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神の贄 五


神の贄 五





「ん?あたり一面清々しい空気に変わっていますね…それと、おやまあ…君の本質はそれ…でしたか」

部屋に入ってきた社は、久遠の姿を見てにこやかに微笑んだ。

「そうなの。この方、土さえ持たされていなかったらもっと早く苦しまないで自由になれたのにね。」

久遠はキョトンとした。

「髪…見てみる?」

久遠は差し出された鏡を見て、うっ…と小さく声を上げた。
そこに映った自分の髪が金色と化していたから。

黒髪で緑色の瞳をした自分は、一族の中では異質なものだった。だが、クーから譲り受けた美貌と、そのオーラは長たるものとして相応しく、なるべくして一族を統べたようなものだ。唯一の欠点…狩りをさほど好まない事を除いて。

「あなたは…白魔女ジュリエナの祖先の血を引いているのね…」

そうキョーコが呟いた時、社がはっと目を見開いた。

「まさか…それでクーはジュリエナ様に?」
「その、まさかの事が起きていたみたいよ?」

キョーコが久遠の中に視たもの…
それは久遠が生まれる前、ヴァンパイアであるクーが若かりし頃に恋に落ちた女性。
その女性はクーの子、つまり久遠を身篭るも、ヴァンパイアとなる事を拒んだためにその命を落とした。

そして生まれ変わったジュリエナと恋に落ちたクーは、自分からヴァンパイアを捨てたのだった。

「そう、貴方の中には元々白魔女的資質が流れていたのね。だからクーはわざと貴方に黒い呪いをかけ、貴方に妄執の固まった土を持たせた。そうでなければ一族の中で生き残れないから…」

「なるほど、それならば君が私の結界をすり抜けた理由も、さほど苦しまなかった理由も合点がいきます。」

「俺…俺は、ヴァンパイアではなかった…と?」
「?そんなこと言ってないわよ?ちゃんと、れっきとしたヴァンパイアさんよ?」

「?????」

キョーコはにこっと笑って久遠を見た。

「言ったでしょ?貴方はそろそろ人と交わっていく時だったって。白魔女の資質を持つ貴方は血を求める自分とは別に血を必要としない自分も知っていた筈。そして私と出会った。貴方のヴァンパイアとしての一生は私が譲り受けるわ…」

「キョーコちゃん、それは…」
「社さん、これはきっと運命ね!神には必要とされていない私でも、ヴァンパイアを更生させるという使命があったに違いないわ!!」
「更生させる使命って…全く、貴方らしい突飛な発想です。キョーコ様」
「…社さん嫌味ですね。あと、私の血でないともう彼は満足できないと思うのね?そして、おそらく私の血を飲むたびに彼はヴァンパイアでなくなっていく。いえ、彼だけではないけれど?」

久遠は意気揚々と話すキョーコを見つめた。
600年の長い歴史の中で血を求めることを嫌うのに、血を求め続ける己を忌々しいと思っていた自分と違い、ただひたすら前を向き、己の運命を恨むでもなくひたむきに神の声に耳を傾け、贄として真っ直ぐに生きてきたキョーコが眩しい。
彼女もまた、自分の存在の意義を探し続けていたに違いない。

「神は…荒ぶる神はしばしお眠りあそばされています。そして、いつかお目覚めになる時、とてつもなく大きな災いをもたらされるのかもしれません。それは、いつかは分かりませんが私がこの世に残された贄としてできることは一つです。この国が間違った方向に進まぬこと。人に…物に…時間に…大地に感謝して生きることを教えること。私の力は微力ですが、きっとそれが神の教えです。あ!新たにヴァンパイアの更生って言う使命もいただきましたけどね?」

ころころとキョーコは笑う。

“神の贄に近づいてはいけない…”“神の贄には近寄りがたい…”一体それは何を意味していたのだろう?
近づけば灰と化す…本当にそれだけ?
もし…もしも神の贄の血を得ることが出来るのならば、それはヴァンパイアとしての牙の喪失を意味していたのではないだろうか?
そして、自分がそうであったように、神の贄を一度目にしたなら、己を賭してでも彼女に…贄に命を捧げたいと思うからではなかろうか?
ヴァンパイアとしての祖の始まりにも疑問を馳せながら、蓮はキョーコの顔をまじまじと見つめた。

…この贄の巫女は一体どこまで知り、どこまで視えているのだろう…

久遠はすっとキョーコの前に膝を折った。

「俺は…君の側にいたい。血を…その芳しい血を分け与えて欲しいと思うだけでなく、君を抱きしめたいと思っている。それが叶うだろうか?」

キョーコはその所作に、齢600歳らしからず、ぽっと頬を赤らめた。

「えっ…!?やだ、ちょっと…」
「もし、叶うならば君の側に…ヴァンパイアでなくなるのは若干惜しいが、出来れば…可能ならば、君に欲情する一人の男として側にいさせて欲しいのだが、どうだろう?」
「よっ…よっ…欲情って、さっき消しませんでしたっけ?」

「…消えてない。寧ろ絶賛増幅中」
「噓っ!いやいや、そんなはずないですって!」

「プッ…ククククク…」

「……社さん?」
「いや、キョーコちゃん、絶対これが普通だって。君の芳しい匂いに吸い寄せられて、それでも生きていられるんだ。しかも君の血を貰うというご褒美つきで。側にいたいと思うのは当然じゃないの。」
「いやっ…でも欲情って…」
「側にいさせてあげたら?ま、新たに生まれた邪な考えが消えるのは難しそうだけど、何とかなるかもよ?もう君は彼の一生を譲り受けるって言っちゃったし。」
「…え、そんな事言った?」

「「うん、言った…」」
「え、言った覚えは…」

「ぼそっ…(呆けた?)」
「(まあ…600歳だから…)」

「ボッ…ボッ…呆けてなんかいません~~~!!」

白魔女の騎士と、白魔女気質のヴァンパイアの二人はにこやかに笑った。





(終章に続く)

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Comment

ブフッ!
白魔女の騎士と、白魔女気質のヴァンパイアの二人がすっかり良いコンビに!!ある意味身内みたいなものですものね〜。

ボケたかもしれない神の贄の老後(←?)も安泰ですね。

600歳以上でもピチピチ純情乙女な部分を失わない、神の贄と、生まれ変わり中で絶賛欲望増幅中な彼の未来がどうなるのか。

終章も楽しみにしてます。ヾ(๑╹▽╹)ノ"
  • 2017-03-14│23:22 |
  • まじーん URL
  • [edit]
Re: ブフッ!
> まじーんさま

笑っていただけましたか!よろしゅうございました。
コレで、社さんが蓮さん(久遠さん)に敵対する事もなくなりそうですし、ちょっと同じ仲間と感じて欲しかったのです。
ボケ始めた贄の巫女(?)いや、ぼけてないぼけてない。
彼を虜にしちゃってますよう。

コメントありがとうございました。
  • 2017-03-15│19:29 |
  • かばぷー URL│
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