憂鬱な彼と曇り空 6

出勤途中の地下鉄の中で、目の前に見えるスポーツ紙面

“やられた!”
前日の村雨の挑発を裏付ける記事の見出し。

『グリフィンズ村雨 女子アナお持ち帰り』

そこにはタクシーのドアに手をかける村雨の姿と、村雨を振り仰ぐ女性の後ろ姿。

―――紛れも無く、キョーコだ。

蓮の脳裏に浮かぶ、村雨の言葉の数々。
忌々しい曇り空の下、改札から局までの道のりを急いだ。



憂鬱な彼と曇り空 6



出社すると、アナウンス部は別の意味で騒々しかった。
いつもとは違う電話の鳴り方
「その件については広報でお問い合わせを…。」
そんな対応が耳に入る。

先に出社していた社が、静かに蓮に近づく。

「お前…聞いてたか?」
「いえ、何も。」
「今、キョーコちゃんは、すっぱ抜かれた件で、松島部長と局長のところに行ってる。」
「そうですか。」

蓮や社は、この件については完全に蚊帳の外だ。
記事の内容を確認すると、リーグ優勝の祝勝会当日のことらしい。
確かに松島部長の指示で、祝勝会の取材に行っていたキョーコ。
勿論そこにはテレビクルーも、松島部長本人もいたはずだ。

その翌日、つまり昨日は、自分が局インタビューを担当したのだから、1日あけての記事。

何か不自然だ。

この記事が事実なら、なぜ昨日、村雨はわざわざ自分のところに確認に来る必要がある?

“欲しいものは欲しい”なんて、手に入れてないからこその台詞だ。

しばらくして、松島部長に連れられて、キョーコがアナウンス部に帰ってきた。
何事も無かったように、平然とデスクに腰を下ろす。
遠目で見ていると、キョーコと目が合った。

“だ・い・じょ・う・ぶ?”

口パクで問いかけ、首をかしげると、ふわっと笑うキョーコ。
目線をはずすと、メールが来た。

『大丈夫ですよ。ご心配おかけしました。タクシーで送っていただいただけなんです。』


(…びきっ…)


何だそれ?何も無くは無いじゃないか。
送ってもらったって、そんな無用心な。
安心できるどころか、もっと不安になるだろう?。

そんなことを考え中、不穏なエネルギーが滲み出ていたらしい。
社に“おい!蓮!顔!”と声をかけられた。
そして追加でメールが来る。

『本当に何もありませんから!!』

向こうでは、青い顔をして、キョーコが蓮を見ているのが目の端に映った。

ふうっ…と、溜息をついて、とりあえず微笑み返し、蓮は収録に向かった。
その笑顔は、無駄にキラキラして、さらにキョーコと社を縮み上がらせたとは気付かずに…。





その日の夕方には、東都グリフィンズの広報からも、LMEが出した『事実ではない』と、同様のコメントが出てきて、とりあえずその場は収束した。

…かの様に見えた。

しかし、日が経つにつれ、村雨の仕掛けが、じわじわとボディーブローのように効いてくる。

“とりあえずはお友達”
“最上キョーコに好意を抱いている村雨泰来”
“今はまだ片思いだけど、アピール中”
“チームメイトも応援”

完全に外堀から埋める気だ。
日本シリーズ後に何か進展があるのでは?と、村雨×キョーコを期待する世間様の応援ムードがじわりと広がる。

事実、またキョーコとは、半月ほど会えていなかった。
キョーコの周りには、Xデーを狙って張り付く記者たち。
ここで下手に動くと、キョーコに張り付いている記者たちに、有ること無いこと書き立てられる。
自分との社内恋愛も明るみに出るとなれば、キョーコの望まぬ結果になるどころか、キョーコの評判は明らかに下がるだろう。

いい方法は無いものだろうか?

正直、当事者でありながら、蚊帳の外に置かれ、静観できる訳が無い。
それなのに、会うこともままならず、我慢だけしているなんて、性に合わない。
ましてや、こっちはプロポーズまでしている関係なのだ。

(…ん?してる…よな。プロポーズ。)

――そう。プロポーズをしている。

今はまだ、早いとは言われたけれど、断られてもいない。
当たり前だけど、それが真実。

社内恋愛であることを除けば、何の障壁も無い。

日本シリーズまでには、こちらに有利に進めておきたい。
そう思って、蓮は自分を立て直した。
ちょうど、自分の方が先にキョーコにプロポーズをしていると、今更ながら気付いたその日の収録後、蓮は松島部長の呼び出しを受けた。


「おお、蓮。忙しいのにすまんな。」
「いえ。」

「ちょっと、お前に確認しておかなくちゃいけないことがあって…な。」
「はい?何でしょう?」

「最上君のことだ。」

蓮の動きが止まる。

「すまん、もう少し早くお前に確認を取るべきだったと思って。」
「それはどういう…。」

「実は…。」

グリフィンズのリーグ優勝祝賀会の日、松島部長も同行していた取材。
そこで、見たものはチームメイトの応援を受けながら、積極的にアプローチする村雨泰来と、笑顔で全く無関心な態度をとる、我が社の最上キョーコアナ。よくもまあ、こんなにいい男だらけの空間で、慌てず、浮かれず、平静を保っていられるのかと思った程だったそうだ。
終了後、監督に挨拶をして、松島とキョーコがタクシーで帰ろうとした矢先、村雨が同行を求めて、タクシーに乗り込もうとするキョーコを引きとめたらしい。
それが、写真に収められた一枚。
タクシーの中には、勿論、松島部長も乗っていた。
同乗した道すがら、村雨とスポーツ談義をしていたが、話題は恋愛へ…。
LMEが社内恋愛禁止だとか、上手に聞き出す村雨に、ついついアルコールが入っていた松島がポロリとこぼしたようだ。「最上には、付き合っているものなどいない。」と…。

無理も無い…。
それほどまでに完璧に、キョーコは蓮との関係を匂わせないようにしてきたのだから。
当然、その場では“付き合っている人はいない”と、部長の前で言わざるを得ない。だが、一応キョーコは抵抗を試みたらしい。
「好きな人がいる。」…と。



「まあ、それでだな、しばらく最上君を観察したんだ。そうしたら、お前に行き当たった。合ってるな?」
「そう…ですね。正解です。」

「悪かったな。あの娘はお前の範疇に無いと思ってたよ。」
「逆です。寧ろ、俺の方が追いかけている立場ですよ。」

「そうみたいだな。社が教えてくれた。しかし…、お前、局内で初めてのことじゃないのか?よく隠してきたな…。」
「それが最上さんの希望だったので。」

「まあ、そうだ。会社的には切るのはお前じゃない。」
「…。」

「だからこそ、お前も大っぴらにしなかったんだろう。」
「松島部長…勘違いなさっていますよ。俺は別にこの仕事に大儀があるわけじゃない。それをあなたは良くご存知です。」

「まあ、そうだ…。」
「それなら…、俺が身を引くことの方が現実的だと、考えては頂けませんか?」

「ま…まさか…、おい…、本気か?」

ふっと蓮が笑う。
その表情には妙な清々しさがあった。

「ようやく決心がつきました。もし、この関係が処分されるのであれば、俺が引きます。」




(最終話 7に続く)
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