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雨降りに花開く恋心 7

『まず自分の気持ちを伝えろ』

社に言われた言葉が蓮の頭をぐるぐる回る。
それさえ出来ていなかった自分に愕然とする。

そう、未だ伝えてはいないのだ。

キョーコに自分の気持ちを何一つ。

“---伝えたい。”

そして、強く願うことはたった一つ。

“彼女を…最上キョーコを手に入れる。”



雨降りに花開く恋心 7



日々の業務は流れるように過ぎ、蓮とキョーコは同じ番組の収録以外は、挨拶さえ交わせない日が続いていた。


『今日は全国的に猛暑日となっています。熱中症が心配な1日となりそうです。それでは、西日本のお天気から、見てみましょう…。』


画面から聞こえる、コロコロと耳元に心地よい声。
笑顔にふわりと気持ちが上がる。

あれから随分と時間が経った。
電話をしても、メールをしても、会おうという約束はさらりとかわされる。
これでは、取り付く島もない。
村雨が業を煮やしたはずだ。

会いたくて堪らないのに、会う事すらままならない。
今は蓮が同じように焦り、そして苛立つ。

キョーコはこの数ヶ月でテレビへの露出が増え続け、抱える仕事量は以前よりずっと多い。
幸い、鈍い彼女のことだから、他の男のアプローチには、気付かないかもしれない。だが、もう悠長な事は言っていられなくなっていた。
完全に花開いた蓮の気持ちを彼女に受け入れて貰えなければ、自分達は何も始まっていない状況と同じなのだ。


折りしも、アナウンス部のホワイトボードに見つけることが出来たのは、キョーコの明日の“OFF”の文字。
そして、偶然に重なる、収録合い間のわずか1時間の空白。

蓮は収録帰りのキョーコを捕まえて、会議室に押し込んだ。


「つっ…敦賀さん!?」
「し、黙ってて…今、充電中…。」

蓮がいきなりキョーコをぎゅうぎゅうに抱きしめたのだ。
振り払おうにも、大きな身体に抱きすくめられると、動くことすら出来ない。
キョーコの鼓動が一気に跳ね上がる。

ずっと蓮からの連絡は、社交辞令だと自分に言い聞かせていたのに、間近に蓮のいい匂いがして、嬉しくて視界が揺れる。


「何で、ちゃんと逢ってくれないの?」
「…へ?何でって…。」
「俺は君にずっとこうしたかった。」
「それは…、その…。」

蓮は、はたと気付く。
(また、自分の気持ちを伝えてない。)

「最上さん…、いまさらだけど、俺の気持ちは、ちゃんと分かっているよね?」
「気持ちといいますと…?」
「俺が君を好きだって言うこと。」

キョーコが一瞬にしてピキリと固まる。

(また、あの時の二の舞か?)
蓮の頭に村雨を突き飛ばしたキョーコの映像が蘇る。
でも、やめるわけにはいかない。
今日こそは、伝えたい…と、気持ちが逸る。

「まさか、気付いてなかった?」
「いや、あの…。気の迷いかな…と。」
「気の迷い…って。最上さん…。」

少し息を整える。

「俺は君が好きだよ。偶然、君を手に入れることが出来て舞い上がったくらいに。」
「嘘…ですよね。」
「嘘はついてない。何?俺が、好きでもない女の子を抱いたとでも?」

キョーコが若干渋い顔をする。

「はあ…。あり得なくは無いかと…。」

「………。まあ、過去に覚えが無いわけではないから、否定できません。」
「ほらね、だって敦賀さん、天然タラシでスケコマシな方じゃないですか。」
「何それ?本気で言ってたの?」
「違うんですか?」

(なんだそれ…。すごく落ち込むんですけど…。)
社が聞くより先に気持ちを伝えろって言う筈だ。
こんな風に思ってたんだと、改めて蓮は自分のしてきたことを後悔する。
(自業自得とは言うけれど、こんな時に発動しなくても…)
だが、ここで諦めるわけにもいかない。

「あのね、最上さん。正直に言う。確かに俺は君の感覚で言うと、タラシでスケコマシかもしれない。だけど、次の約束を取り付けようとしたり、逢いたくて自分から電話やメールをした事は、今までに…いや、君意外には、一度もないんだ。」
「一度…も?本当に?むー…にわかには信じられません。」
「もう…何でそんな…つれない。」
「うーむ…敦賀さんの人徳?」
「それは人徳とは言わないの。どうしたら、信じてくれるの?」
「そんな事分かりません。あの…いつまで私はこの体勢でいればいいのですか?」
「君が信じてくれるまで。」
「そんな無茶な…。」
「無茶なの?嫌なら…逃げて」

さらに抱き締める力を強くすると、キョーコの身体が一瞬強張る。

「……敦賀さんは、意地悪です。」
「最上さんの方が意地悪だよ。」
「いいえ、敦賀さんの方が意地悪…。私に逃げろって言うんですか?」

(もし…嫌なら。)
だが、そんな事は1ミリも望んでない。

「そんなの…無理…。」

蓮の瞳が、ハッと見開く。

「…一度きりで諦めようと思ってたのに…。」

キョーコの声が次第に小さくなる。

「欲張ると駄目なのに…。無防備な後輩を諌めただけで良かったのに…。」

キョーコの細い肩が、僅かに震える。
蓮はその肩を優しく撫でた。

「最上さん…。突き飛ばされない俺は、自信を持って良いの?」

キョーコがハッと顔を上げた。

「見て…いらしたんですか?」

「見ていた。いても立ってもいられなくて。格好悪いよ、覗き見なんて。」
「敦賀さんが、覗き見…。」
「そう。焦って、余裕も無くて、こんな所に連れ込んで、格好悪すぎ。責任取って。」
「責任…って、私が取るんですか?」
「そう、責任。君が取るの。」
「取り方が、分かりません。」
「簡単な事だよ。こんな風に格好悪い俺の側にいて。この先も君にしか見せないから。俺のこと好きって言って。」

