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ヒカル君 5

今回は蓮の君とキョーコ姫小さい時のお話…
可愛くなーれ! (ノ´▽`*)b☆




光ル君 5




『お兄様は大きいのに、どうしてそんなにお泣きになるの?』

庵の側にある小川のほとりで、母を失った寂しさから草むらに紛れて一人泣いていた時だった。
真っ黒な瞳を輝かせて、困ったように覗き込む女の童。

『どうして…って、悲しいからだよ。』
『どうしてそんなに悲しいの?』
『母君が…亡くなられたんだ。』
『母君が?ふうん…、あのね、キョーコは父君も母君もいないの。』

その言葉にすっと涙は引いた。

『君はキョーコって言うの?父君も母君もいないの?』
『うん、いない。母君は生きてるけど、宮中の女御様のところで働いてて、会った事がないの。父君は…どこか遠いところね』
『じゃあ、ここでどうやって暮らして…』
『んとねえ、乳母やと一緒にショーちゃんのところにいるの。』
『乳母と…』

ここは母である樹里の君の郷里、吉野。
心を病んだ蓮を哀れに思い、父帝が吉野での療養を許可した。
すぐ近くには樹里の伯父、式部卿に使えていた受領の屋敷がある。

そういえば、こちらに療養に来てすぐに聞いたような気がする。

式部卿は屋敷の使用人に手を出してめっぽう妻に叱られ、こちらにわが子ともども追いやったそうだ。
しかし、その姫君の母は教養が高く野心家で、女御の文官である少納言になるために、その子を捨てて京へ出て行った。
仕方なく式部卿の姫君は使用人である受領と、その妻であった乳母の元に預けられたと言う事を。

では、この子がその姫君なのか?
そして、ショーちゃんとは姫の乳兄弟で受領の息子と言う事になる。

『んとねー、キョーコはショーちゃんのお嫁さんになるの。だけど、ショーちゃんは京に行って公卿様になるから、キョーコとは結婚しないって言ってるの。』

公卿とは…いくら式部卿の支援を受けて財産があると言えど、受領ふぜいの息子がなれるとは思わぬが…。

幼心にも、宮中の仕組みを理解していた蓮には、この姫の行く末が案じられた。

『はい、お兄様。元気出して?お花よ?』

そういって手向けられた小さな花。

蓮の心は癒され、この境遇でも明るさを失わないキョーコ姫に心惹かれた。
黒々と光る知性を認めた意志の強そうな瞳。
野にあっても、華やぎを感じさせる整った鼻筋と口元。
てへへ、と笑う愛らしい表情。
すべてに魅せられ、吸い込まれるようだ。


やがて、蓮はキョーコ姫と毎日逢うようになった。

『おーにーいーさーまっ!遊んでたーもーれー。』

『だーれかな?』

『おーにーいーさーまー。キョーコだよーっ。』

くすくすと笑いながら、門に出ると急いで駆けて来たのであろう。
キョーコ姫が真っ赤な頬をして、ハアハアと息をしながら、待っている。

一緒に川で遊び、野を駆け回るうち、病弱であった蓮の体は見る見る回復した。
たった二ヶ月という短い間だったが、蓮は逞しくなったし、足腰が強くなった。
お腹もちゃんと減るし、よく眠れる。
キョーコ姫と遊ぶ時間が日々楽しくて、あっという間に時間が過ぎてしまったのだ。

別れの日、蓮は跪いてキョーコに告げた。

『キョーコ姫、私は京に帰らなくてはなりません。ですが…、必ずあなたをお迎えに参ります。私が元服を済ませ官位をいただいた折には、必ず姫を迎えに参ります。ですからどうか、誰のものにもならないで下さい。約束ですよ?』

『本当に?お兄様はキョーコを迎えに来てくださるの?絶対に?約束?』

『はい、お約束いたします。必ず!必ずお迎えに参ります。』

10歳の蓮と6歳のキョーコ姫、

その約束はあまりに幼く、何の保証もない。

だが、蓮の心に芽生えた恋心は本物で、キョーコ姫を守りたい、キョーコ姫を心から愛おしいと思い、それを告げた。




それから時は何年か経ち、蓮は元服の儀を済ませ、若いながらも近衛の少将という官位を得た。
しかし、まだすぐに迎えに行けるほどの経済力も後ろ盾もなかった。
おまけに正妻は既に頭の中将・貴島の子を妊娠。

何だかんだと忙しさに取り紛れて時間が経ち、おおっぴらにキョーコ姫を迎えに行く事も憚られた。
しかし、日に日に募るキョーコ姫への思いに耐え切れず、ようやく蓮はキョーコ姫を迎えに行ったのだった。

それは蓮が元服の儀を済ませてから4年が経った頃になってしまっていた。


既にキョーコは12歳

それはそれは、愛らしい姫となっていた。

幸運にも受領の息子は京へ上る思いが捨てきれず、キョーコの品性のよさにも気付くことなかったのか、バカなのか…。
外ばかり見てあちこちの女に手を出していたため、キョーコの貞操は守られていた。

また、乳母とその夫も義理堅く教養のある方だったのだろう。

母親の少納言はともかく、キョーコ姫の父君である式部卿の許可なしで誰かに嫁がせるわけにも行かず、まして身分違いの自分の息子の嫁になど滅相もないことだと思っていたに違いない。
一般的には12歳ともなれば、どこそこの豪族が姫の不憫な噂を聞きつけて、文を贈ってくる事もあるだろうに、まだ裳着もしていなかったことがこれまた幸いした。
キョーコ姫の父の式部卿が、彼の恐ろしい正妻を気にするあまり、姫の成人の儀の一切が後回しにされたのである。

吉野の里で走り回っていたキョーコ姫は、母から譲り受けたであろう知性と乳母の教育により、奏や和歌をたしなみ、裁縫も上手な姫君へと成長していた。
そして、頑なに蓮が迎えに来る事を待ちわびて過ごしていたのである。


幸運な背景が重なって、誰のものにもならずにいてくれたキョーコ姫。

蓮は姫を厄介ものとして扱う式部卿を説き伏せ、己の手でキョーコ姫の裳着の一切を取り仕切り、ようやく己の住む二条堀川の敦賀邸に呼び寄せる事ができたのである。




(続く)



源氏物語では、紫の上は兵部卿宮の息女なんだけど、かばぷー、これを「ひきょうぶのみや」と読んでいた大ばか者です。(恥)
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