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恋しい夜 愛しい朝 3

(2018,5,4 改稿)






会場となった某有名ホテルには、各国のメディアが揃い踏み、入り口にはスター達の登場を今か今かと待ち望む人で、ごった返していた。

其処へ滑り込む一台の車。

運転席から降り立ったのは、日本人俳優 敦賀蓮。

そして、彼が助手席からエスコートし、優雅にレッドカーペットに足を運んだのは、華奢なシルエットに、ブルーのドレスを纏った、美しい日本人女性だった。




恋しい夜 愛しい朝 3





他の欧米人と並んでいても、遜色ない体型を誇る俳優の敦賀蓮は、その容姿と演技力で、こちらでの認知度も上がっていた。
元々、RMの専属モデルのトップとして、並み居るモデル達より先んじる立場に立っていた蓮を知る者は少なく無い。
そんな男が連れ立ったのは、オリエンタルな瞳をした、美しい女性。
青いドレスは、誂えた様に艶やかな肌を引き立てる。

モデルの様な美しいウォーキングを披露するキョーコが、日本で活躍するタレント『京子』だという事は、こちらではあまり知られていないようだ。
日本のメディアでさえ、この夜のスクープを信じられない思いで撮影していた。
眩いばかりのフラッシュの中、二人は優雅に会場へと入って行った。


会場に入ると、何人かの共演者に囲まれて談笑する蓮とキョーコの姿。

勿論、蓮はキョーコを片時も離さず、多くのプロデューサーたちに紹介したとき、英語も堪能なキョーコに周囲は好意的で、キョーコへの興味を隠そうとはしなかった。
他にも東洋人女性がいないわけではないが、やはり、キョーコは一際美しいのだ。

そんな中、一人の女性が蓮に近づいてきた。

『ハーイ、蓮。その娘が貴方のステディなお相手?』

ブルネットの髪を派手に盛り、不躾にキョーコを見下ろす。

『ハイ、ジェシカ。』
『ふうん…意外ね。こんな貧弱な娘が好みなの?』
『随分と失礼だね。君にそんなことを言われる筋合いは無いはずだけど?』
『あら?それはごめんなさいね。へぇ…あなたも女優なのかしら?』

ジロジロと値踏みする様な目線に、蓮の眉間が寄る。
こっちに来てから、やたらとアプローチして来る女性の中の一人だったのだが、まさか、こんなところで、絡んで来るなんて…

『蓮さん、こちらの方はどなたですか?』

ブルネットの女性は、多少の知名度を自負していたのだろう。見下ろしていた東洋の女性に“アンタ誰?”と暗にいわれた格好に、顔がサッと赤くなった。

『なに!?あなた、私のことを知らないの?随分と田舎ものなのね!』
『大変失礼しました。小さな島国育ちでお名前も存じ上げず、お恥かしい限りです。初めまして、京子です。蓮がお世話になった方ですね?お会い出来て光栄です。以後、お見知りおきください。』

居丈高な様子を気に留める風でもなく、流暢な英語で切り返す。
まさか、英語が堪能だと思っていなかったのだろう。ジェシカと呼ばれた女性は、綺麗な顔を歪めて、挨拶もそこそこに、ふいっとその場を離れていった。


「上出来…」

蓮はキョーコを引き寄せて、つむじにキスを落とす。

「はぁ、緊張するじゃないですか。」

蓮に言い寄る女性が多いのは、覚悟の上だ。
流石に自信たっぷりに来られると、怯みそうになるが、社からこっそり教えて貰っていたのだ。

ホテル住まいをやめたのは、貞操を守る為だと…。

既にモデル達の中では有名な蓮だったが、俳優としての知名度はまだまだ。その蓮が俳優として演技を勝負しにハリウッドに進出すると聞いて、次から次へとアプローチして来る女性たちがいたという。
容姿もスタイルも極上な男が、単身、アメリカに乗り込んで来るのだ。将来的にも有望な男を獲得できるこのチャンスを逃す手は無いと、積極的な彼女達は、ホテルに押しかけ、あの手この手で迫ってくることに辟易し、それから逃れる為にわざわざ郊外に家を借りたのだった。

