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雨降りに花開く恋心 3

(今日も雨…降りそう…)

新宿の高層ビル街の一角
曇り空を見上げて、キョーコは雨のにおいを感じていた。


雨降りに花開く恋心 3



『おはようございます。今日はあいにくの雨模様です。それでは雲画像から見てみましょう…』

予感からまもなくして、降り始めた雨。
雨降りの中の天気予報は透明な傘を差しながら、今日の気温や湿度を紹介していく。
キョーコの天気予報は、時々こうやって、市街地での生放送が行われる形に変化していた。

『夕方からは、雨は上がりますが、午前中にお出掛けのかたは、傘をご用意下さい。では、行ってらっしゃーい!』

「はい!OKです!キョーコちゃん、お疲れ様!撤収、撤収」

スタッフが慌てて機材を撤収していく。
高層ビル街の真っ只中、オフィスビルと、ホテル、官公庁が立ち並ぶこの場所は、まだ出勤している人もまばらだ。

「すみません、ちょっと休憩してきていいですか?」
「いいよ。10分くらいなら、大丈夫。」
「はい、すぐに戻ります。」

少し冷えたみたいだ。
スタッフもそのあたりは心得ているようで、必ずホテルが近いところに陣取ってくれる。
キョーコは近くのホテルのトイレを借りることにした。

トイレを出たところで、ロビーの先に背の高い男性の姿を目ざとく見つけてしまった。
チェックアウトを待つ客も多く、人が行き交う高級ホテルのロビーにあって、一際目立つその立ち姿。

(朝から見たくなかった…な。)

ご挨拶をしようか?それとも、見なかった振りをしようか?と、一瞬躊躇ったが、この時間帯にホテルから出てくる男に声を掛けるほど馬鹿じゃない。

キョーコはくるりと踵を返して、玄関のほうへ向かった。
そこへ背後から、心地よい声がキョーコを引きとめた。

「最上さん、おはよう。今日は屋外だったんだね。」

(何故!? えぇ?こんなに歩くの早いの?)

さっきはロビーの端のほうにいたのに、すぐ背後から聞こえる。
キョーコはぎょっとしたと同時に、若干げんなりした。

「敦賀さん…おはようございます。」
「もう収録済んだの?」
「はい、済みました。」

蓮が横に並んで歩く。
その時、ふわり…と女物のトワレの残り香が漂う。

(…やっぱり女の人と一緒にいたんだ…)

「何?元気ないね。そんな姿で収録したの?」
「…敦賀さん…。私は元気に収録しましたけどね。あの…何故、私はここで先輩に会わなくてはならないのでしょう?」
「ん?それは俺が今、ホテルから出てきたから?」
「…お盛んですね。」
「別にそんなんじゃないよ。たまたま。」

(なにが、たまたま…ですか。しれっとして、天然タラシ)

「今出たら、ロケバス、そこにいますよ。」
「何?気にしてくれるの?ありがとう。でも、心配しなくていいよ。じゃ、俺はこれで。」

憎らしいほどのスマートな仕草で、ホテルを後にする先輩アナウンサー。
彼の出勤時間はこれからだ。
今日、午後一でバラエティーの収録があることをキョーコは少しだけ恨んだ。






蓮をアシスタントにした、新番組バラエティーの収録が始まってから、2ヶ月が経っていた。
視聴率も上昇し、キョーコの新コーナーも順調である。

その間にも知ることが出来た、敦賀蓮の人となり。

人当たりがよく、穏やかな微笑みで、誰彼なく好かれる。
なのに、キョーコに対しては辛辣で、意地悪。
けれども、やはり仕事に対しては、本当に真摯に取り組んでいると分かる。
基本練習を人に見えないところで、さりげなくやっている姿を、キョーコは何度か見かけた。
仕事の準備は入念に行い、ニュースも、ナレーションの仕事もミスがない。
自分と違い、秒刻みのスケジュールだろうに、バラエティーでもアシスタントというサポートもそつなくこなす。突発的な事故も、瞬時に対応できる柔軟さ。
そして、自分のミスは自分のミスと言える潔さ。
先輩アナウンサーとしては、申し分なく勉強になるのだ。
…が、別の面も垣間見える。

もてすぎるのだ。

メインパーソナリティーの貴島さんも格好良くて話術にも長けている。
勿論、それだけでも視聴率アップは間違いない。
なのに、タレントでもないのに、出演したゲストから誘われる姿をキョーコは幾度となく目にしていた。
その場で、きちんとお断りをする姿も、嫌味がない。

だが、時々…ごくたまに匂う女性の影。

当たり前にもてるのは分かっていたし、手馴れていると噂もあった。実際、キョーコ以外には親切で、タラシだろうが、スケコマシだろうが、女の敵だろうが、キョーコには関係ないが、なぜかキョーコの心中は穏やかではなかった。



そして、蓮も同じ仕事を請け、最上キョーコの人となりを理解した。

ただのラッキーで入社したといった世間知らずな女。
雨はにおいで判別すると自分に対し、喧嘩腰で言い放った強気の女。
だが、原稿を何度もチェックする姿、空き時間さえあれば基本練習をする姿、ゲストの好みを調べ上げ、サポートするための資料を丹念に作る姿を目にしていた。ただの腰掛けとは、思えない。
極めつけは、朝のわずかな天気予報のために、仕事終ってからも、時間をかけてデータ解析をする姿だった。

