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ヒカル君 8

最終話になりました。

点検のため、通常より1時間遅れのアップとなり、申し訳ございません。

最後までお付き合いいただきまして、感謝申し上げます。




光ル君 8





前を行く蓮の牛車がどこへ寄るでもなく、真っ直ぐに二条堀川の自邸に入っていった事に貴島は違和感を覚えた。

「アレ…?今日、どこかに行くんじゃ…。」

そこで、人をやって家人に確認する。

“---間違いなく、殿は帰宅なさいました。”

と言う家人の答え。

「帰宅…した…とな?」

そこで流石に貴島は気がついたのか、一瞬で青くなった。

(わ~~~!やば~~い。俺、さっき光殿と村雨…焚き付けちゃった!後で俺も参入するつもりではあったけど…)

そう。蓮を絡めない男の密談だ。
『蓮の中将殿は今通っている場所があるのだそうだよ?今宵はそちらに向かわれるだろうね…』なんて内容で。

(どひゃー、くわばらくわばら、さっさと退散しよ…。)

願わくはこれから外出してほしいな、なんて一縷の望みを持ちながら、四条にある己の自宅を通り過ぎ、貴島は今通っている女人の元へと車を出した。



* * *



屋敷に戻ってすぐに、蓮は筆を執った。




 我が妹の わびしき手にも 愛しさは 
      降りて積もりて いまとづきなむ


~私の愛しい妻よ 寂しくつれないあなたの文字(お返事)を見ても、あなたを愛しいと思う心は更に降り積もるばかり。だから、今、この思いをあなたに届けに参ります。~


こんな和歌を香を焚き染めた扇に認め、東の対屋に贈る。
これから行きますよ…。なんて、他所ではあるのかもしれないが、既に屋敷内にいるキョーコ姫に恋愛ごとのいくつかくらい体験させてあげたいと思うのだ。

着替えを済ませて東の対屋に行くと、奏江がニヤニヤしながら待っていた。

「お帰りなさいませ。」
「ただいま…(こほ…)姫は?」
「殿のお帰りをそれはそれは心待ちにしておいででしたよ?先ほど文をいただきましたので、ようございました。」
「今日は日がいいからね。ようやく露顕(ところあらわし)かな。明日、頼むよ。」
「勿論でございます。お任せ下さい。」

本来ならば、女性の父がいろいろと知らん振りして準備するものもあるだろうが、蓮は兄代わり、父代わりも兼ねている。ここで頼りになるのはキョーコにとっても姉代わりの乳兄弟、奏江と執事である社だけだ。
奏江などは乳兄弟の気安さからか、情緒がないだの、ちったあ本気で口説きモードになれだのと説教をくれていたのだが、流石に最終日の今日ばかりはニヤニヤの中にも安堵感が見える。

どんな顔をしていいのか分からないまま、のっそりと寝所に入ると、キョーコ姫は食事を準備していた。

「お帰りなさいませ。どうぞ、夕餉と御酒などお召し上がり下さい。それと…三日夜の餅でございます…。」

おやおや…と昨日の様子と見比べる。
流石に二日も褥を共にすると少し砕けてきたのか、キョーコ姫は真っ直ぐに蓮を見つめた。

「あの…、今日の文…。」
「ん?ああ、つれない内容だったね。」
「やっぱり…。」
「でも、頭の中将あたりは、“気持ちを確かめたいから今夜も来てね…”とそう解釈して、言い方が可愛いと言っていたね…。」
「他の方が、ごごごご…ご覧になったのですか!?」

それを言った瞬間、ボン!と姫の顔が赤らむ。

(なるほど…さすがプレイボーイ。)
そっちが正解か、女心を掴みきっている。などと、変なところに感心しつつ、キョーコ姫がそこまで裏のある歌を詠むのかと若干の嫉妬を覚えてしまう。

「嬉しかったよ、キョーコ姫。なおさら今日はあなたを振り向かせようと気が急いた。」
「そう…ですか?」
「うん。こうして妻らしく迎えてくれるのも嬉しい。」
「…はい。」
「キョーコ姫、もっとよく顔を見せて?」
「お兄様…」
「もうお兄様ではないよ?」
「我が…君?」

言ったそばからキョーコ姫の顔は真っ赤に染まる。

上目遣いに見上げるキョーコ姫。
その可愛らしくも蓮をこれでもかと煽る姿と甘い響きに、神々しい笑みを湛え、姫の口を閉じた。



* * *



その夜半、蓮は周囲の騒々しい物音で目を覚ました。

やはり来たか、と思う反面、うっとおしくもある。
まあ、現実この時代は色恋が仕事みたいなものだ。
貴島あたりが何か勘違いをして、焚き付けたのだろう。
キョーコ姫への文を届けに来て、強引に入ろうとした不届き者の顔は想像できる。

