憂鬱な彼と曇り空 3

タクシーが深夜のマンションに滑り込み、そこに降り立った、長身の男の影。

見上げた部屋に明かりがついていることを確認して、蓮は微笑んだ。



憂鬱な彼と曇り空  3



(もしかしたら、疲れて寝ているかもしれない…。)

キョーコを驚かせたくなくて、予備のカードキーで玄関ドアをそっと開けた。
ゆっくりとリビングの扉を開けると、ソファの肘掛に頭を預けて、キョーコが眠っていた。
無理もない。
今朝も4時には出勤しているはずだ。

センターテーブルの上には、美味しそうなおかずが数品並んでいる。
キッチンには鍋もかかっており、きっと温めなおす料理が入っているのだろう。
テーブルの上の肉巻きをつまんで口に入れた。

「…旨い…。」

「…ん、…敦賀さん、お帰りなさい…。」
「ただいま。キョーコ。遅くなってごめん、寝てていいよ。」
「いえ、すぐに準備しますね。」

赤い目をして起き上がろうとするキョーコを抱きしめる。

「ちょ…、ダメですよ?ご飯は…。」
「ちゃんと食べる…。でも、先に補給させて。」
「ふっ…、ン…」

昼間よりもずっと深いキスをした。
もうそれだけで空腹など忘れ、ずっと満たされなかったものが、少しずつ補給されていくみたいだと蓮は思った。

「だめ…、ご飯、食べましょう?」
「ご飯より、キョーコが食べ…「だめです!ご飯が先です!!!」…ハイ。」

はだけた胸元を押さえて、キョーコがぐいんと蓮を押しのけた。

「もうっ!ご飯は大事なんですから!ただでさえ敦賀さんは食が細いでしょう?いつもコンビニのおにぎりとか、何とかインゼリーとか、そういったものしか召し上がってないじゃないですか!?」
「そんなことは、ないと思うけど…。」
「いーえ!とにかく、先に召し上がってください!今日はちゃんと心積もりして来てますから、大丈夫です!」

「―――え?」

蓮が一瞬固まって、目線を送ると、キョーコが赤くなって俯く。

「ちゃんとそのつもりで、お泊りセットを持って来ました…よ?だから、先にご飯を食べちゃいましょう?お腹が空きました。」

(何だこれ…、どうしよう、嬉しすぎる。)

蓮はどんな顔をしたらいいのか分からず、顔半分を大きな手で隠したまま、天井を見上げた。
キョーコも照れくさそうに笑いながら、キッチンへと向かった。

「ほとんどは家で作って持ってきたのですが、敦賀さんのお宅に、お鍋があって良かったです。もしかしたら、ないんじゃないかと思って、心配でした。」
「まあ、インスタントラーメンを作るくらいは出来るよ。」
「ですよね。…って、インスタントラーメンを召し上がるんですか?」
「そりゃ食べるよ。そんなに毎日おにぎりばかりじゃないから。」
「嘘はダメです!その割には冷蔵庫には何もありませんでした!」

キョーコがぷりぷりと怒り始めた。

「使い勝手がよさそうなのに、調味料も一切ないので、ほんとに困ったんですから。菜箸もお玉もなくて、びっくりしたんですよ。いったい何を召し上がってるんですか?外食ばかりは偏ります!」
「だから、俺が行こうか?って言ったのに…。」
「いや、まあ…そうなんですけど…。はい、召し上がれ。」

キョーコがよそってくれた、ほかほかのご飯とお味噌汁。
目にも美しい野菜の肉巻き、きんぴらごぼう、ほうれん草の胡麻和え…他にも冷めても大丈夫そうなおかずたちを前に、なんだか嬉しい。

「凄く美味しい…。」
「お野菜ばかりの田舎料理でごめんなさい。炊飯器はあった気がしたんですけど、他に何があるか分からずに伺ったので、冷めても良いようなものを作ってきたら、こんなふうになっちゃいました。」
「いや、野菜不足は感じていたから、嬉しいよ。」
「こちらのキッチンの様子が大体把握できたので、次はあったかい物を準備しますね。」

