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雨降りに花開く恋心 6

その時、蓮は遠くで村雨とキョーコの一部始終を見ていた。
村雨に突然抱きしめられたキョーコ。

その瞬間、胸を貫く衝撃。

沸々と湧き上がる、どす黒い感情。
自分はこんなところで何をやっているんだ?

(…吐き気がする。)

もうとっくに気が付いていた。
仕事が手につかなくて、カフェテリアに降りて来たのも、今、自分を支配するその感情の意味も。

蓮は自分の中の衝動を抑えきれず
非常階段に向かうキョーコの後を追った。

そして、キョーコから告げられた思いもよらない言葉。

愛おしさだけが込み上げて、蓮は大切な事を忘れたまま、キョーコを抱き締めた。



雨降りに花開く恋心 6




窓の外では、しとしとと雨が降っていた。

窓越しの雨音を聞きながら、暖かな肩に頭を預け、キョーコはぼうっと天井を見つめていた。

「無理…させたね。ごめん、急ぎ過ぎた。」

「…」

蓮の指が、優しくキョーコの髪を滑る。
キョーコは頭を軽く横に振った。
自分が望んだことだ。蓮は悪くない。

誰もが振り返るこの男を…
誰もが欲しいと願うこの男を…

自分も望んだ。

一晩限りでもいい。
ただ、一度だけ。
一度だけでいいから抱かれたいと思った。

ーーそれだけだ。


「初めてだって、知らなくて…。ごめん。」

蓮が、キョーコの額に口付ける。

おそらく、何処かでキョーコが未経験であることに気がついたのだろう。
激しかった愛撫は、キョーコの様子を伺うように優しくなった。
気遣って、やめようか?とも聞いてくれた。きっと、随分と手加減してくれたのだと思う。
だけど、これ以上甘えてはいけない。
優しく髪を撫でる手の暖かさも、勘違いしてしまいそうだ。
少しずつ、キョーコの胸に後悔と不安が押し寄せる。


「敦賀さん…今日は突然にすみませんでした。呆れたでしょう。こんなことをお願いして。」
「どうして謝るの。俺は凄く嬉しい。」

「…天然タラシ…。」
「誰がタラシだ。真剣なのに…。」
「そうやって、色んな女性の方が勘違いしていくんですね。」
「最上さんは?」
「…?」
「最上さんは、勘違いしてくれた?」
「………。」
「してくれたんだ。でも、勘違いじゃないから。」
「…してません。あの…シャワーをお借りして良いですか?」
「一緒に入る?」
「入りません。」
「つれ無いなぁ…。」

蓮といると楽しい。幸せな気持ちになる。
だが、蓮は無防備で迂闊な自分を諌めただけだ。この美しい男の側にずっといられるわけじゃない。
来る物は拒まなかっただけ。
それだけだと割り切れば、余計な欲は出さずに済む。

キョーコがシャワーを浴びて出て来た時には、半乾きの服を身に付けていた。

「…帰るの?」
「はい。」
「泊まっていけばいい。明日は…」
「すみません。…帰ります。」
思いのほか、強い口調のキョーコに一瞬固まる。
揺らがない様子に小さく息を吐いた。

「ちょっと待って。…送るよ。」
「いえ、タクシーを呼びますから。」
「…送る。こんな時間に女の子を一人で帰すなんて、出来ない。」

蓮は急いで服を着た。

キョーコのアパートに着くまでの間、二人にいつもの会話は無かった。
何故か気まずい沈黙が二人を覆っていた。
信号待ちの間に、隣のキョーコを見ても、窓の方に顔を向けたままで、表情を伺うことが出来ない。

