ボン・ボン・ショコラ 14

バレンタインデー

とてもベタな展開ですが、お楽しみくださいませ。











“ピンポーン”

夜遅くなってからの男性宅への訪問。
それは二十歳を過ぎたキョーコにはとてつもなく大冒険で、勇気のいる事。
でも、今日はどうしてもここに来る必要があった。





ボン・ボン・ショコラ 14




「いらっしゃい、どうぞ」

招き入れられた先はやっぱりゴージャスな空間で、ちょっとおっかなびっくりだった。けれど、差し出されたスリッパはふわふわもこもこで、その暖かさにホッとした。

だだっ広いリビングに通され、しばしコーヒーを待つ。
やはり蓮が淹れたのはカフェオレで、そしてキョーコの好きな味。

キョーコは一口啜ると、チラリ…と、こちらを優しげに伺う蓮を見た。

「敦賀さん、この前のお話なんですが。」
「うん」
「あの…どうして…」
「俺が君を好きな理由?」
「はい。」

蓮は神々しい笑みをたたえて答えてくれた。


「好きな理由はたった一つだよ。君が最上キョーコだから、好きなんだ。」




「……………」




「……………」




「………………はぃい?」

長い起動停止の後、思わずキョーコは素っ頓狂な声を上げた。

(何!?それ、もしかして、やっぱりからかわれたの?折角意を決してここに来たのに!?)

そんな不穏な空気を感じ取ったのか、蓮はにこっと笑うとキョーコの手を取った。

「最上さん、そのスリッパ…履き心地、いいでしょ?」
「ハア、まあ…」
「君のなんだ。」

「…は?」

「それと、マグカップも君のものなんだよ。」
「…え…これ?」

キョーコは、この家にそぐわないスリッパと、蓮に似合うはずもないマグカップに確かに違和感を覚えていた。けれど…まさか…。
確かに差し出されたカフェオレは、味も匂いも温度も凄く好みで…


「それと、この前使ってもらった調理器具。あれも全部君のもの。」


まさか…本当に…もしかして…?

ずっと考えていた
もしかしてと思うけれど、ずっと否定もしていたこの二日間
ぐるぐると堂々巡りだった思考を打ち消すように蓮が微笑む。


「おいで」

そう言って蓮はマグカップを取ると、テーブルの上においてキョーコを立たせた。
案内されたドアの先、キョーコは明らかな女性の部屋に愕然とした。
自分好みのベッドカバー、チェスト、洋服…
そして…


「コーン!!?」

事故でなくしてしまったと思っていた大事な石。小さな頃から大事に持っていた、妖精コーンから貰った大切な、大切な石。
それが、ここにある。
気持ちよさそうに小さな座布団の上に鎮座して、側にはいつも入れていたがま口。
コーンがなくなっていなかったことが嬉しくて、しかも気持ちよさそうに鎮座しているのが嬉しくて、その場にへばりついた。
そしてその隣には、ふかふかの小さなお姫様ベッドに飾られた、見慣れぬうす桃色のアクセサリー。

「そう、君のものだよ。君が大切にしていた物たちに…俺も、凄く勇気を貰っていた。」

キョーコはその言葉に、はっと振り返った。

「敦賀さん、どうしてここにはこんなに私の物があるんですか?どうして大事に持ってくださってるんですか?」

蓮は、優しい微笑を湛えてキョーコの頬を撫でた。

「うん、それはね…」

「まさか…本当で敦賀さんが私と付き合っていた人…?」

蓮は、おや?といったようにキョーコを見た。

「そう。君と俺は付き合っていた。そして、この部屋で一緒に暮らしていたんだ。」
「一緒に…?嘘ですよね。」
「嘘だと思うかい?」

蓮は再びキョーコの手を取った。

「もう少し付き合って?見せたい物があるんだ。」

そう言って蓮はマンションのすべての部屋をキョーコに見せて回る。

「この前見せたね、キッチン。ここは君のお城。」
「サニタリーは、いつも綺麗にしてくれてたよ。」
「リビング、ここが君のいつもの場所。」



部屋のそこかしこにキョーコを案内する蓮は、どこか嬉しそうで、だけど、少し寂しそうだった。
再びリビングのソファーに腰掛けると、蓮はキョーコの手を取って側に跪いた。

