ヒカル君 7

この時代は、3日間通うんですって!!
大変よねえ・・・とは言っても、既にキョーコさんは自宅内いるので、夜這いもさぞ簡単でしょうね。




光ル君 7





「文を…いただけなくて残念です。」
「…」
「機嫌を…直してはいただけないのですか?」
「…」

「キョーコ姫!」
「…」

はあ…と溜息をついて気まずい雰囲気に浸る。
キョーコ姫がこれでは、今日は一緒に寝るのは無理そうだ。

几帳の影にあるキョーコ姫の後ろすがたを恨めしそうに見ながら床に寝転がった。

だが世間的にはどんな形であれ、三日間は通うのが通例だ。
そして、三日目の晩に三日夜餅を食べて正式に夫婦となる。

キョーコ姫がどんなに拒んだとしても、三日間は絶対に通い続ける。
この際、心も手に入れるのはそれからでもいい…。
まずは、周囲を納得させる既成事実からだ。

…なんて、なんだか捨て鉢な気持ちも起こらなくもない。

ふと思い返すと、今まで間違いもなく、よく何年も我慢して添い寝してきたものだと一人ごちる。
一度交わってしまえば、更に愛しさが募るものであるらしい…。
女体とはなんとあまやかで陶酔し易く、経験すると発病するがごとくに、もっともっとと欲望が渦を巻く。そして、これほどまでに脳の働きを鈍くするものとは知らなかった。

しかも、身体の欲求だけではない。心の奥深くから溢れ出るキョーコ姫への思い…
既に抑えることができなくて、キョーコ姫への思いが迸る。
側に居たくて、口付けたくて、抱きしめたくて、心がぎゅっと何かにつかまれているかのようだ。

キョーコ姫の寝所でキョーコ姫の香の匂いに包まれながら、一人で横になるわびしさといったら、どんな拷問だ…。

うっかり何かしないように自身の前に腕組みをしたまま、じっと目を閉じる。




「………か?…」

「?」

気のせいかと思うほど、遠慮がちにか細いキョーコ姫の声が聞こえた。

「…寝るのならば、こちらにおいでになりませんか?…お身体が痛くなります。」

キョーコ姫の声に驚いて、身体を起こす。
几帳の前のキョーコ姫がちらりとこちらを見るその気まずそうな表情に、蓮は輝くような微笑を浮かべた。

「うん…喜んで…。」

のそりのそりと蓮はその大きな身体をキョーコの側ににじり寄せた。



* *



翌朝、やっぱり起きてこないキョーコ姫を奏江は心配していた。

実は今朝方、寝所を出て行く蓮と鉢合わせた。
一瞬蓮は驚いたように目を見開いたが、照れ臭そうに微笑んで口元に人差し指を当てると、

「(もう少し寝かせてあげて…)」

と呟いて参内した。
あまりの艶やかで優雅な動きに、我が乳兄弟ながら本当に立派な公達に育ったものだと、お姉さんぶる。


寝所に入るとまだキョーコがぐたりと横たわっていた。

「姫様、髪をお洗いになりますか?今日はお天気も良うございますよ。」

そう言ってキョーコ姫を揺さぶる。
枕元には、匂う和紙と蓮の男帯。
文が開いているところを見ると、既にキョーコ姫も確認したのであろう…

チラッと見える文面に、噴出しそうになるほど赤面する。




 今日こそは いとほし君の あらましや
      我が思う妹は ただ一人のみ


~今日こそ、愛するキョーコ姫の可愛らしい笑顔が見れるであろうと期待していいのですね。(そして、心が通った証拠に文を下さりますでしょう?)。私が心から愛し、心に留めておりますのは、たった一人…あなた一人だけなのです…。~



“今日こそ”と“キョーコ姫”を掛けるあたりがこれまた憎らしく、それでいて直情的に“好きだ、好きだ”と訴える。
今日こそは、愛しいあなたが現れる 
→ 昨日はくれなかったけど、今日こそは可愛い文をくれるんだよねー?
なんて、どこの誰がおねだり…。

全く…あの男はどんな顔をしてこの文を書いていることやら…。
後朝の歌で通う男の愛情を図ると言うが、昨日といい今日といい、見ているこっちが恥ずかしさでのた打ち回りそうだ。

「さあ、キョーコ姫。髪を洗って差し上げますよ。お返事もお書きになりますでしょう?」
「…奏江…。」
「どうなさいました?」

恥ずかしそうに単の上に袿を着るキョーコ姫の様子がなんだか変で近くによると、もごもごと要領を得ない。

「どうしたらいいの? 疱瘡…じゃないわよね?」

戸惑うように確認するキョーコ姫の肌を良く見ると…体中に赤く刻まれた唇の痕が痛々しくもあり、照れくさくもあり…
奏江は眼を覆いたくなるほどの乳兄弟の思いの深さに改めて絶句した。