俺の口は何て事を言うのか?
自分でも、恥ずかしくて無茶苦茶だと思う。
だがもう、なり振りなんか、どうでもいい。
キョーコの頬を撫で、じっと見つめた。

「俺は最上さんが好きだ。」


蓮がはっきりと告げた言葉。
それを告げた蓮は、今までに見たどの表情よりも真剣で、そして、どの表情よりも熱を帯びて見える。
こんなに熱を帯びた表情をキョーコは知らない。
澄んだ瞳に吸い込まれそうになる。
キョーコの胸の奥に、何かが膨らんで、苦しくて、うまく息が出来ない。

「好きだよ…。」

優しい眼差しをした、蓮の顔がキョーコに近づき
蓮の唇が、やさしくキョーコに重なった。
確かめるように深くなっていくそのキスに、たどたどしく答える唇は、まるで蓮の欲しい答えを紡いでいるかのようだ。
ぎゅっと蓮の服が握られたとき、蓮は理性を手繰り寄せ、
もう一度、静かにキョーコに問うた。

「君が好きだよ。返事は?」




「…好き…です。」

キョーコの大きな瞳が潤み、蓮を見つめる。

蓮はキョーコをもう一度、ぎゅううと抱き締め、ホッと息を吐いた。

「やっと通じた…。凄く…嬉しい…。」

やっと言えた自分の思い。
やっと手に入れた、欲しかった言葉。

“思いを伝える”

簡単に思えることが、こんなに苦しいことだとはじめて知った。
蓮の心を支配する複雑な気持ち。
じんわりと胸に広がる幸福感。
ようやくここから始まるんだという安堵。


「最上さん、これから、君とずっとしたかった事を始めたいんだ。」
「?…したかった事って、何ですか?」
「先ずは普通に食事したり、デートしたり…。今日は取り敢えず、君と手を繋いで歩きたい。」
「デートしても…。良いんですか?」
「俺がしたいの。君と。」

キョーコが蓮を見上げる。

「私も、してみたいです。」
「うん、しよう。最上さん、今日の夕方からの天気は?」

キョーコはしばし考えると、笑って蓮に告げた。

「雨の匂いがします。今日はこの後、雨ですよ?」

「好都合だよ。上出来だ。」

蓮はとびきりの笑顔をキョーコへ向けた。
プシュ~と、音がしそうな程に真っ赤なキョーコ。
恥ずかしそうな様子に、頬が緩む。

キョーコと初めて、口喧嘩した時の事が思い出される。

(雨…俺たちには相応しいね)


君の事を思う時には、何時も雨降り。
君への思いが花開く。
心に水を与えてくれた天の恵みに感謝しよう。

そして雨降りには、君と一つの傘で寄り添って歩きたいな。


  ーーーずっとね。




(完)




格好いい蓮さんが、書きたかったのに…、
結局、格好悪い蓮さんに~~。(>人<;)
今回の連載中、結構蓮さんに溜め息を吐かせました。何回だ?
そして、最初は5話の流れだったけど、あれよあれよと長くなってしまいました。パラレルって、楽しいのね〜。また、続きを書きたいです。結構端折ったから、おまけ話も書きたいな。1話をアップした時から、今までになくいいペースで拍手して下さって、凄く、凄~く嬉しくて、頑張りました。(≧∇≦)
雨、雨、のお話。村雨君もそういえば、雨。取り敢えず、妄想放出完了します。
ありがとうございました!\(^o^)/
(追記)
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モチベーションに繋がるので、是非ともお願いします。
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はふぅ〰(*´-`)
一貫して、天気、特に雨が使われていますよね。文章から匂いとか音とか、空気感が伝わってきて、しっとりした感じも好きです。
お話のしめ方も、綺麗ですし。

蓮さん、かっこ悪いですかね。む?かっこ悪いのかな?そうか、それが萌えでもあるのか(*´ω`*)
なりふり構わずなところが、好きなだから必死って感じで、気持ちがちゃんと表から見えるから、キョーコちゃんも安心して信用できたのかなって思います。
そうでないと、正直、アナウンサーホープ蓮さんは、やっぱりキョーコちゃんからは信用しがたいですよね。遊ばれてる感満載( ̄▽ ̄;)
キョーコちゃんに蓮さんの思いが伝わってくれてよかったです(*´∇`*)
心臓ぢくぢくして楽しかったです!また読みます_(。。)
  • 2016-08-13│13:57 |
  • ぽてとたべたい&ぽてとあげたい URL│
  • [edit]
Re: はふぅ〰(*´-`)
このお話は、その通り一貫して雨に拘りました。
キョコさんが天気予報士なので、どうしても雨とリンクさせたかったのです。

うふふふ・・・いい男の溜息・・・ちょいといい感じですよね?
今更ながら、このなりふり構わないアナウンサー君は、気の毒だと思います。
焦って格好悪い俺の責任取れなんて、酷いものでしょう?
でも、本来恋愛なんて無様で格好悪いものなのかもしれません。
好きな人に気持ちを伝えるのに、格好良くしてばっかりいられるかい!?
一生に一度くらいはそんな気持ちになって、初めて恋愛が語れると思うので・・・。(照)
ちょっとそんな気持ちも込めたりしています。

心臓じくじく・・・凄い!何ていい表現でしょう。
↑これ、気に入ってしまいました。
  • 2016-08-13│15:14 |
  • かばぷー URL│
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