夢現刻物語 3

原作:ぽてとあげたい様 文:かばぷー による

「夢現刻物語」
(ゆめうつつのとき ものがたり)

第3話をお届けします。
前のお話はこちら 序章  


ぽてしゃんワールドと、かばぷーワールドの融合を、どうぞお楽しみ下さい。









夢現刻物語 3 ~祭りで~





マントをかぶって全身を覆い隠し、キョーコと連れ立って赴いた城下
皇子にとっても生まれてはじめての祭りは、予想以上に賑わっていた。

“市(いち)”と呼ばれるこの祭りは一年に四回、季節ごとに開かれる。毎年、春には一年で一番大きな市が立った。
帝都の大門から城の城門へ真っ直ぐに伸びる石畳のメインストリート沿いには、色とりどりの天幕を張った出店がところせましと軒を連ねて立ち並ぶ。
南のマツシマ領からは、おもに海産物を扱う店、東のオガタ領の菓子や工芸品を扱う店、武具や馬を扱うクロサキ領の店まであり、あちらこちらからいい匂いが漂ってくる。
運河沿いの広場では、キョーコが言った様に色とりどりの衣装を纏ったタカラダ領の踊り子たちが軽やかな音楽を背に舞い踊っている。

北部の広大な土地を有するタカラダ領は、建物となる石材や木材、良質の玉(ぎょく)を産出している。小麦の質もなかなかに良いものができる。だが、北に位置するため、冬は長く厳しい。だから領民が長く厳しい冬を楽しむための芸能が特に発達した。また、明るい色や鮮やかな色を組み合わせた民族衣装も特徴的で、家にいる女たちが長い冬の間に、内職としてその鮮やかな織物を織るのだった。

キョーコは鮮やかな衣装を纏った踊り子たちをキラキラとした目で見つめ、頬を紅潮させて拍手した。

「凄い!凄い!」
「気にいった?」
「はい!とても賑やかで楽しいです!」

リズムに合わせて、身体がうずうずと動いている嬉しそうなキョーコに、皇子は嬉しくなった。


「キョーコは歌ったり、踊ったりしないの?」
「え……っとー…、歌は絶対に歌いません!」

「え…絶対?」
「む~~~う…だってお母さんから禁止されてるんだもん!」
「なぜ?歌えばいいのに。」

その時、微妙に眉間に皺を寄せて、むう~っとキョーコの頬が膨れた。

「……恥かしいし、下手だから歌っちゃだめなんだもん!」

その拗ねたような膨れっ面に、皇子は慌てて、他のも見に行こうと笑った。

ものめずらしそうに、キョロキョロと屋台の天幕を覗いては、嬉しそうな笑みをもらす。
はしゃいでいたらどこかへ行ってしまって、見失いそうになり、皇子は慌てて後を追った。自分についているだろう護衛たちも、さぞやきもきしているだろうと多少の申し訳なさは伴っていたが、そんなことよりもキョーコと街に出る楽しさがあった。

「殿下っ!お饅頭!ふかしたてのお饅頭があります!」
「しーーーっ…」

皇子は黒いマントのフードの下で、人差し指を一本立てた。

「………?殿下?」
「キョーコ、街に出たら殿下はなしね?」
「え、…と、じゃあ何と呼べば…」
「クオン」
「コーン?」
「ぷっ…違うよ。く、お、ん」
「こ、お、ん?」

いつもは、かなり滑舌の良いキョーコであるのに、自分の名を呼ぶたどたどしさが、なんだかもどかしいようで愛しい。

「ぷぷぷっ、じゃあとりあえず今日はそれでいいよ。」
「はいっ!コーン殿下!」
「だから、殿下はなしだってば。」

皇子ははぐれないようにキョーコの手を取って、饅頭売りの元へ向かった。







まだ、ほんのりと温かい饅頭を手に、二人は砦の丘に上った。

小さな黄色い花をつけたキツネノボタンや、白い綿毛をためたタンポポが穏やかな日差しを受けて揺れている。
振り返ると、まだ城下は祭りの熱気がこもっているような賑やかさを保っていた。

城下町の賑わいから少し離れ、皇子はようやく目深にかぶったフードつきのマントを脱いだ。皇帝からつけられた護衛も、人ごみから無事に抜け出した二人に安堵して、やや離れた場所から一礼を残して、完全に皇子の護衛を外れたわけではなくとも、二人のそばから姿を隠した。



「あーん…」

ぱくっ…と、まるで音がするかようにキョーコは大きな顔ほどもある饅頭にかぶりついた。白くて柔らかいパン生地に、甘く練った豆の餡をつめて蒸篭(せいろ)で蒸したそれは、秋から春のおやつには一番人気のオガタ領の有名な菓子だ。

オガタ領は穀物の生産が盛んで、米も小麦もとうもろこしもできる。モチモチとした米とふわふわした小麦を混ぜたパンの中には、子供が好む甘い餡が中に入った饅頭の他にも、大人が食事代わりにもできるように、煮込んだひき肉を挟んだ饅頭もあるなど、種類も豊富。蒸篭を開いた瞬間に立ち上る、蒸したての湯気を嗅ぐだけでおなかが一杯になりそうな幸せを感じる、美味しくて有名な饅頭だった。
また、牧畜も盛んで味の良い乳製品を加工した菓子が有名で、チーズやバターといった保存の利く食材を菓子に使うなど、新しい菓子も生み出していた。


