神の贄 一

600年前の設定って結構難しいですね。
なんとなく…なんとなくな感じです。







神の贄 一




ある日、通りがかりの村に立ち寄ったとき、とてつもなく良い香りがした。


「久遠?どうした…」
「父さん…この村、もの凄くいい匂いがする。」

すん…と父親らしき男は鼻を鳴らした。

「ああ…“これ”は贄の匂いだ。」
「贄?」
「ああ、神への贄。神に捧げる供物の匂い…我々には縁が遠いものだな」
「神への供物、それはお酒?」
「はははっ…確かに甘い、神をも惑わすいい匂いには違いない。だが、それとは違うな。贄とはつまり、人のことだ。」
「まさか、神が人を喰らうの?俺たちみたいに?」

クスリ…と父親は笑みを漏らした。

「そうかもしれないね。だが、私たちは供物を捧げられたりはしない。私たちは自分から狩るのだからね。」

人を狩る…その当たり前の言葉に蓮は背筋を寒くした。

まだ、実感は湧かなかった。
食べ物はすべて親から与えられ、飢えも渇きも感じた事はない。
だが、次第に己の身体が変化していく事には気がつき始めていた。

「ここはきっと神の贄の住まう村…近寄りがたくていかんな。さあ、行こうか…」

父親に背中を押され、久遠はその村を後にした。

それから、周辺の村に奇異な事が起こり始めた。
鬼が出たという…次第にその被害は広がり始め、やがてキョーコの村にも噂話が流れる。
姉巫女はこれを荒ぶる神の仕業だと思った。
そして、村人たちも荒ぶる神の仕業ならば、贄を捧げなければと思ったのだった…



ドン!ドドン!ドドドドドドド…ドドン!ドン!

太鼓の響く中、わずか十歳のキョーコは恐れもせず騒ぎもせず、静かに祠に入った。
小さな頃から贄として生まれ、贄として大切に育てられた。村人から崇められ畏れられ、でもそれは自分が贄となるためだと知っていたキョーコは、心静かに祠の中で夜を待った。



夜半…ふいに風が止んだ

森の音が一瞬で消え、フクロウの啼き声も、虫の声さえも絶える瞬間。

(神よ…どうか、怒りを静めてください…)

キョーコは祈りを捧げながらその瞬間を待った。

(何者かの気配がする…)

薄らとその気配に眼を開けると、月光に薄く照らされた人影があった。
…人影であったのだろうか?

一瞬、影と目があったような気がした。
月光に照らされた影に見えた瞳は緑色に輝いている。

(これが…荒ぶる神…?いえ…違う。)

滝壺で心静かに対面する神々とはまた違う静かな恐怖がそこにはある。影から目を離せずに、キョーコと影との間に沈黙が流れる。

月明かりに照らされる緑の瞳はあまりの美しさだった。けれど、彼の腰に下げた袋から見える邪悪な影…澄んだものの中に濁る揺らめきからも目を離すことができなかった。

やがて、その沈黙を破るような悲鳴が村の方から聞こえた。

はっとしてキョーコが振り返ると、村から火の手が上がっているのが見える。

(なぜ!?どうして!?)


そう思った瞬間、地響きが聞こえた。
小さな祠とともに大きく揺れる大地。

ギシギシと軋む祠に身を伏せながら、キョーコは荒ぶる神の声を遠くに聴いていた。

揺れが次第に収まり人影に視線を戻したとき、そこには誰の姿も無かった。




翌朝、祠の片付けに来る筈の男衆は、なかなか来なかった。
きっと村の片付けに忙しいのであろう。
それでも、神の贄を捧げた後は祠を綺麗に清めるのが定め。…なのに、神への畏れも崇拝も人々の心から薄れてしまったのであろうか…。
キョーコとて巫女の端くれ。巫女の家に生まれた贄は己の定めを知り、己を神に捧げる意味を誰よりも知っている。


ようやく、男衆が祠にやってきたのは3日も経ってからだった。
そして、祠を見た瞬間に男衆の驚きは悲鳴に変わる。

贄が…キョーコが生きてそこにいることなど、誰も想像していなかったのだから。


それから、村への厄災は無くなった。鬼が出る噂も通り過ぎ、贄によって神の怒りが鎮まったのだろうと周辺の村も納得した。
だが…贄が生きて戻った例など今だかつて一度も無いのに、それは黙された。

「鬼は…荒ぶる神の仕業ではありません。」

何度もキョーコはそう告げた。
けれど、そんなことは誰も信じることは無く、キョーコは再び生きて戻った贄の巫女として崇め奉られ、そして次代の贄を得る事も無く月日は流れた。

…が、キョーコが二十歳を過ぎた頃から時間の流れは変化した。

ゆるり、ゆるりと流れるキョーコの時間とは裏腹に、周りが急速に歳をとり始め世代が変わる。
幼馴染の滝つぼで遊んだ二人は妻を娶り、子を残しては老いていく。
そしてその孫らが二十歳のままのキョーコに問うのだ。

「キョーコ様、キョーコ様は贄様でいらっしゃるのでしょう?そして、生き残った強運の贄様と聞きました。厄災が無い限りは、いつまでも巫女様として村にいてくださるのでしょう?」

「そうなのよ。でも残念ながら強運とは違うわね。荒ぶる神様は私をお気に召さなかったみたいよ?だから残されてしまったの。全く…神も酷いわよね、選り好みするなんて!どうせ私は貧相ですよ!全く失礼しちゃうわ!」

神に対してそう告げても畏れは要らぬ、巫女としてのキョーコの勘が告げていた。

“神は永きに渡りお眠りあそばしている…”

あれから何年かに一度、100年以上も長い間眠り続けた神は時々大地を揺らし、聖なる山の頂から火をお噴きになることがあった。けれど荒ぶる神は贄を必要とせず、そして贄を求める事もしなかった。

何度かの神の気配を感じながらも緩やかに時は流れ、贄の村と讃えられた村はいつしか疫病に沈んだ。

時代は移り変わる…神の姿を、声を聞く者が減って行く…

キョーコが贄として、この世に生を受けてから600年余りが経とうとしていた。




(二話に続く)
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コメント

リク罠 拝見しましたが…
こんばんは!更新いつも楽しみにしてます。

神の贄ですが、難しくて…、罠を見ましたがまだ設定が⁉な感じです。申し訳ありません。

600年を生きるキョーコと、バンパイア蓮のストーリーかな?


更新楽しみに待ってますね。
  • 2017-03-06│23:22 |
  • harunatsu7711 URL│
  • [edit]
Re: リク罠 拝見しましたが…
> harunatsu7711 さま

はーい、その通りです。600年生きてる神の贄だった巫女さんのキョコさんと、やはり600年生きてきたヴァンパイアの蓮さんのお話なのです。
なんだか老巫女や、姉巫女やらの架空の人物もでてきていて、しかも説明をあんまりして以内ので読みにくくてスミマセンです。
今後もお付き合いくださいませ~
  • 2017-03-07│20:47 |
  • かばぷー URL│
  • [edit]
おお!!
幼き時に二人は視線を合わせているのですね!!

キョコさんの贄としての運命が、彼らと絡み合ったことで、変化したのか、それともただ救われたのか。

時代が進んだときにどうなるのか、いろいろ楽しみです。
  • 2017-03-11│20:57 |
  • まじ〜ん URL
  • [edit]
Re: おお!!
> まじーんさま

小さな頃に既に会っていた二人です。そしてこれからどうなるのか…伏線が上手く回収出来るといいのですが、うまくいくでしょうかね。
  • 2017-03-12│12:15 |
  • かばぷー URL│
  • [edit]

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