シーン112

シーン111。用意…スタート!カチン!



「どうして…どうして、捨て置いて下さらないのですか?貴方様をこれ以上知ってしまったら、私…。」
「もう、自分を抑えることはしない。お前が誰かのものになってしまうなんて、これ以上耐えられない。」
「でも、私はもう貴方様のお側にいる事すら、叶いません。」
「雪路…逃げよう。俺と一緒に。」
「お願い…その名を呼ばないでくださいまし。どうして貴方様は、御自分を粗末になされます。私は…貴方様とは…」



時は江戸時代末期、吉原の花魁 玉鬘はこの界隈では、最も位の高い遊女の1人。
庶民には、目通りさえ出来ない。
豪商に用心棒として身を置く竹之丞は、その主人の遊びの席で花魁として存在する幼馴染の雪路と出会う。
互いに貧しい武家の生まれだったが、それでも雪路は美しく聡明であった。
教養を持つ彼女が何某かの理由で吉原にいるのは、その時代の悲劇である。
玉鬘という美しい花魁の悲劇と幕末という動乱に向かう男達の生き様を描きだす、新開誠士が監督のこの作品。
「動乱の華~玉鬘~」

よりリアルに、煽情的に時代の刹那を映したいと指名した女優は京子。
あどけない少女から、不遇の時代を経て、男を狂わせ翻弄する妖艶な花魁への成長をまざまざと見せ付ける。

そして、数多の若手俳優の中から京子の相手役に指名されたのは、敦賀蓮だった。
新開には、蓮のキャスティングに葛藤があった。
秀麗すぎる美貌、日本人離れしすぎるプロポーション、だが、蓮でなければならない理由もあった。
それが今から撮影するシーン112。この映画の最大の濡れ場だ。
キョーコと蓮が付き合っているのは、本人達は隠しているが一部の人間にとっては公然の秘密。
リアルを追求するならば、女優京子の一番いい顔を引き出す必要がある。
おそらく、それが出来るのは蓮以外にはいない。
勿論、京子はたとえ相手が誰であろうと、それなりのもので魅せてくれるだろう。
だが、それなり…では、困る。

新開の蓮に対する心配は杞憂に終わった。やはりこの男は幕末の泥臭い時代背景にも、きっちりと合わせてくる。カメラワークとフレーム操作のみでこちらの望むクオリティをあっさりと超える。玉鬘への切ない気持ちも痛い程に伝わってくる。京子の代表作となるであろうこの映画に賭ける蓮の意気込みは、かつてないほどだった。



蓮と京子のシーンを見て新開は確信した。

(ふぅん…やる気だな、アイツ。)

スタジオの隅に控えている社を振り返り、手招きする。

「社さん。アイツ…これから本番決めるみたいだから、事務所に…いや、社長さんに一応連絡しておいて下さい。」

「え?何を連絡…」

ニヤッと新開が笑う。

「京子の新境地を開いてくれる気みたいだから。」

「え?ま…まさか」

「多分、そのまさか…でしょうね。」

不敵な笑みを浮かべて、新開が指示を始めた。

「OK.カット!カメラ位置、照明、変更するぞ。」

何やら主演の2人にカメラ位置や、撮りたいアングルを説明している。
それに合わせて、スタッフもバタバタと動き出す。

「10分後に再開します。敦賀君、京子さん、さっきの説明通りでお願いします。アングル変えて!シーン112 スタンバイして。」

再び新開が社に近づくと

「このまま、本番に行きます。うちからはフォローさせませんから、何か…準備してください。そうですね、バスタオルとか。さり気なく2人に近寄って下さいね。終わったら、しばらく撮影隊は出しますから。」

(ゴクリ…)

社の喉が渇いてきた。まさかこんなところで、蓮がそんなことを考えているなんてと思うが、ありえなくもない。取り急ぎ社長に連絡を取り、その後の準備をした。社長からもフォローを命じられた。蓮ではなくキョーコへのものだが。



撮影開始の合図と共に、スタジオは異様な空気と緊張感に包まれた。

胸元ギリギリまではだけた襟元、ほんのりピンク色に染まる汗ばんだ柔肌。
それ以外は蓮の背中によって視覚的に遮られる。
布団に隠され見えそうで見えない腰から下の動きが観る者の想像力を掻き立てる。
ある者は背中に盛り上がる美しい筋肉とその滑らかな動きに見とれ、ある者は目を潤ませて男を見上げる艶めかしい表情と仰け反る白い喉元に息を呑む。

わずかに聞こえる息遣いさえも美しい…と誰もが思った。

玉鬘の白い指先が男の背中に赤い爪痕を残し、そのシーンの撮影は終了した。


「カット…オッケーです。一旦休憩を入れます。チェックしますから、全員スタジオを出てください。あぁ、メイクさんも後でいいです。」



新開の声が響く。
普通、監督はこんな指示はしない。
今日は特別だ。


社が静かに2人に近づく。
蓮に近づくような振りをして。

「蓮…これ、キョーコちゃんに…」

背中でキョーコを隠しながらバスタオルを受け取り、
誰の目からも触れさせないようにキョーコにそっとかける。

「すみません。少し…」

「ああ。ここに置いておくから。」

僅かに感じるキョーコちゃんの嗚咽。
準備したものを近くに示して、社もスタジオを後にした。




その映画は空前の大ヒットとなり、新開の予言通り京子の新境地を拓いた代表作となった。
花魁、玉鬘の苦悩と狂気、時代に逆らえず儚く消える初恋と官能的なワンシーン。
劇場に足を運んだ女性達は皆涙し、男達は皆、息を飲んだ。


撮影後のスタッフの間では、密やかに緘口令が布かれた。
あれだけの幻想的で美しいものを見せられて、下世話に噂などしようものなら、今後、新開監督の撮影に加わるどころか、芸能界では生きていけない。一部分の空気が読めない輩は、当然の様にローリィから手が回され抹殺された。




だが…後日

「まさか本気で本番決めるとか、思ってなかったけど。」
「すみませんでした。配慮して頂きまして。」
「いや、いい画撮らして貰ったから、おあいこ。でも、まさかだよなぁ~。何、確信犯なの?」
「さあ、どうでしょうね。アレと同じでご想像にお任せします。」



きらびやかに微笑む色男の左指には、細く控えめな輪が嵌まっていた。





(終)







はうぅ…。ごめんなさい。まさか…本当に?の巻きです。
蓮様の背中をただ書きたかっただけなのに、こんなことに~~。
玉鬘、儚いところが結構好きなんです。

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