蓮の表情が一瞬固まる。
(次がある…?)
その言葉が頭をぐるぐる回る。あまりに嬉しくて、どんな顔をしたらいいか分からなくて、戸惑っていると、キョーコが声をかけた。

「ダメ…ですか?迷惑でした?」
「いや!ごめん。そうじゃなくて!」
「時々、敦賀さんがお困りのような感じがして…。」
「や…、違うんだ。嬉しくて…、次があると思ったら嬉しすぎて、どう反応していいか、分からなくて…。その…実はこれ、社さんにも分かりにくいから、やめろって言われてる。」

蓮の顔が少しずつ赤くなっていくのが分かる。

「社さんに?」
「…その…、表現が素直じゃないらしくて、俺のは分かりづらいって。」
「…ぷふっ!可笑しい!分かりづらい…確かに!」
「そんなに分かりづらい?」

キョーコは、ひーひー言いながら、目に涙を溜めて笑っている。

「やっ、社さんに言われたことがあるんです。『蓮は嬉しいときほど無表情になる』って。『だけど免疫がないから、テレには弱くてすぐに赤くなるんだ』って!分かりづらいけど、本当にその通りで…ぷくくくく…。」
「何気に傷つくんですけど…?」
「す…すみません。食べちゃいましょう?くくく…。」

二人は、笑いながら遅い夕食を食べた。
後片付けをキョーコに任せている間に、浴槽に湯を張る。
まるで、新婚生活のようで、蓮の心は弾んだ。

自分の生活するこの空間に、初めて足を踏み入れることになった、ただ一人の女性。
キョーコの存在が心地よくて、二人の未来を想像してみる。

洗い物を済ませたキョーコが、リビングに戻ってきた。

「敦賀さん、お疲れではないですか?お風呂、お先にどうぞ。」

キョーコがあまりに可愛らしく、にこにことお風呂を勧めるので、蓮は後ろから抱きしめて、いつぞやの時のように囁いてみた。

「一緒に入る?」

蓮に背を向けたキョーコの動きがぴたっと止まる。
そのうち、ぶわわわゎゎあ~っと首筋から耳の後ろまで真っ赤になり、蓮はその反応に目を見張った。

「…はい…。」

背を向けたまま、恥ずかしそうに頷くキョーコの姿がまた嬉しくて…、「きゃっ」と小さく驚くキョーコを抱えあげて、浴室へと運んだ。


淡い湯気の中で見るキョーコの肌は白くて、触れると柔らかくて、傍に居るだけで頭の芯が蕩けそうだ。
まだ、数えるほどしか肌を合わせていないキョーコの反応はぎこちない。
だが、蓮の求めにたどたどしく応える身体、控えめに漏れる吐息、潤んだ瞳と甘いにおいに、飢えた獣が頭を擡げる。腹の底から欲望が泡立ち、蓮の“理性”はあっけなく崩壊した。

「ごめん…、今日は、手加減…できそうにない…。」



―― その夜は、愛し合うというより、キョーコを貪り尽くすように抱いた。




(4に続く)



甘めの味付けにして見ました。
これ、限定にしなくて大丈夫?
ちょっとだけ不安。
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コメント

待ってましたっ
う〰ん、やっぱり、ちゃんとお泊まりセット持参とか。「お姉さん」なキョーコちゃんが素敵で安心します。このキョーコちゃん、私、好きだなあ。
そして、美味しそうな夕食(*´-`)私も御相伴に与りたい(’-’*)♪

二人がラブラブできてホッとしました(*´∇`*)甘めの味付け、すごく嬉しかったですっ(*´∀`)♪
  • 2016-08-25│20:11 |
  • ぽてとたべたい&ぽてとあげたい URL│
  • [edit]
Re: 待ってましたっ
> ぽてとたべたい&ぽてとあげたい 様

このキョコさん好き?うふ…私も好き~~。
ちゃんとしたところのお嬢さん。って感じで、高感度高めのアナウンサーですから。

曇天…といいながら、前半甘め。後半は…ちょっと渋め。
でもやっぱりハピエンなの。


  • 2016-08-25│20:22 |
  • かばぷー URL│
  • [edit]

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