「これで全部だ。ここに、確かに君がいた。」

信じられないといった面持ちで、キョーコは蓮の顔を見た。

「敦賀さん、ずっと…待っててくださったんですか?もしかして、事故のあった日からずっと?」
「そう…、君に俺の記憶がないと分かってからもずっと。だけど、もう待たないし、待てない。」
「どうして、もっと早く…」

「…言えないよ?君の記憶の中に君を愛した俺はいなかった。俺を好きだといってくれた最上キョーコは…もうここには存在しないから…。」
「存在…しない?」
「そう…。君と俺との4年間は、もう既に君の中には存在しない。でも、俺が君を好きなのはずっと変わらない。」

そうだ。記憶喪失となった自分の中には、蓮を愛した記憶などない。
でも…だからといって、蓮は辛くなかったのだろうか?

辛くないわけがない。
けれど、そんな自分を忘れずにいてくれた。ずっと待っていてくれた。
だから、コーンを手元に置いて…

キョーコの目にじわりと涙が浮かんでくる。

「だから、もう一度、君と恋に落ちたかった。君とのつながりを作って、君と恋をして、ここにいない君とさよならしようと思ったんだ…。」

蓮の瞳から、すーっと涙が一筋流れた。

「君とこれから、今、目の前にいる君と新しい時間を紡ぎたい。君が…好きだよ。キョーコ。」

キョーコの目から涙が溢れた。



―――こんなにも私を愛して、待ってくれている人がいた。それが、敦賀さん…。


キョーコは蓮の首に手を伸ばし、縋りついて泣いた。

「忘れちゃ…ダメです…。たとえ、私の中には新しい敦賀さんしかいなくても、敦賀さんの中の私を…消さないでください…。」

「いいの?」
「…はい。絶対…絶対、記憶を失う前の私も、敦賀さんのことが凄く好きだったと思います。」
「うん、分かってる…今は?今の君は…?」

ああ、そうか…“私”はちゃんと敦賀さんに想いを伝えてたんだ…
じゃあ、今の“私”は?


そんなのは、もう決まっていた。




「好き…です…」

ぐしゃぐしゃになったキョーコの頬を、蓮がそっと撫でる。
涙を優しくすくいながら、そっと唇を重ねた。


 




(続く)
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こんにちは🎵
毎回毎回の連投コメに遠慮しようかと思いましたが、今回のお話に胸を打たれましたのでやっぱり抑えきれずにしてしまいました。

この前の胸キュンとは違って今回は締め付けられる感じになりました。
蓮くんのこれを機に過去を精算して新しいキョーコとの繋がりを持とうとする覚悟を見たときに同じように涙が出そうでした(T-T)
楽しかったはずの生活が一変したから相当な葛藤があったはずなのに…すごく男らしい決断と美しい涙にやられました。
それを受け入れる事が出来たキョーコも以前の天然&歪んだ思考の持ち主でなくなっていたので良かったなぁ…と(^^)
蓮くんの日々の粘りの勝利ですね。
ここからまた新しく始まるのかとすごく感動しました。
キョーコの記憶が戻っても戻らなくても二人で一緒に幸せになって欲しいと思います。
素敵なお話、展開ありがとうございました☆

Re: タイトルなし

> じゅんこさま

コメントありがとうございます。
胸を打つだなんて過分なお褒めの言葉、ありがとうございます。
もったいないようで、でもとても嬉しいです。

絶対に自分を好きだったキョコさんを失ってしまって辛くないわけはないのです。でも、もしオランジェットを作ってくれたなら、執着するのはここまでにして、前をむいて欲しいというかばぷーの願いでした。
全部取り戻すことなんて不可能であるならば、どこで折り合いをつけるか…難しいですもんね。

素敵な蓮さんになったと感じてくださったら、書き手冥利に尽きます。
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