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夢現刻物語 15

原作:ぽてとあげたい様 文:かばぷー による

「夢現刻物語」
(ゆめうつつのとき ものがたり)

第15話をお届けします。
前のお話はこちら 序章          10 11 12 13 14 



さて、物語も後半戦に突入しました。
大きくお話が動いていきます。
ぽてしゃんワールドと、かばぷーワールドの融合をどうぞお楽しみ下さい。









夢現刻物語 15 ~キョーコの縁談~






―――6年後



カン!キンッ!
キーンッ!

金属の触れ合う音がして、歓声が湧く。

キンッ!カン、カン、キーン!!

二人の男性が息を弾ませて動きを止めた。
互いを睨みつける鋭い双眸
一方の剣は頭上でぴたりと止まり、もう一方の剣の先端は喉元に当てられたままだ。

「双方やめい!」

皇帝の声に二人は剣を離し、御前に控えた。

「なるほど…双方ともに、この国きっての剣の名手。なかなか勝負はつかぬと見える。引き分けといったところだろうか?」

「いえ、先程はムラサメが優勢にございます。」

皇子は厳かにその口を開いた。

「ほう…?ムラサメの優勢とな?」
「はい。左様にございます。」
「ふむ、何故だ?わたしには互角に見えたが?」

皇子はちらり…とタイラを見た。

「喉元に…傷をつけたは、私の剣の未熟さ故にございます。」

タイラの喉元には薄らと血が滲んでいた。

「なるほど。では、此度の勝者はムラサメ・タイラとする。クオン、タイラ、なかなかよい物を見せてもらった。大儀であった。」

皇子とタイラは、皇帝の御前で深く頭を下げた。



皇帝の50歳の誕生を祝う御前試合の最後を飾ったのは、22歳になったばかりのクオン皇子と25歳の近衛隊長、ムラサメ・タイラだった。
二人はよき剣の相手として磨きあい、今やその腕は帝国内随一と言われている。

「クオン、お前、あっさりと勝ちを譲りやがって…実践ならお前の剣が俺の喉を先に貫いただろうよ。」
「そうは言っても御前試合だ。血を流した俺の方が負けだろう?悪いな、止められなかった。痛かったか?」
「痛くはないね…ただ、これが実践かと思うと…うひょーーー!!寒気がする。」
「ははっ、すまぬな。加減が出来なかった。」
「お前…嫌味なやつだな……」

二人は笑いながら、執務室に戻った。
そこには相変わらずにこやかに笑うヤシロがいて、キョーコがいた。

「もうっ!さっきは肝を冷やしました。御前試合は心臓に悪いです!」

ぷりぷりとキョーコは怒るが、その表情は硬い。

「驚かせてしまった?本気ではなかったのだけど…」
「キョーコ、マジでビビッてたのか?あれくらいなんてことないのに。」
「タイラ、キョーコの話は本当ですよ。先程からキョーコはずっと心の臓の前で手を握り締めていたので…ほら、紫色になっている。」

ヤシロは二人に説明するように述べた。

「ああ、キョーコ…すまなかったね。」
「全く…いつまで心配性なんだか。ね、おちびさん。」

「おちびさんは余計です!心配性で悪かったですね!二人がご無事であれば、よかったです。タイラ、傷の手当をしますから、こっちへ…」
「はいよ、薬師様よろしく!」

タイラとキョーコは執務室を後にし、皇子は……黙ってその後姿を見ていた。





「傷は…これだけ?」
「んー…多分な。」

喉元にキョーコの練った軟膏を塗り、軽い布で押さえる。
これくらいですんでよかった…と思うのだけれど、まだ、キョーコは身体の緊張が取れていなかったらしい。

「どうした?震えてる…」

タイラは、ゆっくりとキョーコの震える指先を握った。
その震える小さな手を引いて、大丈夫だと背をさすってやる事は、タイラには出来ない…いや、まだその役目ではない。

タイラの気持ちを知ってか知らずか、キョーコはするりと手を振りほどいた。

「ん、大丈夫……他にはない?見せて?」
「ないと思うが…」

そういいながら椅子から身を捩ったタイラは、一瞬で背筋をぞっと寒くした。

わき腹の下、甲冑の隙間の下布が切れている。
…しかも、身体には傷の一つもついてはいないなんて……

「あいつ……また、勝ちを譲りやがって…」

皇子はいつもそうだ。互角かそれ以上は望まず、近衛であるタイラを立てる。
まるで、自分が優位に立つことを避けているように振舞う時がある。きっとその方が皇子の都合がよいのだろうが…