じりじりと文を待つのもこれまた色恋の喜びなのだなと、妙に浮き足立つ気持ちに納得して、蓮は出仕した宮中で敢えてのんびりと待った。
流石に今日は文をくれるであろうから、どんな文が届くのか楽しみだ。

昼過ぎになって、ようやく蓮の元に文が届けられた。
やはり、怒ってはいないらしい。
使いの者をねぎらい、いそいそと文を広げる。




しのぶれど いぶせしむねの 奥深く 
      あだなし夢や あからさまなり


~あなたを昔からお慕い申し上げておりますが、実は心が晴れない気持ちでございます。なぜなら、あなた様の私への思い(昨日の行為)は、儚い夢だとそう思っています。だってかりそめの恋に過ぎないのでしょう?そんなふうに心の奥では思っております。~




…なんとまあ…つれない歌を寄越すものか。

だが、こうでなくては困る。

「へえ~~~。蓮殿、それはどちらの姫君のお手蹟だい?」
「…さぁ?」

後ろから掛けられた張りのある声の主に、クスリ…と笑って答える。

声をかけた貴島は、さらりとかわそうとする蓮を意外な眼差しでみた。
隠したいのだろうが、蓮から滴る今まで見たこともないほどのあまりの色気に、おやおや…、と好奇心を掻き立てられ、本腰を入れる。

品のいい紙の選び方から、上流階級の姫君だと分かる。
透かしが入った和紙にさらさらと伸びやかな文字。
つれない内容ながらも、ちょっとばかり可愛らしく拗ねたご様子…。


(蓮の君…、やるじゃん。)

「好きだからこそあなたの本気を確かめたいの…かりそめの恋でないのなら、今日も私のところに来てね♡…なんて、可愛いことを言う彼女じゃないの。」

そうか、そういうふうにも解釈できるのか…と違う解釈に気を良くして、プレイボーイでならした貴島なら、どんな歌でもOK!っていう風に捉えそうだな。なんて思って再び歌をみつめる。

「…で、どこの姫?」
「秘密。」
「もう蓮の中将ってば、秘密主義なんだから~。心配しなくても、今回は横槍入れないって~~~!」

どうだか…と内心思うが、口には出さない。

「衛門の佐の村雨君も、もし君が他の姫を口説いているなら安心するよな~。なんてったって、君んちの子猫ちゃん、ロックオンしてるくらいだからさ。」
「…!」
「ほら~、目くじら立てないの!いくら式部卿の預かりだからって、いつまでも置いておけるわけじゃないんだし、君の後ろ盾もあるなら条件は最高だよね?」

余程、蓮が色っぽい文を受け取った事が珍しいらしい。貴島としては、蓮が他の女性に目を向けている間がチャンスだと思っているのだろう。ぺらぺらとしゃべりだす貴島の口は、留まるところを知らない。

「それにさあ、陰陽道の零乃…奴もちょっと怪しいよね?ああ、勿論光の中将も侮れないよ?可愛い顔してサラブレッドだしさ。君のところと釣り合いもいいんじゃない?村雨君よりはさ。でも、勿体ぶってても、いずれはどこかの公達がゲットするんだよ~?だ・か・ら、子猫ちゃん…みんなに紹介して?」

スーッと蓮の周りの温度が急降下するのにようやく気がついたのか、貴島が慌てて口を閉じる。

「いや、まあ今日あたり日がいいからさ、気をつけなよ?」

そんな事は百も承知だ…とばかり睨みつける。

「おお、怖…。」

あくまでも軽いノリで去っていく後姿を見送るが、やはりその姿は自信に満ち、色恋に長けている風情だ。
キョーコ姫の文を貴島に見られたことで、良かったのか悪かったのか…?
まあ、油断させると言う面では巧く行ったのかも知れない。
今日は文と一緒にキョーコ姫の元に男帯を残してきた。もし何かあったとしても、その帯とキョーコ姫の身体を見て相手が怯んでくれさえすればいい。社も奏江も上手くやるだろうが、安心材料は多いほうがいいのだ。

蓮は溜息をつくと、二条堀川の屋敷に牛車を向かわせた。



(続く)


歌の訳はぶっ飛び訳の部分がありますよ。
まあ、ニュアンスです!!(←いいのか?)
なんとなくってことでスルーしてください。

次は最終話です。
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