「お………」

「お……?」
「おおおおおーーー!!!美味しいっ!!!」

キョーコは、目をうるうるさせて饅頭の感想を述べた。

「うん、美味しいね。」
「殿下ってば、ちっとも美味しそうじゃないです!」
「いや?美味しいよ。」

「…嘘つき」
「ううん、本当。キョーコと一緒に食べると何でも美味しい。」
「それは、お外で食べるからですよ。」
「そうかな?」
「そうです!ピクニックをすると、何でも美味しいんです!」

お母さんと一緒にお出かけすると、いつものサンドイッチが二倍、三倍美味しくなるんですよ。とキョーコは嬉しそうに笑う。

「殿下と食べるおやつもとっても美味しいですね。」

無邪気にキョーコが笑えば、さっきまで口にしていた饅頭が、もっと、もっと美味しくなるように皇子も感じた。

「キョーコはお母さんが好き?」
「大好き。」
「お父さんは?」
「うーん…お父さんはいないので分かりません。」

「………そう。寂しくないの?」
「ぜんぜん?だって、お母さんがいっぱい一緒にいてくれるから。それに、陛下もお后様もとっても優しいので、大好きです。」

僕は…?と皇子は聞きかけて、やめた。
ほくほくと嬉しそうに饅頭を頬張るキョーコに、みっともない態度など見せたくない。

ましてや、万が一その口から自分を少しでも忌み嫌う言葉が出たりしたら…
たとえそれが領民だけでなく、国民が抱いている感情なのだと分かっていても、努力しても努力しても自分の力だけではどうにもならないことを否定されるのは……とても辛い。

自分が仮面をつけていてよかったと思った。

―――こんなに醜く、ネガティブな感情を周囲に悟らせてはならないからだ。

春らしい景色とは裏腹に、皇子の感情は酷く振れた。


「殿下といると、凄く楽しいです。」

「………え?」
「だから一緒に、もっとたーくさん街をお散歩したいです。たくさん、たくさん、このツルガの街やヒズリの国の事を教えてください。」
「キョーコ…」
「だって!もったいないですよ?そんなに綺麗な髪も隠して、コソコソして…街の人はきっと殿下と仲良くしたいと思ってます!絶対です!」

「そう…なのかな」
「絶対そうです!だって、初めてあったとき、凄く私は嬉しかったのです。絶対に街の人も皆、殿下と仲良くしたいって思ってるんです。」


「あり…がとう……」



本当に些細な一言だったのに…

あっという間に…本当にあっという間に心のもやもやが消えていく…
何だか心の隅がこそばゆくて…皇子の気持ちに変化が生まれた瞬間だった。



小さな体で大きな饅頭を頬張って、満ち足りたのだろう。
柔らかな日差しの中、うつらうつらと舟を漕ぎ始めたかとおもうと、やがてコテン…と、皇子の腕に小さな頭が触れた。

皇子と共に過ごすようになって、わずかな日数しか経っていない。

けれども、小さなキョーコにとってはお城という特別な空間にいることは、緊張の連続だったに違いないのだ。

皇子はすうすうと寝息を立てるキョーコの重みを心地よく感じていた。






(続く)
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待ってました❗

更新ありがとうございます❗


早速で申し訳ないのですが、誤字を、、、

美味しくなうように皇子も感じた。、、、るのはずです。こんなことお伝えしていいのか迷いましたが、、、、


饅頭の美味しさがすごく伝わってきました。クオン殿下の心がキョーコさんに近づいていっている感じもスッゴクわかりました。キュンとしちゃいました。


これから毎週楽しみです❗

Re: 待ってました❗

> harunatsu7711 様

ご指摘、ありがとうございます。
早速訂正しました。

> 饅頭の美味しさがすごく伝わってきました。クオン殿下の心がキョーコさんに近づいていっている感じもスッゴクわかりました。キュンとしちゃいました。

うふふ、もっと突っ込んで、饅頭!!
どんな饅頭か、想像つきましたかしら?ええ、冬のおやつには欠かせない饅頭ですのよ。ふかふかの、熱々の・・・ふわーっとしたの!
大事なのは妄想力ですからね。

ほわほわ過ぎるぅ( 〃▽〃)

キョーコのお母さんの言いつけ、『お歌は歌っちゃダメ』。ああ、御伽噺的要素満載な、『幼い頃の親からの言いつけ』。いいっ!イイよぉっ(*≧∀≦*)これ、ぽてともどっかで使いたい←←ヲイ!


フカフカお饅頭、絶対に美味しい!むぐむぐ頬張るキョーコちゃん、絶対に可愛い♡

柔らかな自然と、優しくて甘くてあったかい食べ物。ほんわりします〰( 〃▽〃)ぽてとも二人のホコホコおやつに混ぜてほしいなあ〰(* ̄∇ ̄*)

クオン皇子の『僕』という一人称が好きです。なんだか、すごく『らしく』って。うふ、ぽてともどっかで使いたい←←ヲイ!!!

Re: ほわほわ過ぎるぅ( 〃▽〃)

> ぽてとたべたい&ぽてとあげたい 様

> 御伽噺的要素満載な、『幼い頃の親からの言いつけ』。いいっ!イイよぉっ(*≧∀≦*)これ、ぽてともどっかで使いたい←←ヲイ!

使って、使ってー!!是非使ってー!!
なんだか、ちょっと禁断の・・・的な匂いがするでしょ?
そして、ふかふかお饅頭のおやつタイム。この二人を見守る護衛の方も、きっとほんわりと見つめているに違いありませんのよ。
そして、この頃の皇子は、まだ『僕』!だって、10歳ですよ?育ちのいい坊ちゃんですからー。
クオンが『僕』って、これもまた、萌えるわー!!(←!??)
うふふふふ・・・だんだんと、おとぎ話感が増してきましたね。嬉しいわー。
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