ヒカル君 6

さあて…、そろそろ蓮の君を本気にさせてみましょうかね?







光ル君 6




光の中将が二条堀川の敦賀邸でキョーコを見かけた一件からしばらく経った頃、蓮の元にはキョーコ姫と間を取り持てという要求まがいの文やら、キョーコ姫に渡してくれと言う文やらがわんさか届くようになった。
一応保護者としては無視するわけにもいかない。


どこから漏れたのか、キョーコ情報の発信源は…
言わずとも明らかである。


「光殿、姫の事をどこかで漏らされましたね。」

怒気を孕んだ低音ヴォイスに、ギョッとして光の腰が引ける。

「いえ~…、そのう…。」

「光殿…困りましたね。絶対に宴を開く気はありませんし、キョーコ姫の手引きをする気もありません。」

そう言われても、光はキョーコ姫の姿を見てしまったのである。
美しくて愛らしくて…それはもうボーっと日がな一日見つめていたいほどの美女。
あの涼やかな声で『光殿…』なんて囁かれちゃったりしたなら、もう天にも昇ってしまうだろう。
自分が恋文を贈って夜を明かした女性たちとは比べようもないほどに眩しい人…。
是が非でも手に入れたい…。

その思いは募るばかりだ。

「…でもね?蓮殿。ずっと手元において置けるはずはないんですよ?それこそ早いうちに有望な公達に面倒を見てもらって…「あれは私のっ…」」

蓮は思わずと言ったように、光の言葉を途中で遮る。

「…私の…?もしかして蓮殿…。」
「失礼、口が滑ったようです。」
「蓮殿…」

「姫は…キョーコ姫は式部卿からお預かりしている、大事な姫です。」

苦痛にゆがむ蓮の顔を見て、躊躇うように光は続ける。

「蓮殿、姫に懸想をしている私が言う事ではありませんが、キョーコ姫のことははっきりさせたほうが良さそうに思います。陰陽道の零乃…そいつが姫のことを指して、蓮殿の手に負えなくなると申しておりました。」
「陰陽道の?」
「はい。手放したほうが良いと。また、キョーコ姫の事を見たといえば見た。見てないといえば見ていない。とわけの分からぬ事を申し上げておりましたゆえ。」
「……。」

零乃とやらは、いったいキョーコ姫の何を見たのだ?

そして、光から聞いた手放したほうが良いとの進言。キョーコが物の怪つきなどとはありえないし、かといって、今名うての陰陽師がそのような間違いをするとも思えない。そして、光はまた不思議な事を言う。

「それと…、猛獣がどうのこうのと…。蓮殿は、まさか獣を飼っておられるのかと思った次第です。」

獣なんか飼っている訳ないだろうと思いながら、光と別れ、二条の屋敷に戻った。


相変わらず、厳戒態勢を敷かれた二条堀川の屋敷。
キョーコの姿を見られた一件から社も奏江もぴりぴりしているし、女房たちはもとより下働きの隅々まで、文を交わす手伝いをする者がいないかどうか目を光らせる。
それでも、やはりどこかに綻びが出てくるもので、それは社と奏江のみならず、蓮をも疲弊させていた。


「お兄様?どうなさったのです…お疲れのご様子ですね。」

心配そうに蓮の顔を覗きこむキョーコ姫。
こんなところに昔の面影を残し、蓮の心をふっと軽くする。

「なんでもないよ、キョーコ姫。」
「変なお兄様。」

薄暗い蝋燭の明かりを頼りに、巻物を手に取るキョーコ姫。
その横顔はいつかの女の童から、成人の女性へと変わった。


いつの間にか…


愛しいキョーコは、更に愛しくなった。
可愛らしいキョーコは、眩いほどに美しくなった。

そう、既に子どもにも妹にも見えなくなっていた…。

目を細めてその美しい横顔を見つめる蓮を、キョーコ姫が振り返る。
目があった瞬間、眩い笑顔でキョーコ姫は微笑んだ。


「お兄様、そろそろ眠りませんこと?」
「そうしよう…。」

宿直でない晩は、帳の奥で衾をかけてキョーコを抱きしめて眠ることはよくある。
無邪気に縋り付くその小さな身体はいつのまにかふっくらと柔らかい心地へとかわり、芳しい匂いは心臓を逸らせ、いつの頃からか抱きしめて眠るのが苦痛になった。