「着いたよ。」
「ありがとうございます。」
「風邪をひかないように、直ぐに着替えて。」
「…はい。それでは、失礼します。」

蓮は、目を合わせないまま、車を降りようとするキョーコの右手を、慌てて握りしめた。
驚いたように降り返るキョーコ。

「…次は、いつ逢える?」

キョーコは困ったように、眉を下げた。

「わかりません。」

「連絡する。」

キョーコは何も答えることができなかった。


 *

 *

 *

次に収録で会った時には、キョーコには何事もなく見えた。
…が、さりげなく蓮を避けているのは確実だった。

局内でも当たり触りなく、接触を避けられる。



「…蓮~?お前、キョーコちゃんに、何したの?」
「社さん…。」
「村雨が来た日、キョーコちゃんと何かあっただろう…。吐け。」

ギロリと蓮に睨みを効かせる。こんな社を蓮は知らなかった。





「…で、何か?村雨に告白されて、混乱しているキョーコちゃんにせがまれて、気持ちも確認せずに、ほにゃららした…と。」
「…はあ。」
「…で、キョーコちゃんに避けられる…。」
「…………。」
「あほだな。」
「何でですか?」
「あほだろう。普通、気持ちくらい最初に伝えないか?お前は自分の気持ちが何も言わなくても伝わると思ってたんだろう?あほだ。」
「あほ、あほ言わないで下さい。」
「あの分かりやす~い村雨でさえ、キョーコちゃんに伝わってなくて、わざわざ来たくらいだ。お前のは、相当分かりづらい。」
「でも、最上さんは嫌がって無かった。」
「当たり前だろう。女の子はデリケートなんだ。そんな事も分からないのか。あほうめ。」

社は呆れたように、蓮に言った。

「まずは、お前がキョーコちゃんをどう思っているかを、きちんと伝えろ。」
「俺の…気持ち…?」
「そう。お前のだ。キョーコちゃんがどう思っているかじゃなく、お前の気持ちを伝えるんだ!まずはそこからだろう。いいな。」

ぷりぷりと腹を立てる先輩アナウンサーの後ろ姿に、感謝をしつつ頭を下げる。

蓮でさえ気づかなかったキョーコへの思いに先に気付いた男だ。
その男に気持ちを伝えろと、言われた。

ふと思い返すと、誰かに好きだと、気持ちを伝えたことがあっただろうか?

こんな風に誰かを欲しいと思ったことは、産まれて初めてだ。
誰かを思う気持ちを、切ないと思うことも初めて。
焦って、みっともなくても他の事はどうでもいいなんて、今までに一度も思った事はなかった。

それは、いつでも、望まなくても、与えられてきたもの。
望めば、簡単に手に入ったもの。
そして、離れても自ら追う事もなかったもの。
もしかしたら、今回もそんなふうに考えていたかもしれない。

だが、今は、簡単にすり抜ける彼女をこの手に留めたい。

彼女の笑顔が見たい。
彼女を抱き締めたい。
彼女の側にいて、彼女の声を聞いて、彼女の…

蓮は、クスッと笑う。

まるで、初めて恋をした様な気持ちに、自分でも驚く。
沸々と湧いてくる一つの思い。
何故、こんな簡単な事に気づかなかったのだろう。


(最上さんが好きだ…彼女の全てが、欲しい。)





(7)に続きます
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Comment

きゅんきゅん。
このシリーズは、読むのは2度目です。タイトルからして、すごく素敵だなって思って読みました。1度目は、先が気になって一気にワーッと駆け足で。ほんといい感じにパラレルに原作の雰囲気も混ざってて、すごく読みやすく。でも、専門的なこととか、仕事のこともきちんと描かれていて、ふむふむって読みました。
かばぷー様は、あまり切ない系は書かれないよーなことを、以前言われていたよーな?でも、このお話、きゅんきゅんしますぅ〰はふぅ〰蓮さんとキョーコさんの心理描写が切なくて、心臓がギュウギュウされました(*´ω`*)好きですっ
  • 2016-08-13│13:25 |
  • ぽてとたべたい&ぽてとあげたい URL│
  • [edit]
Re: きゅんきゅん。
二度目読み、ありがとうございます!
こうやって好きって言ってくださると、本当に励みになる~

> かばぷー様は、あまり切ない系は書かれないよーなことを、以前言われていたよーな?
そうなの!そして・・・なんて嬉しいお言葉。
切ない系は書きたいとは思うのだけれど、なかなかキュンキュンになりませぬ。だから、このパラレルで初めて出来たっていう感じでした。(でも今はまた書けない…泣)
胸キュン(←古っ!)を目指して私も日々精進。
だからね~ぽてとさんの描写は本当に真似したいほど、羨ましいのよ。
でも、かばぷーも頑張ります。
更に心臓ぎゅうぎゅう言わせちゃうのが目標です。




  • 2016-08-13│14:59 |
  • かばぷー URL│
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