ボン・ボン・ショコラ 6

キョコさんの勤めるお店の店長さん、いい仕事してくれます。
誰ってことはないんですけど…。本誌だと誰だろう?
今回は少し短めですがお許しください。

今年もいよいよ終わります。
今年は、皆様に多くの作品を読んでいただくことができて、とても幸せな1年でした。
これからも思いつく限り、作品が書けたらいいなと思っております。

どうぞよいお年をお迎えくださいませ。







「よかったじゃない、誕生日プレゼントをもらえて。」

背後の厨房から、いきなり声が聞こえた。

「はっ…!あわっ…店長?」
「彼…敦賀蓮さんだよね、俳優の。」
「あ、そうです。ご存知でしたか?」
「彼を知らない人間はいないでしょ?うちみたいな小さな店に来てくれて有難いと思ってたよ。今度、サインを貰いたいよね。でも、無理かな?」
「どうでしょう?でも、もしサインを貰っちゃったりすると、お客さんが増えて敦賀さんが来れなくなっちゃいますよ?」
「あ~そうか、そりゃ困るな。じゃあ、今度、お礼を言うにとどめておこう。」

店長はそういうと、また厨房に姿を消した。




ボン・ボン・ショコラ6




怒涛のクリスマスが過ぎ、お正月も過ぎ、ようやく落ち着いた頃。
この頃には、店内は焼き菓子中心になり、キョーコにとっては焼き菓子のラッピングも楽しい作業で、女の子ならではのアイデアと仕上がりに店長も満足そうだった。
そして、次の2月のイベントに向けてキョーコのショコラも出番が増えた。


正月休みはバレンタインに向けての新しいレシピを考える期間で、結構のんびり過ごした。
けれど…ふっと、意識が蓮に向かう瞬間をキョーコは感じていた。

ショコラの新メニューを考えるとき、必ず蓮の顔を思い浮かべる。
照れくさくて、でも嬉しくて…
蓮が食べるかもしれない前提でショコラを作っている自分に吃驚した。


もし、敦賀蓮という俳優をテレビの画面の中で見つめるだけなら、こんなにときめいただろうか?
スクリーンや街のポスターだけの存在に、心が躍っただろうか?



――― 否


キョーコが知っている敦賀蓮は、ケーキショップに来てくれる背の高いお客さん。
人気のない時間帯を選んで、こっそりとやってきては笑顔を絶やさないお客さん。
多分甘いものは苦手だろうに、なぜか必ず一つだけショコラを買ってくれるお客さん。

画面で見るよりもずっと笑顔が素敵で
スピーカーを通して聞くよりもずっと声も素敵で
物腰も凄く紳士で、近くに寄るとふわっといい匂いがして、

何より…“最上さん”って呼んでくれる。
そして、自分の作ったショコラを“美味しい”と言ってくれる。

ふとショコラに口付ける蓮の姿を思い出し、顔が火照る。
でも勘違いしちゃいけない。

きっと敦賀さんには彼女もいるだろうし、自分のような人間と深くかかわる事なんて、この先間違っても絶対にない。誕生日プレゼントだって、クリスマスが誕生日な自分を気の毒に思って、気まぐれにケーキをプレゼントしてくれただけに違いない。
自分だけが特別だとか、勘違いしているわけじゃない。

けれど、想いは…想うことだけは許されてもいいはずだ。

(…美味しいって、食べてほしいな。)

そう思って、彼を想ってショコラを作るのは、誰にも明かすことのない俳優、敦賀蓮への仄かな憧れであり、恋心なのかもしれなかった。







「店長、これ、新作なんですけど、食べてみていただけますか?」
「おや、精力的だね。どれ…」

店長はキョーコの新作ショコラを口に入れた。

「ふむ…味は悪くはない。でも、なんだか物足りない。」
「物足りませんか?」
「うん。今までと同じようにブランデーやリキュールなら問題ない。こういうものを作りたいという意図はわかるけど、でも、これじゃダメだ。デザインももう少し工夫してご覧?いいものが出来上がると思うから。」