蓮は、自分が不思議だった。
社に言われるまで、最上キョーコという存在にすら気付かなかった。
それなのに、生意気で自分を毛嫌いしているように見える、最上キョーコが気になるのだ。
別に好みのタイプではない。
寧ろギラギラと自分を挑戦的に見る、この娘の視線が心地いいとさえ思い始めていた。

そんな中、高視聴率を祝って、プロデューサーが奢ってくれる事になった。
蓮とキョーコは芸能人ではないが、やはりテレビの世界で生きていく人間。
こういうお付き合いも必要になってくる。
蓮は、もう一つの収録を終えてから、合流した。

- - - - -

「敦賀ひゃん…お疲れひゃまれす…。」

(誰がこんなに飲ませたんだ?)

遅れて、二次会から合流してみれば、すでに呂律が回らない、後輩の姿。

「最上さん、どうしてこんなに飲んだの?すみません、お水ください。」
「らあってぇ…」
「全く、遅れて来てみれば、何でこんな…。」
「敦賀君…悪いね。そんなに飲ませてないんだよ…。」
「貴島さん、どういうことですか?」

貴島が言いにくそうに説明する。

「分かんないんだよな。始めにみんなでご飯食べたところまでは、普通だったんだよ。ところが、二次会でこっちになだれ込んできて、苦いお酒は飲めないっていうから、カルアミルクにしたんだ。で…3杯飲んだところで、これ。」
「カルアミルクですか…。」

勿論、これまでアナウンス部での飲み会がなかったわけじゃない。
確かに、彼女はノンアルコールを頼んでいた…様な気がする。

「最上さん、明日もニュースあるんだろう?今日はこれまでにしない?」
「ふあい…。むーう…敦賀ひゃんもニュースれすよ…?。」
「ああ、そうだよ。」

蓮は何とかこの場からキョーコを連れ出したかった。

「…貴島さん、深川プロデューサー、来たばかりで申し訳ないのですが、お先に失礼してもよろしいですか?ちょっと最上をこのままには…。」
「うん。飲めないのに、悪い事したね。貴島君、今日は、お開きにしようか?」
「そうだなあ…。そうだ!俺が連れて帰るよ。敦賀君、飲んで行きなよ。」

貴島がしたり顔で言う。

「いえ、貴島さんがいらっしゃらないと、皆さんが残念がりますよ。どうぞお気遣いなく。最上は俺が連れて帰ります。後輩がご迷惑をおかけしました。」
「そうか~残念。もうちょっとキョーコちゃんと話したかったな。」
「そうですね。それはまたの機会に…、では、失礼します。」

千鳥足のキョーコを支えて、店を後にする。

(無防備すぎるだろう…。)

貴島はプレイボーイだ。
勿論、普段はそんなそぶりも見せないが、こんな状態のキョーコを連れて帰られたりしたら、明日のニュースに穴が開くかもしれない。
そんな失態はさせたくなかった。

(何だ…俺?)

ふと蓮は自分の違和感に気付く。
酔ってニュースが出来ないなんて、自分の危機管理の問題だ。
実際、酒で潰れたり、男に溺れたりする女子アナを見てきたが、こんなふうに手を貸したことは今までなかった。
それなのに、今、この娘にしようとしていることは何だ?
社会人としての厳しさを教えるチャンスじゃないのか?

自分の中の違和感を押しとどめながら、雨の中、キョーコをタクシーに乗せる。

「最上さん、家はどこ?」
「ひゃい?○○区…え~っと…△△番地?」
「合ってる?大丈夫?△△番地?近くにあるのは?」
「(ぐぅ…)」
(ダメだ…、俺の家に連れて行く…?いや、まずいか…)

蓮は、しばし考え込むと、溜息をついてキョーコのバッグに手をしのばせ、携帯を開いた。
(やっぱりだ…。)
この無防備すぎる後輩は、スマートフォンにロックを掛けていない上、住所もちゃんと登録してあった。

(ダメだろう…こんな…)

勿論、今回はそれで助かったのだが、蓮は大きな溜息をついて、運転手に行き先を告げた。

タクシーが目的地に到着し、抱えるようにして一緒に降りた。
キョーコはもう、半分以上、夢の中の住人のようだ。

「最上さん、着いたよ。起きて。家はどこ?」

「………」

「最上さん?」

「………」

「ねぇ…大丈夫?」





「……ふるははん…ぎぼぢ、ばぅい…。」

「えっ!?最上さん、ちょ…ちょっと、まっ…「う゛ぇぇええぇぇえぇぇ~~(ごぼぼぼぼぼ…)」」




(はぁ……ウソだろ……。)

蓮はその場に呆然と立ち尽くした。







(4)に続く

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  • 2016-01-17│00:16 |
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Re: タイトルなし
きゃー!!
お越し頂き、ありがとうございます。
嬉しいです~~~。

> かばぷーワールド楽しみにしています。

こんなに嬉しいメッセージまで頂いて、感謝感激v-344
もう、大興奮。
これからも、ぼちぼちですが、頑張りますね。
頑張りますから~~!!!
  • 2016-01-17│14:01 |
  • かばぷー URL│
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