雨降りに花開く恋心 5

「最上さん、おはよう。スマホ貸して?」
「お…はようございます。スマホ…ですか?」
「うん、貸して。」
「はぁ…」

ぽちぽちぽちぽち…

「あの後は、間に合ったみたいだね。」
「(!)…いや、まぁ…はい。」
「最上さん、誕生日はいつ?」
「12月25日ですけど?」
「ふーん、クリスマスなんだ。」
「はぁ…」
「はい、ここに指当てて。」
「指?」
「うん。指紋認証完了。次からはここに指当てると開くから。」
「…」
「あ、それと、俺の携帯とメールアドレスも登録しといたから。」


「はいぃ!?」

飲み会の翌日、バツが悪そうに携帯を差し出すと、
いきなり蓮に携帯をロックされたキョーコ。
くすくすと先輩アナウンサーは笑いながら、スタジオに入っていった。

「やっぱり…天然詐欺師~~!」


雨降りに花開く恋心 5



それからしばらくは、何事もなかったように日々はすぎていった。
ただ、キョーコは担当する番組がさらに増え、天気予報の他にも、スポーツ選手や芸能人への突撃レポートを担当するようになっていた。

同じ番組で一緒になるほかは、ほとんど会う事は無かったが、隙間の時間に少しずつ二人の会話は増えていた。
蓮はキョーコと話すたわいもない会話が楽しいと感じていたし、キョーコも蓮といると何かと勉強になった。

だが蓮は、自分の中で膨らみ始めた、キョーコに向かう気持ちをもてあましていた。

(はぁ…、一人で悶々とするとか、俺は高校生か…?)

休憩室で、コーヒーを口にする。
ぼうっと、窓の外を見ていると、急に声をかけられた。
松島部長と社だ。

「何だ、蓮。いい男が憂いに満ちて…絵になりすぎるぞ。」
「松島部長、すみません、ちょっと休憩中です。」
「いいさ。蓮、そういや、最近お前の色気が足りんのだが、女…ちゃんと抱いてるのか?」
「何ですか、藪から棒に…。」
「いや、最近は規則正しい生活みたいだからさ。若いのに枯れたのかと思って。」
「時間がないだけですよ。抱けるなら抱きたいです。健全な男子ですから。」
「あれ?キャビンアテンダントの美女は?」
「お、社、情報掴んでるな。CAなんていたのか。」
「社さんまで、やめてください。」
「ま、ほどほどにしてくれよ。部下のスキャンダルをニュースにするのは御免だからな。じゃ。」

よほど忙しいのだろう。からかうだけからかって、松島部長は休憩室を後にした。

「…で?最近どうなの?」
「社さん、下世話ですね。何でそんなに、詳しいんですか?」
「いや~、俺ってフリーになっても、芸能レポーターで生きていけると思わない?」
「そうかもしれませんね。」
「ついでに、キョーコちゃん情報だけどな。」
「…?」
「最近、東都グリフィンズの村雨泰来が、キョーコちゃんに積極的にアプローチしてるって知ってる?」
「村雨君が最上さんに…ですか。知りませんでした。何でそんな情報を俺に?」
「必要なかったか?余計なお世話だったら聞き流してくれ。」
「………。」
「まあ、俺の気のせいならいいけどな。さて、俺も休憩終わり!」

最近、自分の気持ちを自覚し始めただけに、否定できない。
人の地雷を踏むだけ踏んどいて、さらりと休憩室を出て行く社。
(まったく人の気も知らないで…。)

“ブブブ…ブブブ…”

胸元で着信を知らせる振動。
蓮は、その画面を見て小さく溜息をついてから、電話を取った。

「はい。」
『お久しぶり。さっきフライトから帰ったばかりなの、今晩どう?』
「申し訳ないけど、この先は、ずっと無理だな。」
『…仕事?…じゃあなさそうね。いい人でもできたの?』

しばし、答えを躊躇ってしまう。

「……まあ、そうだね。」
『分かったわ。そういう約束だったものね。それじゃぁ。(プツッ…)』

さっぱりしたものだ。
今まで、互いに後腐れない人間を選んできた。
それは相手の女性も同じだったようだ。
蓮は画面を続けて操作する。

“通話履歴ヲ削除シマスカ?”
(YES)
“連絡先ヲ削除シマスカ?”
(YES)

こんな操作も、この女性で最後だ。
画面を消して、ふーーーっと大きな溜息をついた。
携帯を顎に当てたまま、壁に背を預けると、視線はある一点に向かう。
(抱けるなら、抱きたい…か…。)
見上げるモニターの中で、最上キョーコが微笑んでいた。





東都グリフィンズの若手、村雨泰来がキョーコに熱烈アプローチしているという噂は本当らしかった。
キョーコがスポーツコーナーで取材したことがきっかけのようだ。
村雨は若手の中でもめきめき頭角を現していた。恵まれた体型にしっかり鍛えた身体。ヤンチャ系だが顔立ちも端正で、女性の人気も高い。
来期の年棒大幅アップは確実だろうと言われている有望株。
もちろん村雨の他にもキョーコに好感を寄せている野球選手やサッカー選手など、彼女に好意を寄せている男は少なくなかった。ただ、アプローチしてもキョーコからの反応が、全く別方向だったり、野球界であれば、村雨に牽制されたりしている者もあったようだ。

そんな彼が、シーズン中にもかかわらず、LMEに足を向けるという。
そして、彼の向かう先は最上キョーコ。

キョーコはそんな村雨の心理的動向は露知らず、のんきに局のカフェテリアで待ち合わせの約束をしたらしい。
蓮にまで漏れ聞こえてくる、周囲の興味本位な囁き。
自然とその待ち合わせの時間が気になって、蓮の眉間にしわが寄る。
苛立ちが隠せなくて、蓮はカフェテリアに足を向けた。