だが、腕の中ですやすやと安らかに眠り、兄と慕うキョーコの気持ちを考えると、その先に進む事が憚られた。



――― が、もう限界…。



「姫…、姫は私のことが好きですか?」
「…ん…お兄様?どうしてそんな事をお尋ねになるの?キョーコはいつでもお兄様が大好きですのに…。」

むやむやと夢の国へと片足が入っている。

「姫、私が何をしても、嫌わないで下さいますか。」
「お兄さま……嫌いになんて…なりません…」

「姫…どうか、私を赦してください。」
「ん…。」

濃色の袴の紐をほどき、するりと単がはだけた柔肌に滑り込む。

「お兄様…!?」

「……キョーコ姫…」

「やっ…お兄…さ…!」

蓮は長年の思いの堰が切れたように、キョーコ姫のその白い身体に己を重ねた。





* * *



翌朝、いつもは早起きのキョーコ姫がいつまでも寝間にいることを訝しんで、奏江は寝間に声をかけた。

「姫様…いかがなされました?ご気分でも…。」
「…」
「姫様?」
「…お願い。…一人にして。」

その声のいつもと違う弱々しい様子に、奏江はたまらず部屋に入った。

「姫様!失礼いたします。」

薄暗い寝間の中で、袿に包まっているキョーコ姫。
押し殺したように、小さな嗚咽が聞こえるのは何故だ?
蓮がキョーコ姫のところに泊まる日は、奏江はお側仕えを控える。不届きものが寄ってきても安心だからだ。

だが…これはどうした事か?

おそるおそるキョーコの側に近づくと、枕元には文が置いてある。
移り香の匂う上質な紙と手蹟は間違いなくこの家の主人 蓮の君のもの。
その文に綴られた和歌に目を走らせる…



君恋し 相見て後ぞ なおさらに 
       今宵の月の 心もとなし 


~あなたが恋しくてたまりません。こうやって男女の契りを迎えた後は、更にあなたへの恋しさが募ります。今夜また月が昇れば会えるのに、それすらも待ち遠しいほどに…~





「・・・・・・」

一瞬の思考停止。
このいかにもあからさまな甘々しい和歌は…誰が…?

(でえええぇぇぇぇ~~~!?)

声にならない声を上げる奏江。
まさか、いつかはこんな日が来ると期待はしていたけれど、こんな突然に。

「ひっ…姫様、おめでとうございます。」

「めでたいだなんて…(ひっく)」

「だって姫様、ようやく蓮様が姫様を奥方に迎えられたのですよ?蓮様が男君…旦那様におなりあそばしたんです。これがめでたくないはずがないでしょう。さ、歌をお返しくださいませ。」
「…やだ。」
「またそんな子どもみたいな事を。姫様はもう大人におなりですから、奥方としての自覚をお持ちください。」
「だって、あんな…。」

そう言ったキョーコは赤くなってまた衣に隠れる。

「まあ!姫様、ですがたしなみの一つですわよ。どうぞ筆をお執りなさいませ。」
「…やっぱりやだ。」

奏江と押し問答をしばらくしたが、結局、キョーコ姫はその日、筆を執ることはなかった。






「お帰りなさいませ。」

何事もなかったように、社が声をかける。
既に奏江から聞いてはいるのだろうが、その知らん振りがありがたいやら照れくさいやら。

「ただいま…姫は?」
「東の対屋に一日中お篭りでございます。」
「そう…。姫のところに参る。」
「無論そうなさいませ。」

しれっと送り出されると、やはり気まずい。

「社…。」
「なんでございます?」
「その…何か…」
「私へのお気遣いは不要ですが?それとも、ようやく覚悟をお決めになりヘタレを卒業なされましたか…。と安堵の言がよろしいので?」
「いや…。そんなふうに思ってたの。」
「勿論でございます。奏江など我を忘れて一瞬小踊りいたしましたが、その後は妙に怒って日にちがどうとか易がどうとか申し上げ、大変でございました。」
「・・・」
「明々後日に北の対屋にお移りいただきます。そのように手配しても、よろしいですか?」
「…任せる。」
「では、ごゆるりと。」

大して表情を変えるでもなく、でもいつになく上機嫌の社に言われ、正殿から東の対屋に送り出された。




(続く)




うふ。
ついに本懐を遂げさせてみました。

ちなみに、用いた和歌(今後も含む)はすべてかばぷー作でして…このお話に取り掛かる前に、「まず和歌から作ってみよう!」と思い立ったのです。
これが大変…若かりし頃の古語辞典を引っ張り出し、万葉集を引っ張り出し、古文文法マスター的な参考書まで引っ張り出し、四苦八苦しました。
まあ、ストレートな表現ならいいか…と結局はこれに落ち着きましたの。
ヘタなんですけどね、本人は自己満足しております。

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