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ボン・ボン・ショコラ 5

キョコさん、ハッピーバースディ!
お誕生日のお祝いです。






もうすぐクリスマスがやってくる。
クリスマスはとても幸せな時間…でも、キョーコにとっては少しだけ寂しい時間だった。



ボン・ボン・ショコラ 5




蓮のアドバイスのとおり、季節限定の柚子ショコラは、チョコレートを少し甘めにする事で人気商品となり、オランジェットとともに数日の内に完売した。
はじめは、ショーケースのほんのわずかなスペースだったショコラの場所。2列だったスペースを、店長が5列分に増やしてくれた。

冬が近づき、もうすぐクリスマス商戦がやってくる。
にわかにクリスマスカラーを取り入れた店内。気持ちも自然とクリスマスに浮かれ始める。

ちょっとした贈り物にと、日持ちのする焼き菓子を買い求める人も多くなり、クリスマスケーキの予約も受け付けると、仕事もだんだんと忙しくなってきた。「今年は少し多めに注文をとってみようかな。」と店長も張り切っていた。

キョーコの発案で小さなお一人様向けのクリスマスケーキも作ってみた。
いくらこのあたりが住宅街といっても、家族みんなで大きなケーキを囲むばかりではない。
もしかしたら、一人や二人で小さなホールケーキを囲む、ささやかな喜びだってあるかもしれない。

そんな妄想に耽りながら、デコレーションを続けた。






12月24日がきた

街はイルミネーションが輝き、冷えた空気に恋人たちの呼気が暖かく曇る。
クリスマスカラーに彩られたケーキショップも、とても忙しい日になった。

受け取り予約のクリスマスケーキを最後に渡し終えて、店長とキョーコは一息ついた。

「お疲れ様、キョーコちゃん。さあ、あとひと頑張りだね。明日の仕込みをしておこうか。」
「はい、頑張りましょう!」

クリスマスのパティシエには、休みはない。
そのかわり、年明けには少しまとまった休みがもらえるはずだ。
翌日の仕込みに入ろうと、カフェのカーテンを閉めた。そして、店の入り口に鍵をかけるため、ドアに近づいたときだった。

チリン…

「…と、ごめん、閉店しちゃった?」

慌てて、駆け込んできたのは敦賀蓮だった。

「いらっしゃいませ。今、閉めようとしていたんですけど、大丈夫ですよ?どうぞ。」
「ありがとう。久しぶりだね。」
「本当ですね、お仕事お疲れ様です。今日は何になさいますか?…といっても、あらかた売切れてしまったのですけど…」
「本当だ…。そうか、今日はクリスマスイブなんだ。」
「!敦賀さん、もしかして今、思い出されたんですか?」
「ソウミタイ…」

プッ…
片言で人ごとのように言う蓮に、思わず噴出した。

「敦賀さん、この前クリスマス殺人事件ってドラマにも出ていらっしゃったのに、忘れるって…俳優さんって本当にお忙しくて大変ですね?」
「見てくれたんだ。そんなに、笑わないでよ。」

困ったように、一緒に笑った。

「クリスマス…聖なる日、キリストの誕生日か…」

蓮がショーケースを見つめたまま、口を開いた。

「ねえ、最上さんの誕生日は…いつ?」

ゆっくりと、視線をキョーコに戻すと、キョーコは目を見開いて蓮を見ていた。

「いつ?」
「いつ…って、その、明日…ですが…」

ぎこちなく答えた後、ゆっくりとキョーコの耳が赤く染まっていく。
それを確認すると、また蓮はショーケースに目をやった。

「そうか、ねえ、最上さん、その隅にある小さなホールケーキは、売り物?」

ショーケースの隅で値札を外された小さなケーキが、申し訳無さそうに一つだけあった。
聖なる夜に相応しく、真っ白なクリームにふわふわに削ったホワイトチョコレート。小さなサンタが嬉しそうにちょこんと乗っていて、側にはこれまた小さな天使の砂糖菓子。キョーコの趣味でデコレーションされたであろうそれは、まるで天使もサンタにプレゼントをもらっているみたいだった。
実は、今日一つだけ売れ残ったそのケーキの値札をはずしていたのは、キョーコが持ち帰るため。もし残っていたら、持ってかえっていいよと店長に言われた最後の一個。

けれど…

「お店を閉めようとしていたので、値札を外したところだったんです。これになさいますか?」
「うん、今日はそれにするよ。」
「はい、保冷剤をお付けしますね。」
「あ、それと、プレートをお願いしていいかな?」
「はい、どのような?」

蓮は、キョーコを見て告げた。

「Happy Birthday」

キョーコは目を見張った。
誕生日の誰かに送るメッセージカード。
誰に送るのだろうと考えた瞬間、ちくっと心臓が痛んだ。

「分かりました、少しお待ちください。」

小さなケーキにメッセージを書き込んでもらったチョコレートを沿え、レジに戻る。

「こちらでよろしいでしょうか?」

中身を確認してもらうと、蓮はにっこりと微笑んでキョーコを見た。

「うん、ありがとう。」

そんな些細な仕草にも、ドキドキしてしまう自分がいやだ。とキョーコは思った。

クリスマスの夜に蓮が店に来たことも、ずっと待っていたみたいに嬉しくて…
きっと誰かのためのケーキなのに、自分に笑いかけてくれたみたいに苦しくて…
でも、これは絶対に敦賀さんにとっては迷惑な気持ち…

気持ちを悟られぬよう、ケーキを丁寧に箱にしまい、ラッピングを施す。
会計を済ませ、ケーキを手渡したあとのことだった。

「最上さん。」
「はい?」
「メリークリスマス…それと、頑張り屋のパティシエさんに、少しだけ早いけど誕生日プレゼント。」

「…は?」

すっと伸ばされた手がキョーコの手を取り、ケーキの小さな箱が手のひらに乗せられた。
蓮はにっこりと笑って、キョーコの頭を軽く撫でた。

「じゃ、おやすみ…よい夢を。」


スッと髪から指が離れていく。

カラン…

店を出て行く蓮の後姿を見つめたまま、キョーコは動く事はおろか、声を発することすらできなかったのに、蓮が店を出て行った途端、身体を震わせるような気持ちが、ざわざわと足元から込み上げて、全身を真っ赤に染めていく。

―――これは…恋なの?
―――私、敦賀さんのことが、好き…なの?

ぷしゅぅ~と言いそうな頭をゆっくりと下げて、キョーコはその場にしゃがみこんだ。




(続く)
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