タイラは小さく息を吐いた。







「殿下、本日の晩餐会は各国の使者が参っております。蓬莱の国からも使者が来ているとか。」
「蓬莱…これはまた随分と遠い。」
「そうですね。それもこれも…殿下が一向に覚悟をお決めにならないからでしょう。」
「まあ、そういうな……」

甲冑を脱ぎ、正装に身を包んだ皇子は光り輝いて見えた。
背は高く鍛えた肉体。端整な顔立ちはどんな女性も虜にするだろう。

…だが、その心は…心だけは、ただ一人の人間に向いていることをヤシロは知っていた。
時折見せるキョーコを思う強い恋慕
その感情に蓋をし続け、肉体は他所で誤魔化して…一体どこに皇子の幸せはあるのだろう。

御前会議に続く晩餐会と舞踏会は、皇帝の誕生を祝う他に皇子の婚約者を選ぶという意図が透けて見える。皇子のすばらしさを聞きつけた各国の麗しい女性たちが使者としてこの国に集い、先程の御前試合も見て、更に皇子の評判は上々だ。
今回ばかりは、皇帝の決めた相手を選ばざるを得ない状況かもしれない。

そうして…キョーコはまた心を痛めるのだ。

皇子を取り巻くのは各国、各領内からやって来た美女たち。
皇子が妻を娶る必要があるのは時期皇帝として紛れもない事実であり、国も民もそれを強く望んでいる。そして、それ自体を皇子は良くわかっているのだ。
出自もその美貌も自分とは比べるべくもない女性たちが皇子を取り巻いているという現実を目の当たりにして、学友とはいえただの女官であるキョーコは、これ以上側にいてはいけないことを十分に自覚している。

市井に下りて薬師として働くには、皇子の側を離れがたかった…
女官としてなら、もう少しだけでも側にいられると思った…

諦めとも違う、一種の覚悟をして皇子の側にいると決めたのはキョーコに間違いない。
けれども、もうキョーコは子供ではないのだ。数少ない知り合いは結婚をして子をなし、女官たちの会話からそんな知識も当然耳に入る。
決して帝都ではそんなそぶりは見せないにしても、外遊の際にタイラと皇子がどこに行って、どんな事をしているかなんて…キョーコの耳に入らないわけがない。
誰にも悟られぬよう焼け付くような気持ちを押さえる事は、もう出来そうにないのかもしれない。


そう……子供ではなくなった二人には、限界が来ているのだろうと思わずにいられなかった。





賑やかなその夜は、蓬莱の美女が場を席巻した。
今まで見たこともない民族衣装をつけ、話術にも国政にも長けた美しい女性。結い上げた豊かな黒い髪は艶やかで見事としか言いようがなかった。

「皇子は…心に決めた人がいらっしゃるのでしょう?わたくしはそれでも構いませんの。」

切れ長の長い睫毛が魅惑的に皇子を誘った。
随分と知的な…それでいて小悪魔のように心を揺さぶる声。

二人でバルコニーに向かう姿を皇帝は満足げに見つめ、キョーコは…唇を噛んだ。








「キョーコ、これへ…」

舞踏会も終わり、片付けに奔走する女官たちのなかにキョーコはいた。その時不意に呼びかける皇后の声
キョーコはその手を止めて、速やかに皇后の下へと駆け寄った。

「はい、皇后様、お呼びでしょうか?」
「キョーコ、この方はタカラダ領の政務官、ルト殿。とても優秀な方です。あなたに紹介しようと思って。」
「はじめまして、キョーコ殿。私はタカラダの主席政務官、ルトと申します。」
「はじめまして、モガミ・キョーコと申します。」

