恋の炎は消火不能です 4

最上キョーコは、ぼんやりと洗濯物を干しながら、眼下に見える消防署の訓練庭をぼーっ…と眺めていた。

「何ヶ月、姿を見てないのかなあ…」





恋の炎は消火不能です 4




塾のビル火災があってから約2年半

附属の大学にエスカレーターで進級する事もできたが、勉強したい学部がなくて、外部の大学を選んだ。それで、自宅から5駅ほど離れた公立の大学へ進学し、キョーコは大学3年生になっていた。


高校3年生のときに偶然知り合った敦賀蓮という消防士。
勿論、蓮と会話が出来たのは本当に偶然で、学校で救命救急講習会に来ていた人で、火災に巻き込まれた時、燃え盛るビルに飛び込んでくれた命の恩人。
そんな必要もないだろうに、わざわざ気を使って、お見舞いにまで来てくれた律儀な人。
それから見かけたらぺこっと挨拶をする程度の顔見知りになって、たまには声をかけたり、かけられたりもしたが、彼には当然のように腕に絡まりつく彼女がいた。

それからもずっと密かに灯し続けたここ数年の密かな恋心。

だって、キョーコは彼と会話をする前から、ちょっとしたアイドルを追っかけるようにベランダから彼を眺めていて、彼女がいると分かってからも、小さな小さな熱はずっと冷めることはなかった。まるで、ランタンの中で小さな明かりが細々と燃え続けるみたいに…。遠くからでも彼を見つめ続けられることに、ある程度満足していたのに、それがなくなった瞬間にランタンの火が大きくなって、始末に終えない。

「はぁ…あーもう、何でチェックしなかったんだろう…。」

名前も何も知らずに、ただ眺めるだけの1年半と、彼と挨拶を交わすようになって、顔見知りになってからの2年半。足掛け4年も彼を思っていたことになる。
いつかは覚めるはずだから、いつかこの恋の炎は消えてしまうはずだから、挨拶を交わすくらいに留めておこうと、遠くから訓練庭を見て満足していただけのキョーコだったが、この4月に状況は一変した。

人事異動があったのだ。

蓮の転勤先は全く分からない。
村雨と言う人に聞くのもなんだかちょっと失礼な気もするし…そんなことは、はしたないし、ずうずうしいと、そのまま置いといたらあっという間に夏が来た。

春の人事異動を消防局のHPでチェックしなかった事が、今更ながら悔やまれる。

“はしか”だと、短期間の熱に浮かされただけだと思っていたのに、結局4年もの間、ずっと彼を忘れる事ができていない。どこに住んでいて、どんな性格かもわからない。しかも、彼が女性を連れて歩いている姿をその眼で見たのに、やっぱりまだ好きでいる。

キョーコは洗濯物を干し終えると、大きな溜息をついて大学に行く準備を始めた。





「はぁ~…」
「お姉様、どうなさったんですの?」
「マリアちゃん…」
「らしくないですわよ?ほらほら!いつもの笑顔に戻ってくださいませ?」

大学のクラブハウスでキョーコはやっぱり大きく溜息をついた。
そんなキョーコと話しているのは宝田マリア、今年入ってきたばかりの新一年生なのだが、この“不思議サークル”に好んで入部したとあって、とてもキョーコと趣味が合う。トキメキやファンタジー系のものもそうだが、特にマリアは黒魔術に詳しくて、呪いの人形だとか、ブードゥーキャンドルだとかの専門グッズにも精通している。

「さ、お姉さま、悩みはさっさと吐き出すんですのよ?」
「あー…、あのね~…」
「はいはい?」
「会いたい人に会えなくなった時って、どうすればいいのかなぁ…」
「へ?会いに行けばいいんですわ。」
「それが出来ればいいんだけどね…どこにいるかわかんないの。」
「まあ!まあ、まあ!!お姉さまともあろうお方が片思いですの?それはどこのどんなお方ですの?」

マリアがびっくりしたのには訳がある。
マリアが入学して間もなく、オリエンテーションでカリキュラムの組み方を指導してくれたのがキョーコだった。
そして、かねてから興味があった“不思議サークル・みすてりぃ”に顔を出すと、喜んで迎え入れてくれた上に、凄く趣味がドンピシャで合ったのだ。
清潔感があって、笑顔が爽やかで、とても控えめなメイクだったが美人なのは凄く分かった。
けれど、マリアと気が合う位だ。当然ある一面ではほの暗くて、ダークな感情を惜しげもなく晒すキョーコに好感を持ったし、その知識量にも舌を巻いた。
一応気立てもよくて、親切で控えめな美人とくれば、当然人気もあって、周りにはキョーコ目当ての男性も多いのに、全く眼中にない感じで、男性には全く興味がないものだとマリアは思い込んでいたから。


「ん~?秘密。ずっと気にはなってたんだけど、ただの顔見知りな程度だから、好きとか言えなくて…。」
「まあ、まさか名前も知らない方とかですの?」
「名前は知ってるの。命の恩人なんだよね。いつかは覚めると思ってたんだけど、存外忘れられないみたいで、ちょっと恨めしい…」
「命の恩人で恨めしい…お姉さま、それは重症ですわ!」
「あっさり忘れられたらいいんだけど?まあ、日にち薬かな?」

キョーコはてへっと笑って、席を立った。

「お姉さま!それなら是非試していただきたいアイテムがございます!試してご覧になりません?」

マリアが嬉々として申し出た提案に、キョーコは目を見張った。







キョーコがマリアと再会のアイテムを使った魔術を試してから1週間が経った。
マリアの勧める魔術だけあって、戦々恐々としていたけれど、周りには何事も変化はなく、代わり映えしない日々が一週間ほど過ぎたある日、

「キョーコちゃん。今帰り?」

同じ専攻で4年生の石橋先輩が声をかけて来た。

「光さん、こんにちは。今日は就職活動ですか?それとも卒論ですか?」
「どっちもだよ。もう何してるかわかんない状態。キョーコちゃんはこれからバイト?」
「はい。貧乏暇無しですから。」

会話をしながら、駅に向かって歩道を歩いていく。

「あの…さ、キョーコちゃん、この前のこと、考えてくれた?」
「あ…」
「いや、その…そんなすぐにって訳じゃないけど、ちょっと俺、焦りすぎかな?ごめんね。」
「すみません…先延ばしにしちゃって。」
「いいよ、いいよ、行こう?駅まで送るよ。」

「あのっ…先輩っ」

そう言って先を歩く光の後を追いかけて、小走りで横断歩道を渡ろうとしたとき、けたたましいブレーキ音が響いた。

キキキキー・・・ドンッ!

光がビックリして振り返ると、横断歩道の上でキョーコが倒れていた。




(続く)
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