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憂鬱な彼と曇り空 4


(暖かい…)

まどろみのなかで、ほわっとした暖かさに浸っていると、不意に温もりが離れて、キョーコはうっすらと目を開けた。




憂鬱な彼と曇り空 4




「ごめん。起こした?」

「今…、何時ですか?」

「9時だよ。そろそろ出なくちゃ。」

「朝ごはんの準備…」

「…ぷぷっ」

蓮が堪えきれない様に噴き出した。

「本当に君は…、心配してくれてありがとう。俺は大丈夫。それより、もう少し寝ておいで?今日はつらいと思うから。」

確かに…。

身体全体が今までになく、ズドーンと重い。
特に下半身がだるくて、視界が黄色い。
キョーコは“ぽふん”と枕に顔をうずめた。
その姿を見て、蓮がくすくすと笑いながら、シャツを羽織る。

「俺が帰るまで、待っててくれる?」
「んと…、今日はアパートに帰ろうと思うんですけど。」
「分かった。少しだけ早く帰れると思うから、ここにいて。そうしたら送っていくから。」
「でも…。」
「自分で言うのもアレだけど、歩けないと思うよ?」
「む~~///、破廉恥です~。」
「ごめんね?」

全く悪びれてない様子の蓮が楽しそうに眉を下げる。

「荷物もあるんだから、こういうときは甘えて。」
「…はぁ。お言葉に甘えます。」

素直なキョーコに安心したのか、てきぱきと身支度を整えていく。
寝室を出て再び戻ってきた時には、凛々しい仕事モードに入っていた。

「家の中は好き勝手に使っていいから。遠慮しないで。いってきます。」
「いってらっしゃい。」

キョーコの額に口付けたあと、蕩けるような笑みを残して、愛しい恋人は部屋を後にした。





結局その日は、身体のだるさに耐え切れず、再び睡魔も襲ってきて、気がついたら昼を越えていた。
目が覚めた後も足はガクガクするし、腰も痛くて、お風呂を借りた後も、しばらくはベッドで過ごした。
どうして蓮は、ああも涼しい顔をしていられるのだろうと、恨めしくなる。
自分の恥ずかしい姿ばかりが思い出されて、頭が沸騰しそうだった。

タッパーにつめてきた料理も少しは残っていたが、食材を買いに行く気力もなく、どうしようかと考えていたところへ、蓮が8時過ぎに帰宅した。

「ただいま」という蓮を出迎えに、玄関によろよろと歩いてくるキョーコを見て、蓮が笑う。
蓮はキョーコの痛みを予想していたかのように、お惣菜を調達していた。

その他には、ささやかとは言いがたいプレゼント。
キョーコはそれを見て、目を見張った。

「調理セット!?どうして?」
「だって、ラーメン用の鍋だけじゃ限界があるでしょ?菜箸もお玉もないって昨日…。それじゃ足りない?」
「足りすぎます!どこのプロですか?こんなプロ仕様の調理器具なんて。」

大、中の鍋に、ミルクパン、フライパンとソースパン、ザルにボウルにターナーやお玉など、つや消しステンレスとシルエットが美しいと評判のシリーズだ。

「そう?ショップの人に選んでもらったから、よく分からなくて…。じゃ、これからしっかり腕をふるってもらおうかな。」
「お任せください!!…って、そんなにしょっちゅう伺ってもいいのでしょうか?」
「良いに決まってる。食器と調味料は、今度一緒に買いにいこう。」

にこにこしながらお惣菜より、残り物のキョーコのおかずを口に運ぶ蓮を見て、キョーコはなんだか胸がほっこりした。

「明日から日勤だね。少しだけでも一緒にいる時間が増えるといいな。」

そしてまた嬉しいことを言う、美貌の彼。
けれど、キョーコは昨日から頭の隅でくすぶっている不安を、口に出してみた。

「敦賀さん…?」
「ん?」
「あの…昨日のメモとか、嬉しいんですけど、社内でばれちゃったりすると、都合が悪くないですか?」
「何で?」
「ほら…、敦賀さんは人気者ですし、敦賀さんとお付き合いしているのが私だと分かると、敦賀さんにご迷惑がかかりそうで…。」
「迷惑なんて、考えたことないな。」
「あと…我が社は社内恋愛禁止ではなかったかと…。」

「(ゴキュ…)よく覚えてたね、そんな条項。流石司法有資格者、書類に厳しい。」
「冗談ではなくて、敦賀さんにご迷惑がかかるのが、一番嫌です。」
「君は?」
「私?」
「君は、俺との事、隠したいの?」
「そうじゃなくて、そうじゃないんですけど…上手く言えません。」
「そう…か。確かに無用心すぎたかな。でもごめん、LIN○とかは無理。」
「私もです。信用できなくて。」
「そうなると、メールか電話だけどね。」
「はあ…。」
「今までどおり?」
「そうですね。」
「じゃ、これ…渡しておく。」