「村雨さん、お待たせしました。今日はどういったご用件で?」
「あ、キョーコちゃん、久しぶり。今日の仕事はもう終わったの?」
「収録とかはもうないんですけど、これからデータの解析がありますけど?」
「そう…なんだ。あの、今日これから、一緒に食事しない?」
「もしかして、わざわざ来てくださったのって、そのためですか?」
「うん、どうしても君に会いたくて。」
「シーズン中でお忙しいのに、わざわざすみません。…ですが、その、まだ終わっていなくて。申し訳ないですけど…。」

村雨は、さわやかにジャケットを着こなし、軽くお洒落をしてきている。
単純に食事の誘いだけではないと、普通だったら分かりそうなものだ。

「そうか、そうだよね…。じゃあ、ここで言うよ。」
「?」
「最上キョーコさん、俺と付き合ってくれませんか?もちろん、結婚も前提で。」

キョーコがピキリと固まった。

「え…?」
「うん。ずっとアプローチしてきたつもりだったんだけど、気付いてないよね。」
「あの…アプローチって…」

村雨が、照れ臭そうに頭を掻く。

「うん。やっぱり、そんな気はしてたんだ。だけど、最初に逢ったときから、一目惚れ?…って言うか、好きだなって思って。キョーコちゃんにどうしても伝えたくて、今日は来たんだ。どうかな?付き合ってもらえないかな?」
「あの…。」

打ち合わせもできるように広めに取った空間。
人の少ない時間帯だが、衆人環視の中での村雨の公開告白は、流石に注目を浴びる。
今、ここですぐに断ると、村雨の面子にも関わるだろう。

「村雨さん…、ちょっと、別の場所でお話ししても?」

ぱっと村雨の表情が明るくなる。

「いいよ!今からでも食事に行く?」
「いえ!…あの、こちらへ…。」

ホールに程近い柱の影に村雨を連れて行くと、キョーコは切り出した。

「村雨さんのお気持ちはすごく嬉しいです。ですが…」
「だめなの?」
「申し訳ないのですが、今、男性とのお付き合いとか全く考えていません。」
「誰か他に好きな人がいるの?」

ふっとキョーコの脳裏に、ある人物の面影がよぎる。

「いえ…そうではない…です。」
「じゃあ、お試しでもいい。ちょっとだけ、付き合ってみるって言うのは?」
「いえ、それもできません。そんな軽々しい事は…。本当に、申し訳ありません。」

村雨は、深く息を吐いた。

「じゃあ、友達ではいられる?それもだめ?」
「いえ、それは…。」
「なら、しばらく友達でいて欲しい。俺は、簡単にキョーコちゃんのことを諦められない。」

強い村雨の意志を感じる。それに答えられずに、キョーコは俯いてしまった。

「キョーコちゃん、そんなに深刻に考えないで。答えも今すぐじゃなくていいから。」
「すみません…。」

真剣に告白してくれているだろう村雨に、返す言葉がなくて、謝ることしかできない。

「キョーコちゃん、握手してくれる?」

すっと、村雨が右手を差し出した。

「今回は…今すぐには彼女になってもらうのは無理みたいだけど、握手はいいよね。」
「……。」

おずおずと、キョーコは手を差し出した。
その瞬間、村雨がキョーコの手を引いて、突然抱きしめた。

(!)

「ごめん、少しだけ…君が、本当に好きなんだ…。」

抱きしめられた瞬間、キョーコの頭にはっきりとあの男の顔が浮かんだ。

「いやっ!」

思わず、大きな体を押しのけてしまった。
驚きと後悔の入り混じった、傷ついた表情の村雨が見える。
キョーコも、咄嗟にしてしまった自分の行為を一瞬悔やむ。
だが、キョーコは、はっきりと自覚した想いを、押えることはできなかった。

「すみません、失礼します!」

狼狽える村雨を残し、非常階段の奥へと走って消えた。

(違う…、自分の求めている人は…、この男性ではない…。)

消そうと思っても、次々に脳裏に浮かぶ、あの人。

自分を呼ぶ声も…

向けられる眼差しも…

自分を包み込む熱も…

仄かに香るにおいも…
    
    ―――すべてが違う。


屋上のドアを開け、外に飛び出す。
降りしきる雨の中、キョーコは息を荒げて、夜空を見上げた。
つう…と、涙が頬を伝う。
もう、誤魔化すことは出来くて、気持ちが溢れ出る。

(敦賀さん…が……好き。)


けれど、多くを望んではいけない。
あの人は自分には手の届かない人。
でも、たった一度、一度だけでいい。
もしも、叶うなら…あの人に抱きしめられたい。いま、はっきりとそれを望む自分がいる。それは、きっと叶うはずもない、儚い夢だけれど。
だが、もし本当に叶うなら、一度だけだとお願いしたなら、あの人は受け入れてくれるだろうか?





社屋の屋上のドアを開けると、ずぶぬれのまま、雨の降る暗い空を見上げるキョーコがそこにいた。
蓮の存在に気付いたように、ゆっくりと振り返る。

「敦賀さん…」

思いつめたような顔で、呟く。

「…抱いて…くださいませんか…。」

目元を濡らす雫は、雨だろうか…それとも?

蓮はキョーコに降る雨を遮るように、その濡れた身体を引き寄せ、ぎゅっと強く肩を抱いた。


「無防備すぎるよ…。」




(6)に続く
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