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僕らは夕映え色の空を越える(後編)

さて後編です







『9月になったら、イギリスに1年留学しようと思うの。』

そんな言葉がキョーコの口から出たのは、大学3年生の春

『本当はずっと行ってみたくて・・・実は去年から申し込んでたの。今がチャンスだと思うから、行ってもいい?』

好きな子のやりたいことを邪魔するような男にはなりたくはない。けれど、ようやく二人の関係が落ち着いてきたときに言われた言葉を、蓮はすぐには飲み込めなかった。





僕らは夕映え色の空を越える (後編)





ロンドンの空は何故か曇り空の日が多い。
曇り空が多いというより、天候が変わりやすいのだそうだ。そして冬が近づくと日の出の時刻も遅くなる。

はっきりしない意識でホテルのカーテンに手を伸ばすと、曇り空特有の少し鈍い光が部屋に明るさをもたらしたが、今日はそれくらいが心地いい。

「キョーコ、朝だよ。起きられる?」
「ん・・・・・・」

もぞもぞと眠そうにシーツに顔をこすり付ける姿がまた可愛らしくて、熱が上がる。



昨晩はキョーコと何ヶ月ぶりかで肌を重ねた。
久しぶりの逢瀬だからかキョーコはいつになく乱れて、互いに激しく求め合った結果の朝。

眠いのは仕方ない。

「起きないと襲うよ?いい?」
「んむう・・・・・・・・・」

これほどに夢心地の中にいたがるのだから、かなり無理をさせてしまったのだと反省せざるをえない。が、実を言うと、今日はこのままベッドの中でまどろんでいたいと思うほど、心身ともにキョーコを欲していた。


結局大学のある町では大学とホテルの往復で、二人きりの甘い時間など取れるはずもなく、金曜の夜に電車でロンドンに一緒に来た。
電車で1時間ほどなので、学校帰りの大学生が遊びに出かけることもあるらしい。キョーコの交友関係はそれほど広くはなく、観光地にもあまり行ったことがないという事実は蓮を安堵させたのだが、まだ一晩だけでは補給には足りない。

「もうちょっと・・・寝かせて・・・蓮の匂い、落ち着くから・・・」

夢現の状態で、ふにゃらりん・・・と好きな女に微笑まれたら、理性的でいられる男なんてそうはいない。
朝っぱらから若さと勢いに任せて、何回戦目かに突入した。







「もう少し寝かせてって、言ったのに・・・」

ぷりぷりとキョーコはおかんむりだ。

「土日に仕上げる予定のレポートを、前倒ししたから?」
「教えてくれてたら、早めに仕上げておいたのに」
「うん、あらかじめ予定を言っておこうかと思ったんだけどね、いろいろと・・・」
「いろいろと、何?」
「いや、なんでもない」

言える訳ないのだ。キョーコが羽を伸ばしすぎてるんじゃないかと心配して、実は抜き打ちチェックの意味も兼ねてこちらに来ただなんてこと。

「あ、分かった。誰にも言わずに来たんでしょ?お父さんたち、心配してなかった?」
「それは大丈夫だと思うよ。もともと息子の一人暮らしなんて、親はさほど心配しないよ。生存してるかどうかくらいじゃないかな、多分。」
「そうかなー・・・。じゃあ、あれ。ファンの子達から逃げてきた?」

ファンの子?何それ、と首を傾げたら、スマホの画像を見せてくれた。

「奏江がご丁寧に教えてくれたよ。敦賀君が雑誌に載ったって」
「ああ、それ。写真撮らせてくれ、っていきなり街中で声かけられたやつ。でも、ファンとか大げさだよ。そういうの、できるだけ関わらないようにしてるし」
「関わらないの?」
「キョーコを不安にさせたくないから」

「・・・・・・・・・そういう天然タラシ発言、久々に聞くと照れる」
「真剣に照れないで、恥ずかしくなるから」

マーケットを冷やかしながら、有名な塔や宮殿に向かう。
昼間の治安はさほど悪くないが、一本通りを入ると別の雰囲気が漂うのは外国ならばどこも同じようなものだろう。だからこそ夜は女性の一人歩きなどは絶対に出来ない。

「敦賀君と一緒に見られて嬉しい。こういうところ、なかなか一人では見られないから」
「誰かと一緒に来ないの?」
「う~ん、やっぱり男の人と単独で・・・って言うのは少し抵抗があるのね。だから女の子といる方が気が楽なんだけど、最近、フラットの友達も彼氏と遊ぶ方が忙しいみたい」
「そうなんだ?」
「想定内でしょ?」

じゃあ、大学で声をかけてきていた多くの男子学生は、あくまでも議論の対象ってことか・・・と、思い出す。
こちらの学生はとにかく議論が好きらしい。世界の食糧危機や、国の情勢などを男女問わず、集まれば良く語り合う。カフェテリアではそれがごく一般的な光景だ。良くも悪くも平和ボケした日本の学生とはやはり大違いなのだと、実際に聴講してそんな印象を受けた。

「何人かはパーティーに誘ってくれたり、一緒にキャンプにいこうって誘ってくれたりする子もいたんだけどね」
「下心が見えた?」
「ふふふふっ、そんなのじゃないけど警戒はしたかも」

