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憂鬱な彼と曇り空 5

マジックが点灯していた東都グリフィンズは、順調にその数字を減らしていき、その年のリーグ優勝を手に入れた。
実はLMEテレビ局と、東都グリフィンズは関連企業であり、LMEテレビが祝勝インタビューを独占する。
そして、蓮のニュース番組で若手の筆頭、村雨泰来を含む主要メンバーをゲストに迎える事となってしまったのだ。

いまだに村雨がキョーコに好意を寄せていると聞いてはいても、蓮はプロフェッショナルだ。

憎憎しい感情を抑え、ポーカーフェイスでインタビュー。
その時間は無事に終わることが出来た。





憂鬱な彼と曇り空 5




『―――それではグリフィンズの皆さん。日本シリーズでのご活躍を期待しています。本日は、ありがとうございました。』

インタビュー終了と同時に、拍手でエンディング。

――OKだ。

再び、ゲストの野球選手に声をかけて、スタジオから送り出そうとした時だった。

「敦賀さん。」

突然、村雨に声をかけられた。

「…ああ、村雨さん、本日はありがとうございました。」

先ほどまでの笑顔を貼り付けながら、会釈をする。

「私に、何か?」
「ええ、あなたと是非、話がしたいと思っていました。もしよろしければ、この後、お時間ありますか?」
「この後…でしょうか?どのようなご用件でしょう?短時間で終わりそうなら、こちらで伺いますが?」
「いえ…、最上さんのことで…、といったらお付き合いいただけますか?」

すうっと、蓮の周囲の温度が下がる気がした。

「そうですね。時間が必要でしたら、30分ほど待っていただけますか?」
「ええ…。待ちますよ。Wホテルのバーラウンジなんてどうでしょう?」
「そうですね。ここからも近いですし、伺いましょう。」

表面上はにこやかな笑顔を貼り付けて、蓮はその場を離れた。

✳︎
✳︎

Wホテル ラウンジ

「待ち合わせなのですが。」
「はい、しばらくお待ちください。ご案内いたします。」

見渡すと、眼下に夜景が見渡せるラウンジの一番奥まった席で、村雨が手を上げた。

「お待たせしてすみません。大変遅くなりました。」
「いえ、お忙しいのは重々承知していますので…。どうぞ。何か飲まれますか?」
「ええ、バーボンをロックで。」

注文した品が届くまで、沈黙の時間が流れる。
アルコールを一口含んだ時、村雨が痺れを切らしたように聞いてきた。

「俺は…キョーコちゃんのことが好きです。あなたは彼女のことをどう思ってるんですか。」

蓮は、ちらりと視線を向けた。

「………いきなり直球ですね。」

「ええ、今日の本題はそこですから。」
「なぜ、そのようなお話を私に?」
「筋違いでしたか?俺は少なくともキョーコちゃんに対して、抱いている思いを隠したくはないので…。あなたがもし、キョーコちゃんと何かあるなら、直接、聞いたほうが早いかと思いまして。」

傾けたグラスの氷がカランと高い音を立てて回る。

「そうですか。それなら話は早い。…彼女に、近づかないで頂きたい。」

「ふうん。それ…どういう意味ですか?」
「こんな所に呼び出した位だ。あなたのほうがよくご存知でしょう。」

村雨は、少し面喰らった様に次の言葉を紡いだ。

「…遊びかと思っていました。」
「心外ですね。そんな風に見えますか?」
「見えますね。人気アナウンサーの中でも、あなたは今、一番人気で、女性なんか選り取り見取りだ。」

「それは、お互い様でしょう。」
「そうでしょうか?少なくとも俺は彼女を我慢させたくはありません。彼女との時間を沢山持って、大事にしたいと思っています。あなたには、それが、できますか?」

そんなことは言われなくても、キョーコを大切にしたい気持ちは、自分も同じだと思う。
だが現実、時間が取れていない今の状況では、大事にしているとはいえないのかもしれないと、不安にもなる。
さすがは、駆け引き上手と言うべきか。

「俺は…自分が欲しいと思ったものは欲しい。誰のものであっても、まして大事にされていないなら、奪い取りたいと思っています。」
「…物騒ですね。」
「俺がキョーコちゃんに告白したことは、ご存知ですよね。あの時、あなたは近くで見ていた。」
「流石、野球選手だ、視野が広い。」

周囲に気を配りながら外堀を埋めるつもりだったか…と内心毒付きながら、村雨の行動を反芻する。

「その後、あなたは追っていかれた。彼女を…。」
「………。」

「何がありました?」

残りの酒を、一気に口に流しこんだ。

「村雨さん、それを、あなたにお話しする義務はない。そして、あなたにはそれを聞く権利もない。違いますか?」
「…悔しいけれど、その通りです。ですが…」
「まだ何か?」
「いえ…、ただ、日本シリーズが終わったら…彼女のための時間がある俺は有利なのかなと思ってますよ。彼女は付き合っている男性は、いないと言い張っているので…。」

