Peach Time 2

窓口の女性が、求人先に連絡を入れる。
事務連絡のあと、詳細な契約内容について確認がなされ、面接の日程が決まった。
面接の場所は、例のマンションの隣にある一軒家。
都心に程近い住宅街の真ん中にある、古びた平屋の玄関先にキョーコはいた。


Peach Time 2




“ピンポーン”

家の奥に人の気配が感じられる。

『どなた?』

インターフォンから聞こえてきたのは、既に間違う事のないあの声
どうしてこんなところで、彼の声を聞くのか?
キョーコの心臓が一瞬跳ねた。

「私、求人を拝見しました、最上キョーコと申します」
『ああ、ちょっと待ってください』

“カラカラ…”

「あれ?君…」

玄関が開いてすぐに聞こえた声は、そんな風だった。

「こんにちは…ニコニコ配送センターの…と言いたい所なんですが、契約期間が終了しまして、それで、こちらに…」
「ああ、そうなの?どうぞ、入って」

すんなりと部屋に通された。

「業務内容と、契約内容は聞いてる?」
「はい。食事のお世話と洗濯、掃除、それと作業補助と伺っております。」
「うん、毎日5~6時間程度。土日は基本休み。タイムカードを準備するから、仕事の開始と終了時刻は君が決めていい。で、料理は出来るの?」
「あ、一応和洋中は一通りできます。特技はかつら剥きでして…」
「かつら剥き?大根の?」
「はい、大根の!」

ぶはっ…!と、その男はいきなり噴出した。

「くっ・・くくく・・・いまどきそれが特技って珍しいね」
「あ、他にもありますよ?オリジナル人形作りとか…」

一瞬、男は目を見開いたが、それを打ち消すように、ふんわりと笑った

「ああ…そういえば、君はアレのことを知ってるんだったね。でも、作業補助はそれとはちょっと違うんだ」
「違う、と申されますと?」
「これ」

と渡された一冊の本
その帯に書いてあったのは、

  樋摺久遠 最新作 『禊(みそぎ)』
~待望の最新刊!官能小説の粋を飛び出て、エロスを追及した芸術ここに現る!!~

「あの…これは…」
「俺の本業、一応小説を書いている。官能小説だけれどね?」
「官能…」

その意味を脳がゆっくりと理解した途端、キョーコの顔が“ぼふっ!”と音がして真っ赤に茹で上がった。

「クスクス…君、反応が新鮮だね。フィギュア製作は趣味の副業で煮詰まったときにいいんだ、作業場が隣のマンション。」
「あの…」
「ん?」
「お名前、敦賀さんでは?」
「うん、敦賀蓮が本名。小説はペンネームでやってる」
「そうですか。本名が敦賀蓮さんで、小説が樋摺…久遠さん。」
「どうする?パソコンで文字が打てるなら、この小説のほうの手伝いも含むんだけど、出来そう?」
「具体的には?」
「う~ん、まあ…それは追々。試用期間は1ヶ月。能力によっては手当ての追加は出来るよ?」

一日7500円の収入+能力給
たった5時間程度の勤務でそれだけ毎日稼げたら、御の字だ。

「お願いします!是非、お仕事をさせてください」
「じゃあ、決まりだ。早速今日からお願いしていい?」
「はい!それと…あの…住み込み可って書いてあったんですけど…」
「うん、可だけど?」
「あの…それ、利用してもいいでしょうか?」

蓮は考える隙もなく即答した。

「いいよ?そうすると契約書をもう一通準備しなくちゃいけないから、あと少し待ってもらえる?部屋は準備するから。来週から入ってもらうってことでいいかな?」
「はい!とても有難いです!どうぞよろしくお願いします!」

内心やったー!!と大喜びしながら、キョーコは丁寧に腰を折った。





「あの、お口に合いますでしょうか?」

味噌汁に口をつけた時、おそるおそるキョーコが問うと、蓮はとても驚いた顔をした。

「うん、とても美味しい。凄くびっくりした。料理、上手なんだね」
「あ、たまたま育ったところが旅館なので、こういったお料理は小さい頃から目で覚えて来たものですから」
「旅館?」
「はい。まあ、見よう見まねですけど」
「そう。ご馳走様、美味しかったよ」

早速仕事をといわれ、買出しに出かけたキョーコ。
冷蔵庫には水とビールしか入っていなくて、食材は何もなかった。
一週間分だと渡された食費はキョーコの一か月分ですか?という金額で、やりくりは難しく無さそうだった。
部屋は意外と片付いていて、部屋掃除が特別に必要なタイプには見えないが、昔ながらの畳の部屋、板張りの床の隅には埃が見える。
庭は流石に草茫々…さほど広くはないが、一体どれくらい荒らしたらこうなるんだろう…?

「お好きな食材とか、お料理とか伺ってもいいですか?」
「いや、特にないんだ。好き嫌いとかもない。出された物は口に合えば食べるよ。ただ、うっかりすると食事そのものを忘れるから、残ってても気にしないで。メニューは君に任せる」
「あとは、参考までに伺いたいのですが、その、家政婦協会とかそういうのを利用されたりは?」
「あるよ?でも、あんまり長続きしなくて。アシスタント的な業務は頼めないし、出版社からお世話に来てくれたこともあるけど、今度は家事のリクエストが難しくて、いろいろ試行錯誤の結果、こういう形に至ってる」
「そうなんですね」
「うん、だけど、試用期間中にギブアップする人も多いんだ」
「はあ、こんないい条件なのにですか?」
「だとは思うんだけど…ね。まあ、君も無理なら無理って言って?」
「…はあ…」

いろいろ不明な点が多すぎる。
勿論、時給重視のキョーコにとって、資金も潤沢にある調理ほど楽なものはないし、好き嫌いもないときた。掃除も洗濯も大した労力ではない。小説のアシスタントと言っても、聞けば電話を取ったり、原稿チェックに付き合ったり、編集者の対応をしたりと、さほど難しく無さそうであるし、たまに降りてきた言葉を記録して欲しいと、ICレコーダーや使っていいパソコンまで指示されたばかりだ。

「ご馳走様、とても美味しかったよ。今日の分は3時間でいいかな。次からは振込みにさせてもらうから、来週からよろしく」
「はい、敦賀先生!いえ、樋摺先生?…やっぱり敦賀先生かな?」
「どっちでもいいけど、蓮でいいよ」
「いえ、敦賀先生と呼ばせていただきます。どうぞよろしくお願いします」

現金でもらえるなんて、ラッキー!とほくほく顔のキョーコは、きっちり礼をすると、ウキウキして敦賀邸を後にした。




 3話に続く)
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