蓮から渡されたのは、昨日返したはずのカードキー。

「局ではなかなか会えないから、キョーコが休みの前日には、泊まりに来てくれると嬉しい。時間はできるだけ合わせる。調理器具、使って欲しいな。」
「はい…。」

キョーコが頬を染めて、嬉しそうに頷いた。

「そういえば、キョーコは日中困ったことはなかった?」
「困ったことは全くなくて!ここの設備って凄いですよね。お風呂も自動で溜まりますし。あわてて止めに行かなくても良くて、びっくりしました。」
「便利?」
「便利です!便利です!もうびっくり!」
「じゃあ、うちに越してくる?」
「……へ?」
「いや、だから、お風呂もキッチンも気に入ったなら、うちにおいで。ベッドも布団も人肌もあるよ。結構、局にも近いし?いい物件でしょ?」
「や…、その…。」
「うん?一緒に住めば家賃も要らないし。社内恋愛とか人目なんか気にせず、いつでもキョーコに会える。」
「ややや…そそそそそ…それって…その…どどど、同居ってことですか?。」
「う~~ん、同居でも同棲でもなくて、プロポーズ。」
「プ…ププププ、プププププ!プロッ…。」
「あっはっは!キョーコ、何回プープー言ってるの?噛みすぎだよ。おならにしちゃだめ。」

おなかを抱えて蓮が笑い出す。

「すみませんね。噛んでばかりで。どうせ私はペーペーで下手ですよ!」

キョーコが頬をぷうっと膨らませた。

「下手じゃないけど、面白すぎ。いや、可愛くていいけど。」
「だいたいねぇ、敦賀さんが突然変な事を言うからびっくりしちゃったんです。」
「俺にとっては、全然、突然でも変なことでもないよ。前からそう思ってたから…。」

蓮は真剣にキョーコを見た。

「だめ?」

キョーコはしばし逡巡すると、言いにくそうに口を開いた。

「いえ…、嬉しいです。凄く嬉しいんですけど、正直言うと、もうちょっと早いかなと思っています。敦賀さんは、今とてもお忙しいですし、私はまだ入社してそんなに時間がたっていませんし…。すみません。」
「そ…か…。そうだね。ちょっと早すぎた。」

少し寂しそうな表情をして、蓮はキョーコの手を握った。

「でも、君と一緒に生活したいと思ってるのは本当。ずっと俺のそばにいて欲しい。そう思ってるから、忘れないで。すぐには無理でも、この先、君と結婚したいと思ってる。」
「はい…。凄く…凄く…嬉しい。」



女性のにおいのしない部屋。
入った時にそれが分かった。キッチンは誰も使っていないのだと。
しばらく使っていないレベルではない気がしていた。
調味料は一切なく、冷蔵庫には水とアルコールだけ。
いくら、ハウスキーピングが入っているにしても、キッチンにだけは人の気配が全くない。
そのキッチンを、蓮は自分のために調理器具を準備して、自由に使っていいという。
そして、思いがけないプロポーズの言葉。
なんて幸せなんだろうとキョーコは思った。


だが、折角揃えた調理器具が使われることも、調味料を買いに行く約束も、しばらく叶うことは無かった。



(5に続く)


思わせぶりな切り方ですみません。

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Comment

らぶ、大人
思わせぶりな切り方、超好きです!ハラハラドキドキ、でもある意味わくわくしますよね(*´∇`*)!

う〰ん、ほんっとにしつこいですけど、お姉さんキョーコさん好きですわ〰(*´ω`*)

先に先に進んでいきたい、将来ごと包みこみたいってドンドン走っていこうとする蓮さんは、原作もですけど、気持ちの大きさと年齢差と経験値の違いですかね。これまた私の萌えポイントですっ(///∇///)
  • 2016-08-25│20:23 |
  • ぽてとたべたい&ぽてとあげたい URL│
  • [edit]
Re: らぶ、大人
> ぽてとたべたい&ぽてとあげたい 様

ついうっかり…本当にうっかりぽろりとプロポーズする人が書きたかったのね。
思わず駄々漏れたーみたいな感じに、一人萌え…

結局、私、自己満足のために妄想ぶっ放しておりますゆえの所業です。
そんな作品の数々を気に入ってくださって何よりです。


  • 2016-08-26│18:50 |
  • かばぷー URL│
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