蓮にとっては、キョーコ以外の女性に興味はなく、ほとほと迷惑していたので自然とそうなっただけだったが、日本から連れてきたマネージャーと好い仲だと、逆に噂をされる。まだ、ゲイ疑惑の方がマシかも知れないと半ば放置していたのだが…蓮に言い寄る女性の中には、まだ彼女の様に諦めていない者もいるらしい。

自分のために、女性を遠ざけるなんて…。
蓮を信じていないわけではなかったけれど、ここはアメリカだ。恋愛だって奔放だと聞く。だからこそ、キョーコは蓮のとった行動を、素直に嬉しいと思った。

蓮は蓮で、今回のエスコートによって、日本人の可愛らしい恋人がいるのだと分かるだけでも、好都合。
ましてやキョーコは息を呑むほどに美しい…。
こんなに美しい女性が蓮の恋人であることが誇らしく、全ての人に自慢して歩きたかった。

だが、一方では美しい彼女ゆえの心配事もあったのだ。

キョーコの美しさに敏感な男共が、ずうずうしく蓮に紹介を求めてきた。
それも、そんな積極的な行動に出るのは、案の定、自分に自信がある男ばかり。

だから、キョーコが化粧室に行く時には、社にそばにいてもらう事にした。そうでなければ、どれほどの馬の骨が纏わり付くか分からない。パートナーがいようがいまいが、そんな事はお構いなしだ。

『やあ、レン。あのカワイ子ちゃんは誰だい?』
『俺の可愛い恋人ですよ。』
『なんだって?冗談だろう。君はゲイじゃなかったのかい?それともカモフラージュ?』
『いや…。それ何の冗談?』
『ふぅ…ん。興味があるねえ…。美味しそうな彼女だ…』
『だろう?魅力的な女性だからね…。』

ペロリ・・・と品定めをするように舌を舐める男に嫌気が指す。言葉とは裏腹に、射るような視線で男を見た。

『誰かに譲る気も、入り込む隙もないね。…じゃあ、失礼するよ。』

にこりと微笑んで見せれば、一瞬で凍りつく男…そんな様を無視して、男の横を通り過ぎた。

(…………不愉快だ。)

あからさまな秋波を見せ付けられて、胃の辺りがジリジリする。
表面的な冷静さを装っていても、余裕などない。

日本人であるが故の興味、美しいが故に与えられる関心。
蓮は一瞬でもキョーコの傍を離れてしまったことを後悔し、フロアーの入り口の方に目を向けたとき、蓮の眼に予想だにしなかった人物の姿が映った。







蓮から離れた間、しばしの時間を任された社も、実力社会のアメリカで自信を持っている男たちの、キョーコへのアプローチに危機感を抱いた。

社がいても平気で声をかけて来る彼ら…。マネージャーという概念は、日本とこちらとはかなり違うのだろう。お構い無しにグイグイと押してくる。

そんな中で驚いたのはキョーコの男のあしらい方だった。
キョーコでも、ましてやナツでもない女優『京子』は、もはや、そんじょそこらの新米タレントではない事は事実ではあるのだけれど、艶やかな雰囲気を纏わせて、彼らをさらりと退ける術を身につけているなんて…いつの間に、こんなことが出来るようになっていたのだろう?

「キョーコちゃん、凄いね。モテモテだ。」
「社さん…それは何の事ですか?」
「イヤ…、だから、結構、声掛けられてさ…。」
「皆さん好意的なんですね。そんなに、日本人女性が珍しいんでしょうか?」

こんなところは、やはり天然鈍感最強乙女の面影を残すようだ。
だが、どこかしこに妖しい雰囲気を漂わせ、魅惑的な微笑を振りまいているその姿に社か確信した。
日本でのあの情報は、やはり嘘ではないらしい…と。

社は危機管理レベルを上げざるを得なかった。


そんな二人が化粧室からフロアーに戻ってきた時、二人はありえない光景を目撃し、その場に立ち尽くした。




(続く)
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