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ボン・ボン・ショコラ 7

『最上さん、次の定休日、君の時間と身体をもらえないかな?』


今…敦賀さんは何ていったの?


開店直後の静かな店内で、気に入ったと言うビタートリュフを一つだけ箱につめてお渡ししようとしている時に、まさか超絶人気俳優の敦賀さんからそんな言葉をいただくなんて、思ってもみなかった。


ボン・ボン・ショコラ 7




クリスマスイブから二週間、蓮は開店直後の店にやって来た。勿論、開店直後に人がどっと押し寄せるような店ではなかったから、客の気配がない時間帯を選んでの行動には間違いない。


「…は?時間と…カラダ!!??」


あまりの奇想天外な出来事に、キョーコは思わず聞き返してしまった。
脳が速やかな処理を拒否したらしい

「うん、お礼をしてもらえるなら、君の時間と身体、都合して欲しいんだけど?」
「な!なんっていかがわしい言い方をなさるんですか!?」
「いかがわしい?そうかな。ちょっと君にチョコレート作りを教えてもらいたいって言う人がいて。今日はお願いしようと思って来たから、丁度都合がよかった。」
「それならそうと、はっきり仰ってください。全く、言葉使いが破廉恥ですよ。」

ぶちぶちと唇を膨らませ、16、7歳の純情乙女だった頃の言い回しに、蓮は心が浮き足立った。

「付き合ってもらえる?」
「それは…吝かではありませんが、その、どうして私なんでしょうか?」
「うん、実はその人、以前君と仲がよかった人なんだ。」
「えっ!?それは…」

「あ、ごめん。時間が来ちゃった。君の携帯に連絡しようと思うんだけど…聞いても問題ないかな。」

そういう蓮にキョーコは一瞬躊躇った。
だって、超絶人気俳優の敦賀蓮に電話番号を聞かれるなんて…、それって青天の霹靂とでも言うのではなかろうか!?

「け…携帯ですか!?」
「うん…。あ、そうか…」

そういった後、しばらく口元に手をやったかと思うと、蓮は次の言葉を口にした。

「ごめん、言いにくいよね。ちょっとメモ用紙か何か貸してくれる?」
「え…あ、これを。」

レジの横の付箋を渡すと、「ペン、借りるね」と言いおいて、サラサラと番号を綴っていく。
もしかして、番号を聞かれるより有り得ない事が起きているのではないのだろうか?
キョーコはまさか、まさか、と動揺を隠せない間に、その有り得ない筈の出来事が現実となる。

「これ、俺の番号。出来れば今日中に掛けてくれると有難いんだけど、無理かな?」

そういうと、番号を書いた付箋が渡された。

「じゃあ、後で」

彼はそう言って、忙しそうに店内を後にしたのだが…キョーコは呆然とした。

(うっそでしょぉ~~~!?敦賀さんが、ナ…ナンパ!?いや、違うか。ええぇぇ~!?ファンがここにいたら、奪い合いの血みどろの戦いが始まるってこと!?け、け、け…携帯番号貰っちゃった~~~!!!?何、何、敦賀さんって、もしかして、もの凄~く女たらしとか、スケコマシとか、遊び人…なの~~~???)

勿論その番号は、ファンはおろか芸能界でも知るものはわずかな訳で、当然軽はずみに電話番号を教える蓮ではないのだが、そんな事は露ほども知らぬキョーコは、相当パニクっていた。

現在手に持っているのは、俳優・敦賀蓮の携帯番号。
あわあわと、キョーコはそれをエプロンのポケットにしまった。





「蓮よ、蓮君よ…おーい、蓮さん。」
「何ですか?」
「その顔…、久々にみるけどさ、マネージャーとしては複雑だよ。」
「じゃあ見ないでください。」
「そういうわけにもいかんでしょ。ちょっと立て直しが必要なレベルだぞ。」

立て直しが必要なほどの…それはあまりに久しぶりで、ある意味好ましい蓮の表情。
またこんな表情を見せるようになった蓮を咎めてはみたものの、本気でなど無い。
なくしてからその大切さに気付くのは、社も同じだ。