その不届きな輩に知らん振りして、ここまで来させてトドメを刺してもよいが、キョーコ姫の近くに寄られることすら惜しい。

袿姿で廊下に出ると、社が控えていた。

「右大臣家のご子息、光の中将殿と、衛門の佐・村雨殿がお越しにござります。」
「そうか、やはり…。正殿へ参る」

正殿の玄関先まで通すように伝え、自分もそちらに向かう。
自宅内でも、最も簡素な袿姿であるが、この状況では蓮が最も身分が高いので気にしない。
しどけない格好で迎えると、両名は一瞬にして状況を悟った。

女人の匂いなどさせたことがない蓮の君…

確かに美しい男なのは間違いない。
だが、その美しさはあくまでもお人形のような美しさに見えていた。

それが今はどうだ。

いつも芳しい蓮の君の香りに、キョーコ姫のものと思われる品の良い香がふわりと漂う。
肌蹴たままの色っぽい袿姿は先ほどまで情事に耽っていたことを匂わせ、妙に色気がある美しさをその身に纏っている。

「どうなされた。今宵は邪魔などされたくはなかったが、先触れも無いほど火急の用でもお有りになったのか。」

静かに問いかけると、両名がひくっと身を竦める。

「今宵…は?まさか、本当で…。」

光はあらかた予想していたのだろう。
恋焦がれるキョーコ姫と蓮の秘め事が脳裏を掠めるのか、二の句が告げない。
そんな様子を見て、村雨が今日の目的を思い出したように問う。

「光の中将殿…何がまさかなのですか?参議殿、まさかって…。まさ…か…姫は…」

村雨の問いにも、顔色変えずに見下ろす蓮…無言の肯定だった。

「(うわ~~~ん!!キョーコ姫ぇ~。)」

声にならない声を口ぱくで張り上げ、おいおいと泣き出す光君。
もう一方の村雨は、今まで上司とは思っていたが蓮は年下。
女を口説くことも出来ない粗忽者よと鼻で笑っていたのに、目の前に見える色気滴る蓮の君に唖然として言葉も出ない。

そして、匂いたつような色気に紛れてはいるが、見下ろす蓮が纏うのは、それこそ震え上がるような鬼の気配…。

「お二方、何を思って参られたか、敢えて聞くまい。さて、露顕の宴には招待いたしてもよいが…どうなさる?」

蓮の君の鋭い眼光が突き刺さる。

光君は小動物のように泣きながらぶるぶると震え上がり、村雨殿も一瞬固まったのちに鳥肌を立てた肌をさする。
そんな二人を見下ろしたまま、静かにその形の良い口の端を少しだけ上げた。

「今宵は闇が深い…真っ直ぐに帰られよ。」

ぞくり…とするほどの不敵な笑みを浮かべ、蓮の君は呆然とする二人を残して正殿の奥へと消えた。






寝所に戻ると、キョーコ姫はまだ夢の中であった。
騒がしくしたのになんと大胆な…と思ってみるが、それほど安心しているのだと思うとなおさらに愛しい。

艶やかな黒髪を漉き、ぬばたまの睫毛に唇を寄せる。

明日は正式に北の対屋に移らせるつもりだ。

今までも、これからもキョーコ姫以外に恋文を贈りたいとも思わないし、妻を娶りたいとも思わない。

明日の朝は…そうだな、出仕はせずにいるのが正しい過ごし方だ。

陰陽師が言っていた“手に負えなくなる”とはどういうことか気にかかるが、もしかしたらこういうことかもしれない。



“出仕もしたくなくなるほどに、身を焦がしてしまうだろう…。”



―――それもまたよい。


事実、キョーコ姫に恋焦がれ、溺れきっている。
手放せとは…陰陽師ごときにキョーコ姫の何が分かるのか。


キョーコ姫を決して自分の元から離しはしない。

己の中にはっきりと鬼の気配を感じる。
これを零乃とやらは猛獣と称したのかもしれない…。
獰猛な獣がキョーコ姫を離さまいと、爪を立て、舌舐めずりをするさまが己の心に見て取れるようだ。

すやすやと眠るキョーコ姫の息遣いに、己の中で毛を逆立てていた猛獣がようやく落ち着きを取り戻す。



光ル君…  


先の帝の御落胤で、眉目秀麗、利発で文武に長ける蓮の君…

その輝くばかりの美貌を持つ男は、ただ一人の女性への愛に一途に、そして貪欲に生きる男であった。






(終)


平安パラレルなお話にお付き合いくださり、ありがとうございます。

これをはじめに思いついたのは、実はGW。
末娘に光源氏の話をしていて、ついつい妄想しちゃいました。
ただ、桃色なところから全体像を思いついたので、(桃収穫祭だったし)
今回に限り、娘にも作品を見せています。
話が通じるかな~?と不安になっちゃったので…。

とりあえず、源氏物語の大筋を知らない中学生に読めたので、ホッとしました。

書くのは和歌ができてからは、本当に一気に書き上げました。
通常だったら、ほいほいアップしてしまうんですけど、勇気もなくて…だからお待たせしてスミマセンでした。

拍手やコメントが何より励みになります。
どうぞよろしくお願いします。

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