蓮の眉がピクリと動く。ポーカーフェイスは崩さないまでも、初めての反応だ。

「彼女、何か守りたいものがあるんでしょうね。」

しばらくの沈黙が訪れた。

「…お話は以上ですか?」

すっとした深い色をした眼差しで、村雨を見る。
村雨はその視線に射すくめられたように動けなくなった。

(これ…を、女性が見たら…、堕ちる…。)

憂いを帯びたような、それでいて挑戦的な瞳。
男の自分でも吸い寄せられそうになるのだ。この視線を見たら、どんな女性でも落ちるだろうと、村雨は思った。

次の瞬間、ビリッとするような目の色に変わる。
(なんだ!!?こんな一瞬で、変わるなんて…。)
その目線の鋭さに、ゾクゾクと背筋に恐怖が走る。
バッターボックスに相手に相手が立つときでも、こんな恐怖感を与えてくるのは、ごく僅かだ。

背筋にイヤな汗が伝う。

「村雨さん、お話が以上でしたら、私はこれで失礼します。」

すっと立ち上がる蓮の姿に、村雨は自分の心の体勢を立て直した。
無言で蓮を見返すが、先ほどの感情のある目線はもう送られなかった。

「では…。」

氷だけになったグラスを残し、ラウンジを出て行く蓮の姿を、村雨は無言で見送った。




下りのエレベーターの中で、蓮は近づいてくる光の洪水を見ていた。

“付き合っている男性はいない”

キョーコはどれほどの想いで、この言葉を口にしたのだろう。

“何か守りたいものがあるんでしょうね”

守りたいもの…それは…

おそらく“俺”だ。

彼女の性格から言って、彼女自身の保身をするとは思えない。
むしろ、彼女が大切にしてきたのは、“敦賀蓮”というアナウンサー
デートしたときも、さかんに“敦賀さんだってばれませんか?”と、警戒していた。
いつだって彼女が真っ先に心配してくれるのは、俺のこと。


空を見上げると、厚い雲に覆われて、月さえ見えない。
今にも雨が降りそうな曇り空に息を吐く。

歯がゆい思いを残したまま、蓮はWホテルを後にした。


(6に続く)

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Comment

羨ましい技術。
私がスキビの二次小説を書くにあたって、間違いなく障害になることの一つに、大人の男性の駆け引きとか、立ち居振る舞いとかの描写が一切書けないということがありまして…。
実は前から思っていたのですが、かばぷー様は、そういう類の表現に非常に長けてらっしゃいますよね…。小説を読んでいて、きちんとした社会人然とした、かつ、知的で、でも攻撃的な(←←この時点で表現がかなりpoorです。こんな陳腐な表現をしたいわけではないのですが)男性達が私を楽しませてくれます。

蓮さん、原作よりもだいぶ大人で。村雨さんへの切り返しも、かなり魅力的です。
いいなあ〰。本当にいいなあ〰。あ〰いいなあ〰。
  • 2016-08-25│20:51 |
  • ぽてとたべたい&ぽてとあげたい URL│
  • [edit]
Re: 羨ましい技術。
> ぽてとたべたい&ぽてとあげたい 様

どうしましょう!!褒められすぎて、鼻血が出そう…。
そう言っていただけて、とても嬉しいです。先にも書きましたが、私、自分で萌えるために書き始めました。
凄く自己満足なんですけど、こういう男性、格好いいなあ。とか、こんな事、言われてみたい~~。とか、小説や漫画を見て、ぎゃ~~~!!!(悶絶)なんていうのを参考にしています。
あとは、昔見たドラマとかね…(今は、なかなかドラマは見ないなあ)
なので、本当に希望的妄想なのですよ?
ただ、どう見えるかな?とか、画像を頭の中でイメージしながら書いているので、頭の中にはいつも蓮さんとキョコさんと、それにまつわる背景がもわわわ~っと動いています。
  • 2016-08-26│18:58 |
  • かばぷー URL│
  • [edit]
表現力(* ̄∇ ̄*)
なるほど!やはり、そういう基盤あっての表現力なのですね。大人の男性陣に限らず、全体的に映像は浮かびやすい描写だなといつも思っておりました。私は日本のドラマは苦手なのですが映画は大好きで、かばぷー様の文章は、私の記憶にあるものが引っ張り出されてきて、とても雰囲気が掴みやすくて好きなんです。
二次小説は、「自分の萌え」が優先ですよね!私もある意味「読みたいものを書いて」いますもん。でも、「 表現力」が足らなさすぎて萌えはイマイチですけどね。
  • 2016-08-26│20:16 |
  • ぽてとたべたい&ぽてとあげたい URL│
  • [edit]
Re: 表現力(* ̄∇ ̄*)
> ぽてとたべたい&ぽてとあげたい 様

勿論今も、日々精進、精進。
本当に素敵マスター様に癒され、学び、ときめく毎日。

人の才能を羨ましく思うのは同じです。
ぽてとさんも凄く切な描写上手だから、勉強させてもらってます!
  • 2016-08-26│20:35 |
  • かばぷー URL│
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