「…で、今日のチョコレートは何?」
「キョーコが俺のために作ってくれた、ビタートリュフです。」
「俺のため…って、商品開発しただけだろう?お前のためじゃなくて、お客さんのためだろうに。」
「俺のでいいんです。リクエストしたのは俺なんですから。」
「へーへー、左様でございますか。」

朝からいつになくご機嫌な様子の担当俳優に、ホッと胸を撫で下ろす。
昨日の深夜、アルマンディの撮影から帰国したばかり。仕事に行く前にどうしても寄りたいと言われた我儘。こういう我儘も、たまには許してやりたい。

海外ロケから帰国したその日、こいつはキョーコちゃんを抱きしめる事は叶わなかった。

事故の後、社長からキョーコに会うべからずと言い渡されてからもう一年が経とうとしている。この一年、必死で我慢するこいつを見てきた。キョーコに会いたい、会わせてくれと荒れても、社長からの許しを得ることはできなかった。“まずは彼女の心と体の療養が最優先”それを必死に呑み込んで、黙って耐えるお前を見ていた。

“キョーコが今年初めてチョコレートをくれると言ったんです。今年は社さんの分はありませんから。”

嬉しそうに報告するお前をからかいながら、その日、送ろうとしていた指輪の存在も知っている。
だから、社長経由でケーキショップに就職したことを聞いたとき、心から喜び、働き始めた彼女を遠くから見るお前の姿が切なかった。

初めは車の窓から、次は店の外から、次は入り口、ようやく初めて一粒のショコラを持ち帰ったときのお前の表情を、俺は忘れない。
時間をかけて、ようやく会話を交わして、キョーコちゃんがお前専用に一粒用の箱を手作りしてくれた事も聞いた。
そんな紙の箱でさえ、愛しげに見つめるお前を見ていたら、俺のほうが苦しくなった。

今も小さな紙袋を大事そうに持つお前。
今回は展開が速いじゃないか。でも焦るんじゃない。ゆっくり、時間をかけよう。
苦しいだろう。焦るだろう。
けれど、お前にキョーコちゃんを取り戻してやるには、時間が必要だ。
戻らない時間以上に、新しく作り出す時間が…。

けれど、予想外の速い展開が店の中では起きているらしい。
蓮…焦るな。
大丈夫、キョーコちゃんはきっと戻ってくる。





その日の夕方、蓮が仕事を終えた時、携帯電話の着信を確認し、履歴の『キョーコ』の文字に思わず顔が緩む。

彼女の電話番号はもう既に分かっていた。だから、かけようと思えばかけることは出来た。けれど、初めて彼女に電話をかけたときとは事情が異なる。
事務所を通じたつながりさえなくて、彼女の携帯には既に自分の番号すらない今、彼女から番号を入手する態を整えるのが一番確実で、彼女に警戒心を植え付けないようにするにはどうしたらいいかを散々考えた。

きっとキョーコのことだから、今頃は遊び人認定なんぞしてくれているかもしれない。
芸能人が軽いと思われても仕方がないし、今回は気楽に考えてくれたほうがいいが、きっとキョーコのことだから、律儀に電話をかけてくれるに違いないと信じた。

おそるおそる、留守電を聞く。

『…も、もしもし?敦賀さんの携帯でしょうか?いつもお世話になっております!最上キョーコと申します。お仕事お疲れ様です。次のお休みの件について電話をいたしましたがお忙しいようですので、また、日を改めます。失礼いたします。』

ぶっ…!

思わず蓮は噴出した。

(相変わらずだ。やはりキョーコは最上キョーコだ。)

確信が笑みに変わる。


…そう、始まっていると確信する。


いがみ合う関係をすっ飛ばして、これから始まる…いや、もう始まっている。
再び繋がった糸を絶対に手放したりしない。

蓮は、携帯の画面に触れた。





(続く)

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  • 2017-08-19│15:41 |
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Re: No title
> be□□ooben 様

社さんの回想が心に響くだなんて、とても嬉しいです。
キョコさんを思う気持ちを存分に理解し、我慢をする蓮さんの一番の理解者であると思っています。最高で最強のマネージャーですもんね!
大好きなシーン、私も情景をイメージしながら書きました。
共感していただけて幸せ♪
コメントありがとうございました。

  • 2017-08-19│20:56 |
  • かばぷー URL│
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