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ボン・ボン・ショコラ 4

ようやくお話が動き始めます。
今まで我慢して読んでくださって、ありがとうございます。







ボン・ボン・ショコラ 4




客が一人もいなくなったカフェのテーブルを拭きながら、キョーコは窓の外を見た。

ビタートリュフに何度挑戦しても、何度味を変えようと思っても、ブランデーの香りが濃厚で苦味の強いショコラが出来上がる。多少の差異はあるものの、一貫してそれはかわらなかった。

(まあ、当然かもしれないわよね。敦賀さんが苦いショコラが食べたいって仰って、そのために作ってるんだから。)

けれど、今までにチャレンジしたキャラメル風味のトリュフも、抹茶のトリュフもやはりどこか大人の雰囲気で、試食のために小さく切り取って提供しても、決して女性向けとはいえなかった。

だから、客層も次第にボン・ボン・ショコラはケーキの生クリームが苦手な男性への贈り物へとシフトしていった。


カップを片付けていると、窓の外をスーッと銀色の車が通り過ぎ、背の高い影がその助手席から降りた。

(あ!敦賀さんだ)

二言、三言、窓を下げた運転席の人と会話を交わし、やがて車は遠ざかる。
傘もささずに、こちらへ真っ直ぐに向かう縦長のシルエットに、キョーコは見惚れた。

チリン、チリン…

「いらっしゃいませ。」
「こんにちは、最上さん。」
「敦賀さん、雨にぬれてらっしゃいますよ?」
「ん?…ああ、ごめん。ちょっと急いでたから。」

ドアの側で軽く肩の雫を払おうとしたとき、キョーコは思わず言ってしまった。

「タオル!どうぞ使ってください。」

ポケットに入っているハンドタオルを両手で差し出したのだ。

「…ありがとう…」

蓮は一瞬固まっていたが、戸惑いながらそのタオルをキョーコから受け取り、躊躇いがちに顔に当てようとした。

「拭いてください。ちゃんと!お体が資本なんでしょう?風邪を召したらダメですよ!失礼します!」

ハンドタオルを奪い返したキョーコが、爪先立ちで蓮の頭と肩をポンポンと拭いていく。
カウンター越しでないキョーコの体温を感じられる距離があまりに久しぶりすぎて、鼻の奥がツンとなった。

「すみません、いきなりお客様に失礼しちゃって。あ!タオルは綺麗ですから、大丈夫ですよ?」
「いやだな、分かってるよ。疑ってないから大丈夫。拭いてくれてありがとう。」

間近に見る蓮の微笑みに、キョーコは身を硬くした。
絶対に、いや多分、顔が赤くなっているかもしれないと思えるほど、どぎまぎしている。
キョーコはタオルをポケットに突っ込むと、さっとカウンターに戻った。

「あ、タオル、洗って返すよ」
「いいえ!とんでもないです。濡れたうちに入ってませんから、大丈夫です。」
「ありがとう…あ、今日は、どれがおすすめ?」

自分でもぎこちないなあと蓮は思いながら、ショーケースを覗いた。

「はい。新作を作ってみました。敦賀さんがリクエストしてくださったビターなトリュフです。」
「作ってくれたの?嬉しいな。それ、貰うよ。」
「はい、お一つですね?」
「はい、その通りです。」

ふふふっと笑うと、キョーコはトリュフを取り出し、箱に詰めた。

「お待たせしました。300円頂戴します。」
「いつもありがとう。…ところで、今、お客さんがいないみたいだから、申し訳ないけど、10分ほどここで待たせてもらえないかな?」
「ええ、それは構いませんが…」
「助かるよ。社さん…俺のマネージャーなんだけど、ちょっと用事があるらしくて。だからその間、ほんの少しだけ。」
「勿論いいですよ。どうぞ、カフェをお使いください。」
「ありがとう」

レシートを渡したあと、キョーコはカフェに案内した。

案内の後、キョーコがカフェを振り返ると、テーブルの上にはちょこんと小さな紙袋。
アンティーク調の木目の椅子に腰掛けて、テーブルの下に入りきらない長い足を組んで敦賀蓮が座っている。ゆったりと背もたれに背を預け、顔は窓に向けられている後姿は信じられないほどに美しくて、何て素敵な画なんだろう。

