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嫁ものがたり 8

今回はちょっと説明っぽい回です。
お許しくださいね。







嫁ものがたり 8




彼の家で実物の“クオン・ヒズリ”を初めて見たとき、キョーコは言葉が出なかった。

本当に妖精コーンではないの?

そうとしかと思えないほどの美貌の男性…
こんな煌びやかな容姿の人間が実在するのかと信じられない思いでいたし、まさに神の寵児かと思えるほどのオーラがあった。

クーとジュリエナから受け継いだであろう美貌は、写真のそれとは比べようになる筈もなく、まるでお伽話からポンッと抜け出したような動く彫刻にときめかないわけがない。

不思議なことに玄関先で静かに扉を開いたクオンが、怒りを静かに孕んだ姿で立っている姿に、恐れと同時になぜか、懐かしい気配を感じたのも事実だった。
しかも、自分がいることにもさして動じる風でもない彼から聞こえる声は、多少の怒りを孕んでいるとしても優雅で、流石先生の息子さん!と聞き惚れた。

キャーキャーと騒ぐ怨キョと、メルヘン世界へ飛び立とうとする自分を自覚して、何事にも動じないよう、仲居魂を総動員させて楚々とした若女将風の女性を演じることでしか、平静を装う事ができなかった。


クーから聞いた情報のとおり食事を差し出すと、しぶしぶという態で食事を口にした事にほっとした。…が、食事を口にしながらも意地悪をのたまう姿は、初めてお世話をした時のクーのそれと重なり、拗ねるようなクオンの姿が可笑しくて、少しずつキョーコの緊張感は薄れていった。
それどころか、一緒に生活を始めるにつれて警戒心も徐々に薄れ、基本的には紳士であろうクオンの見せる普段の表情に親しみが湧いてしまい、それ以上踏み込まないようにと心の防御壁を打ち立てる事に一心にならざるを得なかった。

だって、クオンからは脳が蕩けるみたいなとってもいい匂いがして、時々見せる柔和な…いや、神々しい笑顔はなんともいえない破壊力がありすぎて…父親であるクーが手放しで褒める位のイイ男だ、男性経験の殆どない自分が彼になびいてもおかしくはない。
その証拠に、撮影先で見かける女性の殆どが、クオンを見て目にハートを散らしているではないか。
愚かな感情にとらわれた女性たちが色付きの眼差しでクオンを見るにつけ、

“天然タラシ” …その称号を送りたいと思った。


周囲の女性が匂わせる愚かな感情を当然のように受けるクオンの姿に苛立ちもするけれど、その感情は彼に向けていいものではないし、彼に向ける資格もない。
だから、それ以上の気持ちにはブレーキがかかった。

…なぜなら、それでは自分が困るのだ…
いくらクオンにときめいたとしても、これを恋だと認めるわけにはいかない。
いや、認めたくない。

無論、社長からの課題は分かっている。

“誰かを愛する事…”



かつてキョーコも確実に抱いていたその感情にいつの頃からか蓋をし、厳重に鍵をかけた。
今では、貴島は勿論の事、古賀にも、光にもその感情を感じることは全くない。
自分がラブミー部であるが所以、…傷つき、愚かで…すべてを破滅に導く事が分かっているがために捨てたその感情。もう二度と馬鹿にはなりたくない…愚かものにはなるまいと誓った。

だから、クオンが女性の匂いを纏って帰宅したあの夜の一件以来、出来るだけ距離を置くようにした。
けれど、“キョーコちゃん”なんて呼ばれるとは思ってなかったのに、楽しそうに呼ばれると嬉しいやら恥ずかしいやら、どう反応していいのか分からない。それに、クオンが面白半分に自分をからかうのは、単なる気まぐれ。その証拠に、あれだけ腹が捩れるほどに笑っていたではないか。

丁度社がアメリカにやって来てくれたことが有難く、絶対に自分はクオンにそんな感情を抱いたりするものかと、何度も何度も鍵をかけなおすキョーコだった。






「社さん、クオンの出演している作品で、私もでられそうなものはありますか?」
「何?クオン君と共演したいの?」

ちょっとだけキョーコは逡巡した。

「……やっぱり、いいです。」
「おや?誰かと共演したいって言うのは珍しいと思ったのに、言っておいてやめるの?」
「…いえ、やっぱりクオンは演技が上手いんですよね。見ていて引き込まれるというか、うっかり持って行かれちゃうって言うか…あっ!変な意味じゃないですよ?」
「うん?」
「なんていうか…その…一緒に演じてみたらどうなるだろうって言うライバル心といいますか何と言いますか…」

「うん。俺の目から見ても、彼…やはり上手いと思うからね、キョーコちゃんがそう思っても不思議じゃない。」
「やっぱり!社さんから見てもですか?」
「そうだよ。流石は保津周平の息子というか、クー・ヒズリの息子って言うか…それを言うと、本人は嫌がるだろうね。少年の頃は父の名声とあの容姿で芸能界から締め出されたみたいだから。」
「芸能界から…」
「噂に聞くとそうらしい。やはりこちらでも親の七光りってあるから、色眼鏡で見られたんだろう。けれど、彼は自分にもその状況にも妥協しなかった…一人で演技力を磨いて、クオン・ヒズリである事を隠していろいろな映画に出演した。そのかいあって演技力が認められてからは順風満帆だけれどね。」
「…そう…なんですね。」
「興味がありそうだね。もっと調べて、教えてあげようか?」
「いえっ…!そんな事ないです!なんだか少し悔しいだけです!」

(愛をまだ否定したいって分かってるけどさ、そんな否定しなくてもいいのにな)

「ふーん…でも、次のオーディション、男性の日本人役はクオン君に決まったようだから、もしキョーコちゃんが獲れたら、共演ってことになるね。」
「…え?」
「そう、日本人将校、敦賀蓮役にクオン・ヒズリ」
「クオンが…日本人役を…」
「まあ出来なくはないだろうね。彼は日本語が堪能だしね」

次に受ける予定となっているオーディション

第二次世界大戦を描いた映画に出てくる日本人将校とその妻。誰がその将校を演じるのか日本でも話題になり、その妻の役をまた森住仁子と争う事になるのだろう。
けれど、将校役に決定したのは有名日本人俳優ではなく、若きハリウッドスターのクオン・ヒズリ…。

「アメリカ人でありながら、日本人を押しのけて日本人役を獲ることができるクオン・ヒズリの演技力。間近で見る価値は十分すぎるほどあるよね」

社の言葉に俄然役を獲りたいと…その妻役を演じてみたいと思うキョーコであった。




(続く)



キョコさんの心の変化も少しずつ変化していっているのです。
表面に出さないなんて、凄く大変そう…出しちゃえばいいのになー。
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