠目で見たキョーコの姿はなんと艶やかで、なんと美しい事か…。

それはほんの一瞬であったが、光の心を鷲掴みにした。

「さ、姫様…」
「ええ…。」

一瞬聞こえた声はまるで鈴を鳴らしたような軽やかさ…。

パタン、と妻戸まで閉じられ、それきりキョーコ姫の姿は見えなくなった。
後に残されたのは、ドッキドキと脈打つ心臓をなだめる事もできず、呆然と立ち尽くす、光の中将だけであった。


* * *


「殿、お帰りなさいませ。」
「今戻った、大事無いか?」
「ええ、ございません。ですが本日、右大臣家の光の中将様が雨宿りにお越しになりまして、一刻ほど滞在され、先ほど入れ違いでお帰りになりました。」
「おや、珍しい…光殿が参られたか。今日はどの方角から?」
「…東にございます。」
「…東?まさか…」
「いえ、急な事ではございましたが、奏江にすぐに御簾を降ろさせましたので、大丈夫かと…。」
「そうか、全く油断も隙もない。三条の屋敷まではすぐであろうに…。」
「はい、ですが確かに雨も激しかったので、無下にお断りする事もできませんでした。申し訳ございません。」
「いや、いいよ。ありがとう。ところで、姫は?」

ふいと辺りを見回すと、衣擦れの音と共にパタパタと足音が聞こえる。

「お兄様!お帰りなさいませ!」

満面の笑みを浮かべたキョーコが、奏江を従えてこちらに急ぎ足でやってくる。

「ただいま、キョーコ姫。」

言うや否や、キョーコ姫は蓮に抱きついた。

「姫様!はしたのうございます!いったいいくつにおなりですか!」

後ろからようやく追いついた奏江のお小言が始まった。

「え~、だって昨日は宿直でお会いできなかったんですもの。」
「も~!だってじゃありません!」
「いいよ、奏江。キョーコ姫…確かに嬉しいけどね、兄様としてはもうそろそろ淑女の嗜みを持って欲しいと思っているよ。」
「ぷぅ…。分かりました。」

すっと身を離し、その場にすっとしゃがむ。

「お帰りなさいませ、お兄様。お役目ご苦労様にございました。」

そういってにっこりと微笑むさまは立派なレディだ。

「お兄様、夕餉を一緒にいただきましょう?その後は、漢文を教えてくださりませ。この前の続きでございます。」
「そうだったね、では参ろうか。」

キョーコ姫はにこにこと蓮の腕を取り、部屋に迎えた。


ひとしきり、今日あった出来事を話し、漢語の書を読む。
キョーコ姫は始めふんふんと熱心に聴いていたが、そのうち眠くなったのだろう。
“ふあ…”と小さく欠伸をした。

「姫、今日はもうやめる?」
「む…せっかくお兄様が教えてくださるのに、時間がもったいないです。」
「そう?続けるの?」
「…はい。」

そういいながら再び漢文に向かったが、やがてキョーコ姫はうつら、うつらと舟を漕ぐ。
やがて、蓮の腕にもたれかかるように眠りについた。
スースーと安心しきった安らかな寝息。
蓮はキョーコの艶やかな髪を撫で、呟く。

「愛しい姫…そろそろ我慢が効かなくなりそうだよ。困った子だ…。兄でいることが辛くなってきた…。」

ぴったりと伏せた長い睫毛に口付けると、キョーコ姫を大事に抱え込んで几帳の中へ運んだ。
薄紅の頬にかかる後れ毛を漉き、優しく抱きしめて蓮もまた眠りについた。




(続く)


有能執事の社さん。
今回はギャグ使用一切なし。
かっこいいかも~。(?)
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