キョーコはカウンターからしばらくその姿を眺めていたが、思い立ったようにキッチンスペースに引っ込んだ。



蓮はカフェの椅子に座るときから、キョーコを見ていた。
雨で薄暗くなった屋外ではなく、窓に反射しているキョーコを見つめていた。
カウンターでこちらを覗き込んでいる様子も、少し首を傾げるその姿も、鏡のように窓に映ったキョーコの姿を、じっと見つめる。
これほど長い間見つめていられるのは、久しぶりすぎて、不意にキョーコがカウンターの奥に消えたときに、無性に淋しくてドキッとした。

「どうぞ…」

その声とともにコーヒーカップと小さな皿がテーブルに置かれた。

「最上さん?」

「あの、敦賀さんはいつも私のショコラを買って下さる常連さんで、お得意様なんです!だから…その、いつも買って下さる御礼に、私からのサービスと言う事で!」

「え……いいの?」
「は、はい!勿論であります!どうぞ召し上がってください。ついでに、試作品の感想などいただけると、今後の参考に出来ますので、お願いしたいのですが、いかが…でしょうか。ずうずうしいですかね?」

「ありがとう、喜んでいただくよ。」

遠慮がちに差し出された、白いお皿の小さな一粒。
薫り高いコーヒー。

蓮はトリュフを優しくつまみ、じーっと感慨深く眺めたあと、いつものようにトリュフに小さく口付けた。



ちゅっ…



その瞬間、キョーコの心臓が一瞬止まり、やがて早鐘のように打ち始めた。

口付けたその小さなショコラをゆっくり口に入れる。
目を閉じてショコラを味わう蓮が、まるでスローモーションのように感じられる。
蓮が口付けたのは小さなショコラなのに、まるで自分がキスされたみたいに、全身が沸騰して、自分がそこで深く口付けられたように喉が渇く。

コクリ…と喉がなる気がした。

動かなくなったキョーコに気付くことなく、小さなそれを時間をかけて存分に味わった蓮は、ゆっくりと眼を開けた。

「凄く美味しい。これは…柚子?」

「あ…、はっ、はい!敦賀さんはオランジェットがお好きみたいなので、もしかしたら、他の柑橘類もお好きかもと思って、作ってみたんですが、いかがですか?」
「うん、いいね。ただ、これはもう少し甘いチョコレートの方が合うみたいだ。」
「そうですか…お口には合いませんでしたか。」
「う~ん、そうじゃないよ?最上さんの作ってくれるものだったら、何でも美味しい。」

その言葉に、キョーコの頬が一瞬で赤くなる。

「そ、そそそ…それ!どどどど…どういう…」

キョーコが蓮に質問しようとしたときだった。

「あ、ごめん、時間切れ。」

胸ポケットを押さえる仕草をした蓮は、席を立った。

「ごめんね。折角出してくれたのに…コーヒーもいただきたかったんだけど、残念。続きはまた今度。また来るよ、ありがとう」

小さな紙袋を大事そうに掴み、蓮は店を後にした。
店を出て振り返ると、キョーコの思考は停止したままのようで、呆然と立ち尽くす姿に嬉しくなる。

  ---ようやく繋がった。

無意識に蓮の表情が緩んだ。





「どうした?今日は会話でも出来たか?」
「ええ、ようやく。ビターなチョコレートが甘く感じるくらいに…」

「そうか、よかったな。」


緩んだ顔を隠すそうともせず車に乗り込んだ担当俳優に社は小さく驚いた後、にやっと笑うとアクセルを踏んだ。





(続く)



“石(コーン)”でなくショコラです。
トキメキ自家発電中・・・

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Comment

Re: タイトルなし
>じゅん○ さま

コメントありがとうございます。
きゅーってなってますか?とても嬉しいです。
私も馬鹿タローは大嫌いなのですが、今回はムカつきながらも、名前のみ書きました。ちょっとだけ不本意。(−_−;)
蓮さんに頑張って欲しいと思っています。どうぞ最後まで、ゆるりとお付き合い下さいね。

  • 2016-12-25│10:31 |
  • かばぷー URL│
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