店長はやんわりと、でも、きちんとキョーコに改善を求めた。

「分かりました。もう少しチャレンジしてみます。」

キョーコは目を輝かせて、出来上がったばかりのショコラをトレーに戻した。

チリン…チリン…

「いらっしゃいませ!」

その日初めてのドアのベルの音に元気よく振り向いた先、お客さんの姿を見て若干気落ちした。これも正月が明けてから何度も繰り返しだ。

結局、クリスマスプレゼントに貰った小さなケーキのお礼を言い忘れていた事に気がついたキョーコは、次に蓮に会ったら、必ずお礼を忘れないようにしようと心に決めていた。けれど、あれから正月を挟んでざっと二週間。あれ以来、蓮はまだ店に来ていないのだった。

小さく、ほんの小さい息をゆっくりと吐くと、ショーケースの前に立った。

(そんな都合よく来店してくださる筈がないじゃない。敦賀さんだってお忙しいに決まってるのに。)

自分に喝をいれ、お客様のケーキを箱につめる。

カラン…

「いらっしゃいませ!」

そう言って振り向いたとき、息が止まった。

一瞬の間の後、振り絞るように会計の金額をはじめの客に伝えた。
喉の奥で動悸が激しくなって、自分でも信じられないくらい、声が震えているように感じる。

「ありがとうございました。」

会釈とともに、店を出て行く客にようやくその一言を口に出した時、次に入ってきた客がキョーコに声をかけた。

「こんにちは、最上さん。久しぶりにようやく来れたよ。」

「いらっしゃいませ。敦賀さん。お正月はお忙しかったんですか?」
「うん、割と忙しくしてたかな。昨日まで撮影でちょっと日本にいなかったから…最上さんはゆっくり出来た?」
「はい!お蔭様で。新作を考えていたんです。」
「そうなんだ、新作あるの?」

「…えと、実は今日、店長に試作品を試食してもらったんですけど、まだもうちょっと店に出すレベルではないのです。」
「そうか、残念。じゃあ、今日はどれにしようかな」
「あの…っ、敦賀さん、クリスマスのときは…」
「ん?どうしたの?」

首をかしげるようにこちらを見た、蓮の穏やかな表情に安心する。

「その…っ、ケーキをプレゼントしてくださって、ありがとうございます!!」

しばし固まった蓮は、緊張して震えているキョーコのおでこを少しだけ遠慮がちに、躊躇いながら撫でた。

「お礼なんて、俺が最上さんにあげたかったんだ。この前のチョコレートのお礼に。あ、でも、迷惑じゃなかった?」
「迷惑だ何てそんな!寧ろ、本当に…うれし…かったです。だからっ!お礼を何か…」

蓮は少しだけ嬉しそうに、正面でキョーコを見た。

「じゃあ、最上さん、お願いしたいことならあるんだ。」
「はい、なんでしょう?」


「次の定休日、君の時間と身体を俺にもらえないかな?」

蓮の口から発せられたのは、そんな台詞だった。




(続く)
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コメント

ありがとうございましたっっ
おわあ……!!息をするのも忘れて読んでしまいました。はあ〰前回も手に汗を握りましたが、今回は、もっとドキドキしてしまいましてぇ〰( 〃▽〃)やーん、二人の恋が再び動き出したことが嬉しくて仕方ありません(*≧◇≦*)蓮さん、待ったかいがあったよぅ〰キョコさんがキョコさんがぁ〰o(T◇T o)

そんなわけで、その気持ちのままにコメントしてますぅ〰(* ̄∇ ̄*)
紅白見ながら、ふと、ボンボンショコラの更新っっ!て思い出して、早速読みました!
今年はかばぷー様には大変お世話になりました。たくさん素敵なお話も読ませていただいてありがとうございますm(__)m来年もどうぞよろしくお願いいたします(*^^*)
  • 2016-12-31│20:47 |
  • ぽてとたべたい&ぽてとあげたい URL│
  • [edit]
Re: ありがとうございましたっっ
> ぽてとたべたい&ぽてとあげたい 様

息してっ!息!!
ようやく動き始めましたね。嬉しいよう!(* ̄∇ ̄*)
ちょっとずつ間合いをつめて、ここから一気にキョコさんゲットして…くれるといいな(?)
紅白うっちゃって見てくださるなんて、本当に有難いことです。

私こそぽてしゃんにはいっぱい来て頂いて、感謝感激です!!
また来年もよろしくお願いしますね。


  • 2016-12-31│22:21 |
  • かばぷー URL│
  • [edit]

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