「ほう…このお嬢さんが、クオンの幼馴染なのか。なるほどな…」

タカラダ領主のローリィ卿はご機嫌に笑う。

「大変美しいお嬢さんだ。これで魔法学校を首席で卒業した才女とは!ルト、決めてしまえ。」

「?、あの…」
「キョーコ、ローリィ卿は政務官殿の妻として、あなたを迎え入れたいと言っておられるのです。」

「え?」

「キョーコ、かねてから申しておるでしょう?そろそろ嫁ぎ先を考えなさいと。18歳にもなって嫁に行かぬとは…少し遅いのですよ?」
「でも、皇后様、わたくしは女官ではありますが薬師として…」
「分かっていますよ。あなたが無類の勉強好きだということは。それを知って、ローリィ卿もルト殿もあなたを…と、強く望んでおられるのです。こんなによいお話は他にはないように思います。母代わりのわたくしも声をかけていただいて嬉しいわ。自慢の娘ですもの。」

キョーコはスカートの端をきゅっと握りこんだ。
最近、結婚を話題に出される事が多くなったのは、うすうす勘付いていた。

皇后が…自分のことを娘のように思ってくれているのは知っている。
母が亡くなった時も一晩中抱きしめて眠ってくれた、優しい母のような人……。その皇后が勧める縁談だ。広大なタカラダ領を守るローリィ卿の片腕であるルトの名前は帝都にも届いていて、それは、とても光栄な事には違いない。

けれど………


「少し、考えさせてください。」







キョーコは走った。
明かりもない暗い廊下、どこをどう通って、部屋のある女官棟まで戻ってきたのか思い出せない。

先程のルトの顔と、綻ぶ皇后の顔が思い浮かんで…
今日の美しい女性たちに囲まれて微笑む皇子の姿が脳裏に思い浮かんで…
…じわりと涙が滲む。

けれど、涙など見せられない
唇をぐっと噛み、涙を堪える事しか許されない



ようやく部屋の前に辿り着いた時、扉の前に佇んでいた人物の姿を見て、キョーコの緊張が一気に緩む。

「………ヤシロ……さん……」

「キョーコ………」

ゆっくりとヤシロがその両手を開く。



「………我慢…しなくていいよ」



つぅ…と、頬を涙が伝い、キョーコは迷わず、その腕の中に飛び込んだ。






(続く)
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コメント

なんですと?!
肉体は他所で誤魔化して。。。ですと?!
あれから外遊の度に本当に花街に行ってるのだとしたら、お姉さんは悲しいよ!!
そしてヤシロ氏の腕で泣くキョーコを、またどこかで見て余計にキョーコから遠ざかろうとするなら、クオン、お前は本当に大馬鹿者だぞ。

まあ、そうはならないと、お姉さんは信じたい。

ドキドキしながら16話を待ちます。

ああ、ドキドキする!早く続きが読みたいです^_^
Re: なんですと?!
> にゃんる様

いらっしゃいませ。おほほほほ~~!!

青年になったクオン皇子、「肉体は他所で誤魔化して…」るんですよねえ、残念ながら。

まあ、健全な若者ですし、妻もおりませんし…時代背景といいますか、物語の設定上、15歳で成人とするお国柄ですから、そういうのはありではないかと…(パラレル!!100%パラレルですから!!)割り切ったプロの女性でなくとも自分自身でという気もしなくもないですが、まあ、そんなにしょっちゅうではないということで、ご理解をお願いします。
(だって、帝都ツルガの街中とか、一般女性とかだとそのあとが怖い…。)

ただ、敦賀さんファンとしては、いらっとする設定ですよね。ええ、凄くやきもきします。(←書いているけどね)

16話、どうなるのか?どうぞお楽しみ下さい。
  • 2018-07-08│11:58 |
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