キョーコは自覚していないのか、結構日本人の女の子は人気があるらしいと聞く。まあ、アニメやアダルトコンテンツの影響もあるのだろうし、アジア人の中でも控えめな日本人の中でも、更に控えめなキョーコはミステリアスに映るだろう。そして、勉強に関しては自分の意見をはっきりと述べる彼女に興味を持っている男性は少なからずあるだろう。

でも、少しだけ安心した。

「出来るだけ、男性との接触は避けて欲しいな。俺のわがままだけど」
「ホントですよね。こんなに敦賀君がヤキモチヤキだとは思ってなかった」
「すみませんね、器の小さい男で」

そんな事言ってないよと、キョーコは笑う。

「敦賀君にも出来るだけ、周りの女性を意味不明に勘違いさせないような態度で日々過ごして欲しいです。私のわがままですけどね」
「勘違いなんてさせてない。日々精進してるよ」
「どうだか」
「信用ないな・・・」
「だって、基本的にもてるでしょ?凄く格好いい上に、スタイルもいいじゃない?背が高いからそれも格好良さに何割り増しかプラスされて、服だって何着ても良く似合ってて嫌味なくらいだし。フェミニストで誰にも満遍なく優しく接してて、敦賀君の天然タラシ発言による被害者は凄く多いと思うんだけどな」
「被害者って・・・それ、褒めてる?」
「褒めてません!けなしてます!」
「で、そういう彼氏じゃ不満なの?こんなにキョーコ一筋なのに。自分に会う為だけに俺が来たって思ってくれないの?」

そういうと、ぴたりと足を止めた。

「?どうかした?」

突然立ち止まったキョーコを不審に思って、腰を屈めて覗き込むと不意に背を伸ばしたキョーコの唇が触れた。

「不満なんてあると思う?」

不意打ちのキスに思わず目を見張る。
街中の、何人もが行きかうストリートの真ん中で堂々と奪われた唇。

奪った張本人は、頬を染めて照れくさそうに微笑んで・・・まいったな、凄く幸せな気分だ

「うん、不安にさせないようにする。気になったときは、教えて?すぐに飛んでくる」
「すぐに?」
「うん、24時間以内にね。必ずキョーコを抱きしめに来るから」

キョーコの顔がクシャリと歪む。

「ごめんね。私が勝手にこっちに来たのに・・・」
「全然?いろいろ新しい事が発見できていいんじゃない?」

またしっかりと手のひらを繋ぎあわせて、歩みを進める。

「そっか、そうだね。新しい事に出会えるもんね。ふふ」
「そうだよ。日本にいたら経験できない事も多いだろう?例えば・・・さっきのキスとか?」
「・・・っ!もう!」

少し色味を帯びはじめた空が、イギリスの長い夜の始まりを告げる。

「あ、そうだ。敦賀君は今晩、何食べたい?」
「流石にフィッシュ&チップスはもういいよ。キョーコの作ったものが食べたいな」
「そういうのは、フラットにいるときに言って!どのみちたいした物は出来ないけど」
「うん、冗談。本当は何でもいいよ。ファストフードでも何でも。キョーコと一緒に食べられたら、何でもいいんだ」
「ホント?」
「うん、この周りのレストランで軽く腹ごしらえしようか」
「ふふふ、敦賀君から腹ごしらえって聞くと、なんだか不思議な気がする」
「そうかな、まあ、食べないとキョーコに叱られそうだし・・・」
「やだなあ、食べるのが普通でしょ」
「あ、そうだ」
「ん?」

「ホテルに戻ったらすぐにメインを食べるつもりだからね」

目をまあるくしたキョーコは、ほほを染めてそっぽを向く。

「・・・・・・ばか」

照れくさそうにそう言って、俺の手を握り返した。





(おしまい)




ぐほー、バカップル・・・
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コメント

コメント(4)
久々の逢瀬に( *´艸`)
や~~ん、バカップル全開だわ~( *´艸`)

久し振りだからって、蓮君頑張り過ぎてますか?
で、キョコがお疲れで起きれない( *´艸`)ぶぶ

でも気持ちはすぐ傍にあるから、キョコにしては珍しく街中でのキスとか~かわゆすぎますね。
これはキョコが日本に帰ったら…は無理でも卒業したら結婚して「俺のモノです」宣言を連くんしそう( *´艸`)

ホテル帰ったら、メインディッシュをたっぷりご堪能あれ、蓮くん♡

山崎由布子

2019/11/01 22:48 URL 編集返信
かばぷー
Re: 久々の逢瀬に( *´艸`)
> 山崎由布子様

バカップル全開ですよね。
あんまりかわいいからって、キョコさんを愛ですぎだと思います!(笑)

でも、私はそういう蓮さんが大好きなのです。

頭の中があっちばかりでも困りますが、こういう時には頑張ってもらいたいとの願望が駄々洩れてしまいました。

かばぷー

2019/11/01 23:31 URL 編集返信
更新ありがとうございます。

あー幸せです♡
糖分補充できました!!!!

あやめ

2019/11/02 21:08 URL 編集返信
かばぷー
Re: タイトルなし
> あやめ 様

こちらこそ、お越しくださってありがとうございます。
当分補給、結構甘すぎでしたね。幸せな二人で幸せに浸ってくださって、ありがとうございます。

かばぷー

2019/11/09 23:14 URL 編集返信
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