神の贄 二

今回から、時代は現代へ…





神の贄 二




久遠は街中でふとその足を止めた。

(何だろう…この匂い…)

かつて、嗅いだ事のある匂いに心が沸き立つ。

微かに漂うその匂いの気配を手繰り寄せ、新宿の雑踏を掻き分けた。

香水とコロンと制汗剤の匂いに紛れてもなお、だんだんとその匂いが強くなる。
甘い…甘い…猛烈に飢餓感を煽る匂い

(見つけた)

屋外のカフェテリアで一人、ランチを取っている女性がいた。

年の頃は…大学生くらいといって良いだろうか?
華奢な肩に明るい栗色のショートヘア
今時の若い子から、一体どうしてこのような極上の匂いが漂うのだろうか?
路地の向こうからでも分かるその匂いに、思わず唾液が出そうになる。

(人…?なのに…この匂いは…)

久遠はじっとその後姿を眺め、その女性の雰囲気を読み取り始めた。

カタン…

女性が席を立ち、店を出る様子を見て思わず久遠は後をつけた。

街を楽しげな様子で闊歩し、ふらっと店に立ち寄っては買い物を済ませ、地下鉄に乗る。そんなありきたりな風景を目の当たりにしながらも、その匂いは猛烈に久遠の理性を侵していく。

地下鉄を乗り継ぎ、隣の車両から同じ車両に乗り移ったとき、彼女の顔を見た。

なんてことはない、地味で平凡な女性だ。
可愛い顔立ちではあるが取り立てて美人と言うわけではない。…が、その極上の匂いに理性が眩暈のように狂わされる。

色白のうなじが視界に入る間にも息が上がり、思わず牙をむき出しそうになったとき、辛うじて地下鉄のアナウンスが耳に届いた。

その距離は僅か1m

あたりは薄暗くなったとはいえ、まだ夕方の域からこれほどの渇きと飢えを覚えたことは今だかつてなかった。

…いや、これと同じ匂いに蕩けるように吸い寄せられた事ならば一度だけある。

あの時はまだ子どもで、父親の傍で暮らしていた。
そのとき立ち寄った山郷の村でこれと同じ匂いを嗅いだ。

周辺の村で父親が狩りをしている間もこの匂いが気になった。

ある晩、あまりの心地よさに耐えかねて、狩りの隙間を縫って匂いの元に足を運んだ。

その場所で、小さな祠の中に入れられていたのは小さな少女だった。
勝気な瞳でこちらを見据える少女から発せられる匂いは、“神の贄”のものなのだろう。近寄り難いといった父の言葉も納得できる。確かに結界が張られたその中からは、うっとりとするような芳しい匂いが流れ出し、しばしその匂いに恍惚としたのだ。

やがて、荒ぶる神が地面を揺らし、久遠はその場を慌てて離れた。

(---虜になってしまう…)

匂いだけでそれほどの恍惚をもたらした神の贄の香り…

それが今、眼前にあった。
この女性から、あの少女と同じ匂いがするなんて信じられない事であったが、久しぶりにふらっと訪れたこの街で、まさかこんな思いをするなんて思ってもみなかったのだ。

(子孫…だろうか?いや、まさか…これほどに濃いのは…何故だ?)

地下鉄を降り地上に出たのを確認したところで彼女の気配が突然ふっと消えた。
慌てて階段を駆け上がるが、彼女の姿は見えない。

あれだけ濃く香っていた匂いさえも跡形も無く消え去っている。

(…結界…か、何者だ?)

久遠はその街で呆然と立ち尽くした。



*  *  *



「今日さ、変な男につけられちゃった。」
「変な男?」
「変な…とは違うかな、滅茶苦茶背が高いイケメンな人だったけど」
「背が高いイケメン…ですか、キョーコちゃんがねぇ…」
「社さん!酷っ…」
「酷くはないでしょ?だって、男には興味示さないし、自分で地味で貧相な女って言うからね。」
「だって、そうなんですもん」
「そんなことはないんですけど?ね、美人占い師京子さん?」

口元を黒い布で覆ったキョーコは、強いアイメイクを施し、年齢不詳の美女となっていた。

ここは占いの館

手相、タロット、水晶占いからキス占いまで…怪しいものから確実なものまでが集まる奇妙な場所だった。
そこに何年も前から店を構えるキョーコは、店で何番目かの古株となっていた。
当然店を利用するものは、素性のしっかりした者から怪しい風体の者、ふらっと気まぐれに寄る一見さんまでさまざまだ。中にはかなりヤバイ目の人もいる。
そこにいる黒服…というか、店主がこの眼鏡をかけた彼、社倖一だ。

「で?その背の高いイケメン君は、どこがどのように変だったの?」
「うーんとね…人ではない感じ…かな?」
「へぇ、興味あるね」
「そういうと思った」

実はキョーコも人ではない。今は…
かつては勿論人として生活していた。贄として生かされた10年…その後は、二十歳になった頃に自分の年齢が止まった。
永遠に乙女のまま、神の贄となることだけを待ち続け、600年が経った。

そして社も人のようで人ではない。
西洋の白魔女に騎士として忠誠を誓った者、人として人間界にいる時の時間の流れが非常に緩やかになっている。10年が彼にとっての1年…彼の時間が緩やかになってから100年ほどは経ってしまっているのかもしれない。


「人ではない気配か…。調べてみましょうか?」
「そうね、興味が無いわけではないから、お願いしても?」
「ええ、贄様の望みであるならば…」

社が銀縁の眼鏡からにやっと鋭い笑みを漏らした。



(三に続く)
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社騎士 登場

こんばんは。
蓮とキョーコの接近にドキドキしましたが、それ以上に、騎士の社さんにキュンとしました‼キョーコの強い見方ですね。

Re: 社騎士 登場

> harunatsu7711 さま

いつもコメントしてくださってありがとうございます!
ちょっと格好いいでしょ?
こんなやっしーもいいかもと思っています。
人のようで人でない3人…なんか萌えるわ~

社さん登場!!

ふふふ、いよいよかばぷーさんワールドに本格突入という感じですね!

社さんの設定、キョコさんのお仕事。
いろいろワクワクします。

過去の地震は、贄に近づいた「危険物」を排除するため、荒ぶる神が起こしたんですかね〜。

今はどんな守りがあるのか。

蓮さんはどこまで近づけるんでしょうかね。

Re: 社さん登場!!

> まじーんさま

うふ、コメントありがとうございます。
オリジナル設定を入れてみましたが、流れというか設定というか、二人の世界だけに収まりそうになかったので…美味く纏まっているといいんですが、まだまだ修行中にございます。
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